ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「恋人だけの素敵な時間って言われても……周りがこれじゃあ、ねぇ?」
苦笑を浮かべるひよりさんが言う通り、僕たちの周囲にはたくさんの人たちがいる。
家族連れだったり、友達同士で遊びに来た歳の近い人たちだったりがわんさかいる以上、二人きりというわけではないのだ。
「まあ、やろうと思えばできなくもないけどね~! こう、抱き締め合ってからのチュー、みたいな?」
「できなくもないけどやれないよ。こんな人の多いところじゃ恥ずかし過ぎるって」
だよね、とこれまた苦笑をひよりさんが頷きながら言う。
知り合いがいないとはいえ、子供の姿もちらほら見えるこのプールで大胆な真似などできるわけがないと、改めて僕がそう考えた時だった。
「あ……!」
僕の反対側にある何かを見たひよりさんが、驚きに目を丸くしながら呟いた。
彼女をそんなに驚かせるものとは何なのかと思いながらそちらを向けば、ちょっと派手な雰囲気のカップルがいるではないか。
プールサイドに座った状態で体を寄せ合い、一目でわかるくらいにイチャついて……と周囲の目など全く気にしていないそのカップルたちは、そのまま楽しそうに笑い合うとおもむろにキスをしてみせた。
こんなに人がいるところで、僕たちのように見ている人もいるだろうに、あんな大胆なことをする人たちがいることに唖然としていた僕は、逆に恥ずかしくなって視線を逸らし、ひよりさんに声をかける。
「あ~、えっと……す、すごい人たちがいるね……!」
「う、うん。あれは流石にびっくりだなぁ……!!」
カップルの熱烈なキスを見てしまったひよりさんも顔を赤くして恥ずかしがっているようだ。
妙な展開になったせいで気まずさがすごいことになってしまったぞと地味に焦る僕へと、ほんのりと頬を染めたひよりさんが言う。
「そういえば、だけどさ……あたしたち、あれからしてないよね?」
「し、してないって?」
「だから、その……花火大会の日に一回しただけで、それ以降はキスしてないよねって……」
少し言いよどんだ後でひよりさんが発した言葉を聞いた僕の心臓が大きくドクンと鳴る。
花火大会のあの日、二人きりの公園でした口付けを思い出した僕が顔を真っ赤にすれば、ひよりさんもまた耳まで顔を赤くしながらこう続けた。
「なんかごめん。変なタイミングで変なこと言っちゃった……」
「い、いや! いいんだよ! その、気持ちはわかるし……!」
あんな熱烈なキスを見てしまったら、そのことを思い出してしまうのも当たり前かもしれない。
ただやっぱり自分たちがしたこととはいえ、そういうことを改めて振り返るのは恥ずかしいものだよなと考えながら熱くなっている顔を冷ます僕へと、上目遣いのひよりさんがこんな質問を投げかけてきた。
「あの、さ……雄介くん、あたしとまたキスしたいって思う?」
「ぶふっ!?」
突拍子のないその質問に盛大に吹き出した僕が彼女を見れば、ひよりさんは何かに期待しているように瞳を潤ませていた。
真剣とも深刻とも取れるその表情に息を飲んだ僕は、ぶり返しそうになる顔の熱を必死に抑えながら、呻くような声でその質問に答える。
「そりゃあ、
「ふふっ……! そっか。じゃあ、あたしと同じだね……!」
僕の答えを聞いたひよりさんは、嬉しそうに笑った。
そのまま自分の手を僕の手に重ね、すっと距離を詰めてくる。
花火大会のあの日のように横に並んで、お互いに逃げないように相手を捕まえて……そんなやり取りを彷彿とさせるひよりさんの行動に思わず息を飲んだ僕は、空いている方の手でそっと彼女の額を押さえて制止した。
「す、ストップ! 節操なくいつでもどこでもはしないって言ったでしょ!?」
「え~? 何をそんなに慌ててるのかな~? あたしはただ、雄介くんに近付いただけなんだけど……何をされると思ったのかにゃ~?」
「うぐぅ……!」
見事にフェイントに引っ掛かった僕は、何も言えずに唸ることしかできなかった。
ひよりさんはそんな僕を見つめて楽しそうに笑った後、ちょっとだけ声のトーンを落として言う。
「今、同じ場所に住んでるけどさ……なかなかチャンスがないよね。絶対、家族の誰かがいるしさ」
「あ~……うん。でも、二人っきりの状態の方が危ないと思うけど?」
「いやんっ♥ 雄介くんがそんなケダモノみたいなことを言うだなんて……!!」
「……僕は、大人数よりも少人数の方がセキュリティの意味で安心できないって意味でそう言ったんだけど、どこがケダモノなのかな?」
「むっ……!」
なんだかそう返される気がしていたから、前もって用意しておいた返しと質問をひよりさんへと投げかけてみた。
先ほどのお返しをくらったひよりさんは小さく唸った後、にやっと笑ってこう答える。
「やり返してくるとは生意気な……! 雄介くんが手強くなってきて、あたしは悲しいよ」
「慣れてるってわけじゃないけど、流石にお尻をぶつけられた直後ならちょっとやそっとの弄りじゃ動じないよ」
「え~? とかなんとか言いつつ、結構ご褒美だと思ってたでしょ~? 本当は嬉しかったくせに~!」
そう言いながらひよりさんがぐりぐりと小さな拳で僕のわき腹を押し込んでくる。
かわいらしいその行動にちょっとだけ心を弾ませながら、もしかして僕たちもさっきの二人に負けず劣らずのバカップルっぷりを見せつけているんじゃないかと考えた僕は、苦笑を浮かべるのであった。