ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「お待たせ~! 女子たちがやって来たぞ~っ!!」
明るく弾けるようなその声に男子たちがばっと勢いよく振り向く。
そして、こちらに向かって歩いてくる女子たちの姿を見て、歓喜の叫びを(心の中で)上げた。
「うおおお……っ! これだ、これこそが青春だ……っ!」
「スク水も良かったけど、やっぱりああいうのだよな……!!」
「ああ……俺は今、天国にいる……!」
色もデザインも様々な水着を纏った女の子たちの姿は、とても華やかだ。
今からあの子たちと遊ぶと思うと、クラスメイトたちが大喜びする気持ちもよくわかる。
「男子ども、感謝しろよ~? お前たちのためにかわいい水着を着てやってるんだからな~!」
「そりゃあもう! 心の底から感謝しております!!」
「ありがたや~! ありがたや~!」
「そう思うなら誠意を見せな。具体的には、腹筋やら背筋やらの筋肉を見せろ」
「へへ~っ! 我々のようなだらしのない体で良ければ、いくらでもご覧になってください……!」
女子たちからの言葉に平伏して感謝するクラスメイトを見て、苦笑を浮かべた僕が視線を別の方向へと向ける。
探していたのはもちろん、ひよりさんの姿で……黄色いフリルビキニを着ている彼女と目を合わせた瞬間、僕の心臓はドクンと高鳴った。
「えへへ~! いえいっ!」
にっこりと笑顔を浮かべながら両手でピースを作り、蟹のようにそれをチョキチョキと動かすひよりさんの水着姿は猛烈にかわいい。
あの水着を買いに行った際に見たはずなのだが、プールというシチュエーションで見ると全く違った感動のようなものがこみ上げてくる。
(本当に僕が選んだ水着を着てくれてるんだな……!)
先ほど、熊川さんは男子のみんなに女子たちはお前たちのためにかわいい水着を着てきたと言っていたが……ひよりさんの場合は、ちょっと違う。
彼女は僕が選んだ水着を僕の前で着てくれているわけで、そう考えるとひよりさんは僕のためだけのあの水着を着てくれたということになる。
改めてそのことを実感すると、感情がヤバい。語彙力がなくなってしまうくらいに嬉しいものが心に込み上げてくる。
これが恋人の醍醐味というやつなのかと僕が考えていると、ニヤニヤ顔の熊川さんが声をかけてきた。
「おやおや、尾上く~ん! 随分とひよりに熱~い視線を向けちゃってるね~! かわいい彼女の水着姿に見とれちゃってたのかな~?」
「うっ……! せ、正解です……!!」
ばっちりとその場面を目撃されていた僕が正直にそう答えれば、熊川さんたち女子たちがさらにニヤニヤし始めた。
他でもないひよりさんもまた誰よりもニヤニヤと笑いながら鉢村さんと話をしていく。
「いや~、いいね~! 他の女子たちなんて眼中にない! って感じの熱視線、ちょっと羨ましいわ~!」
「あははははっ! だってさ~! 誰か、玲香の水着姿を思いっきり見てあげたら~?」
「おっしゃ任せろ! 隅々まで見させていただきます!」
「鉢村さま~! ありがたや~! ありがたや~!」
「う~ん……ここまで真っすぐなスケベ心を全開にされると、まあ微妙に嬉しいという気持ちが勝つかも。でも私は見られるよりも見たい派なんだよ! オラッ! お前らの筋肉見せろっ!! だらしない体してる奴はプールに蹴り飛ばすからなっ!!」
「あっ、ちょっ、待って!! 鉢村さま! そんなご無体はおやめくだされ~っ!!」
ひよりさんに促された男子たちからご参拝ならぬご参
ラッシュガードを羽織っている男子たちの体を舐めるように見つめつつ、腹筋を見せるように迫るその姿に僕たちが面白さと恐怖の感情を同時に抱く中、こっそりと近付いてきたひよりさんが言う。
「もう、見過ぎだよ。あんなのみんなにバレバレじゃん……!」
「あっ、ご、ごめん……」
「謝らなくていいよ。別に嫌じゃないっていうか、嬉しかったしさ!」
少しハートマークを散らしながら僕にそう言ったひよりさんは、実に嬉しそうだ。
今日はいつにも増して上機嫌だなと思う僕に対して、今度は熊川さんが話しかけてくる。
「この~っ! こっそりイチャつきやがって~! ラブラブカップルはいいね~!」
「本当だよ。でもまあ、色々大変だったけどようやく公表できて良かったな!」
「うん。ありがとう、遊佐くん」
熊川さんに続いて声をかけてきた遊佐くんにそう応える。
僕とひよりさんが付き合っていることを知っていた数少ない友人である彼の言葉に感謝する中、遊佐くんが熊川さんに声をかけた。
「それはそれとして……熊川さん、水着似合ってるね! かわいいと思う!」
「おっ、サンキュー! ひよりと玲香に挟まれたら惨めになるだけだから、普通に体形隠せる水着にしたんだけど、褒めてもらえて嬉しいよ!」
「いやいやいや! 男がみんな胸ばっか重視するってわけじゃないしさ! なっ、尾上!?」
「えっ? ああ、うん。そうだね」
嬉しそうに笑う熊川さんは、確かに体形のわからない水着を着ていた。
だぼっとしたTシャツとこれまた少しサイズの大きい短パンにも見えるそれは、服見え水着というやつなのだろう(ひよりさんに教えてもらった)。
個人的にはあまり目のやり場に困らないし、白と水色の青空を思わせる爽やかな色合いとスポーティなデザインは熊川さんに似合っていると思う。
……という話はさておき、やっぱりそうなんだな~と思いながら僕は遊佐くんを見る。
薄々感付いてはいたが、彼は熊川さんに好意を寄せているようだ。
以前、夏祭りの時に彼にアシストしてもらった身として、ここでそのお返しをしてあげたい。
友人として、友達の恋路に協力するのは当たり前のことだし……と僕が考えている間も、二人は話を続けていた。
「遊佐くんも尾上くんもありがとうね! 男がみんな、おっぱいが好きなわけじゃない……尻フェチの尾上くんに言われたら、そうかもって思えてきたよ!」
「それはよかっ……いや、良くない! 今、絶対に見過ごせない発言があったよね!?」
「小さいことは気にすんなよ、尾上! ほら、みんな移動するみたいだし、俺たちも行こうぜ!」
「待って! その誤解、どこまで広がるの!? 尻フェチキャラが定着したら困るんだけど!?」
「大丈夫だよ、雄介くん。あたしはわかってるからさ!」
「そもそもの原因はひよりさんだよね!? 嫌だよ、僕! クラスのみんなからお尻好きだって思われるの!!」
友人への協力だとかそういうのが吹っ飛ぶくらいの問題に直面した僕がツッコミを入れるも、誰も聞いてくれてないようだ。
夏休み明け、僕とひよりさんが付き合っていることよりも僕が尻フェチだという間違った情報の方が広まっていたらどうしようと思いながら、僕はクラスのみんなとプールでの遊びを楽しみ始めた。