ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「大丈夫か、尾上? 結構いい勢いでぶつかられてただろ?」
「ああ、うん。平気だよ。びっくりしただけで、あんまり痛くなかったし……」
「ひよりはどうしてあんな感じになっちゃったわけ? ある意味ミラクルでしょ?」
「その、スライダーの出だしでいきなり浮き輪ボートから振り落とされちゃって……ひっくり返った状態で色々もがいてたら、あんなことに……」
ウォータースライダーでの劇的な事件の後、僕とひよりさん、遊佐くんと熊川さんは他のみんなと別れて休憩ゾーンにやってきていた。
理由は単純で、ひよりさんの強烈なヒップアタックを顔面に受けた僕の様子を見るためだ。
鼻血を出したり、意識を失ったりといったことはなかったし、実際受けた後の感想としては驚いたけどそこまで痛いわけではなかったという感じなのだが、見ている側としては心配になるものがあったのだろう。
まあ確かに、柔らかい部位とはいえ、それなりの重量を持つ物体が結構な勢いで顔面にぶつかる光景を見たら、誰でも心配するよな……と考える僕へと、若干凹み気味のひよりさんが頭を下げてきた。
「本当にごめん……ぶつかったこともそうだけど、乗っかったまま水の中に押し込んじゃったせいで雄介くんが溺れかける羽目になっちゃったし、なんかもう、色々と申し訳なさ過ぎて……」
「ひよりさんが悪いわけじゃないよ。そもそも、僕がスライダーの出口でうろうろしてたのが原因だしさ」
「でもやっぱりやらかしちゃった感じがすごいし、何よりその、結構恥ずかしいっていうか……あうぅ……!!」
申し訳なさと恥ずかしさを同居させた表情を浮かべていたひよりさんが、顔を真っ赤にしながらその場にしゃがみ込む。
両手で顔を覆った彼女を苦笑しながら見た僕は、自分の頭を搔きながら口を開いた。
「こういうハプニングも遊びに行った時の醍醐味みたいなものだと思うし、半分は僕のせいだしね。むしろ、ひよりさんを恥ずかしい目に遭わせちゃったわけだし、謝るのは僕の方だよ」
そもそも論ではあるが、スライダーの出口付近をうろついたら危ない目に遭うことなんてわかりきっている。
ひよりさんはボートから振り落とされただけで、それ自体は悪くもなければ問題があることでもないわけで……事故の原因が僕にあることは明らかだ。
だから気にしないでほしいとひよりさんに伝えれば、彼女は顔を覆う手を少しだけ外して頬を抑えながらこちらへ視線を向けてくれた。
そのタイミングで、熊川さんが僕へとこんな質問を投げかけてくる。
「そういえば、なんで尾上くんはあそこをうろついてたの? 危ないことはわかってたわけでしょ?」
「あ~……スライダーを滑り終わった後でひよりさんがいないことに気付いてさ、どこかで溺れてるんじゃないかって思ってパニックになっちゃって、自分がどこに立ってるかわかってなかったんだよね」
「そう考えると、俺が声をかけたタイミングも悪かったのかもな。尾上が出口の近くにいるのが見えたから慌てて声をかけたんだけど、あのせいで足が止まっちゃったわけだしさ」
「そこでちょうどあたしが滑ってきて、お尻でど~んしちゃったってことか……なんかもう、色々と間が悪かったんだね」
「いや、むしろ奇跡じゃない? 今の話を聞いて改めて考えてみたけど、ミラクル連発し過ぎでしょ!?」
色んな偶然が重なった末の事故であったことを振り返った僕たちであったが、それを確認した熊川さんが実に軽く明るい口調でそう言った。
確かにその通りかもしれないと思いつつ、僕も苦笑しながら同意する。
「そうだね。しかも、結構派手にぶつかった割には怪我もなかったわけだし、そこも奇跡じゃない?」
「確かに!! そう考えるとむしろこれって尻フェチの尾上くんにとっては事故っていうよりラッキースケベなのでは!? ひよりのデカケツを顔面いっぱいで感じられたんだからさ!」
「ちょっと! 毎回のように人のお尻をデカケツ言わないでよ!! 否定できないけどさ!!」
「あと、僕も尻フェチじゃないからね? そこは本気で否定させてもらうから!」
そうやって二人で突っ込んだ後、みんなで大笑いをする僕たち。
ちょっと前までの心配ムードが払拭される中、笑って話を聞いていた遊佐くんが僕へと言う。
「そこまでツッコめる元気があるんだったら心配なさそうだな。まあ、もうちょっと休んどけよ。冷たい飲み物でも買ってくるからさ」
「ありがとう。気を遣わせちゃってごめんね」
「いいってことよ。あ~……熊川さん、悪いんだけど買い物手伝ってくれない? 俺一人だと四人分の飲み物は運べそうにないからさ……」
「うん、いいよ! じゃあ、お二人さん! 私たちはゆ~っくり買い物してくるから、恋人だけの素敵な時間を過ごして待ってろーよ!」
僕たちを二人きりにする……と見せかけて、自然な流れで熊川さんと二人っきりになる状況を作ってみせた遊佐くんの技術に、僕は心の中で舌を巻いた。
小さく拳を握り締めてガッツポーズをする彼を見ながら、改めて頑張ってほしいな~と考えていた僕は、飲み物を買いに行った二人の背中が見えなくなったところでひよりさんへと声をかける。