ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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紫村さんの様子が変……?

 

「様子が変? どういうこと?」

 

 遊佐くんの意味深な言葉に僕もまたしかめっ面になりながら問いかければ、彼は難しい顔でこう話してくれた。

 

「バスケ部での話なんだけどさ、何かにビビってるみたいなんだよ。しきりに周囲を気にしたり、小さなことでもビクついてるっていうかさ……」

 

「紫村が? 何それ? 何にビビってるわけ?」

 

「わかんねえ。ただ、江間とのことがあってから気分が優れないって練習を休みがちになってたのが、ビビりながらも来るようになってきてるんだ。だからなんか、よくわかんねえなって……」

 

 紫村さんは江間のストーカー被害に遭った女の子として扱われている。僕たちは彼女のことを信じていないが、何も知らない他の子たちは紫村さんに同情しているようだ。

 しかし、事情を知っている遊佐くんが語る今の彼女の様子を聞くと、確かに変だと思ってしまう。

 

「大方、可哀想な被害者扱いしてほしいから、怖がってる演技をしてるんじゃないの? 江間のストーカー被害を受けてたのはひよりの方で、あいつは都合が悪くなった江間を捨てた、クソ女じゃん。そのくらいのことはしてもおかしくないでしょ?」

 

「俺もそう思ったし、部活をストーカー被害を理由に練習を休んでたのもサボリだと思ってる。だけど、最近はそんな感じじゃねえんだよな。今までの嘘っぽさを見てたからこそ、今が本気でビビってるっぽいことがわかるっていうかさ……」

 

「他のバスケ部の人たちとか、マネージャーさんは紫村さんのことをどう見てるの?」

 

「部員は結構同情的だよ。特にキャプテンとかはかなり気にかけてる。でも、マネージャーたちの方はなんか微妙だな……」

 

「微妙って、嫌われてるってこと?」

 

 率直な僕の問いかけに対して、遊佐くんが顔を歪めながら頷く。

 はぁ~とため息を吐きながら背もたれに寄り掛かった鉢村さんは、僕たちに向けて女子としての視点から意見を述べた。

 

「同じ女子同士、紫村の汚いところを感じ取ってるんだろうね。紫村が他のマネージャーに何かやった可能性もあるし、逆にバスケ部の連中や顧問にちやほやされるあいつが気に入らないとかあるんだと思うよ」

 

「単純に休んでる最中にマネージャーの仕事を押し付けられた恨みもあるかもしれないけど……しでかしたことを考えると、性格の悪さを見抜かれてるって可能性も十分にありそうだ」

 

「そうかもな。俺も同情するつもりはねえけど、一応はお前の耳に入れといた方がいいかもしれないって思って、いい機会だから話をさせてもらった。でも、あんまこういう場で話すことじゃなかったかもな……」

 

「そんなことないよ。教えてくれてありがとう、助かった」

 

 同じバスケ部に所属している遊佐くんだからこそ、紫村の状況について知っていることもある。

 江間の時もそうだったが、色々と僕たちに気を遣ってくれる彼には感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

「悪いな。ただまあ、そういう感じだから紫村さんがお前らに関わることはないと思うぞ。自分のことで精一杯って感じだったからさ」

 

「だったらいいけどね。元カレの方もよくわかんないムーブかましてくれたし、油断しない方がいいと私は思うな」

 

「……そうだね。ひよりさんを守るためにも、警戒していくよ。色々ありがとう」

 

 二人からの忠告に感謝しつつ、今後もどうなるかわからない自分たちを取り巻く状況に僕は警戒を強める。

 そうしている間に料理を取り終わったひよりさんたちが、ほくほく顔でテーブルへと戻ってきて、声をかけてきた。

 

「たっだいま~! どしたの? なんか深刻そうな顔してるけど、何かあった?」

 

「いや、別に。温泉も入ったし、ちょっとお腹が膨れてきたせいか眠くなってきたねって話してたところ」

 

「ひよりさんたちが戻ってきてくれて助かったよ。賑やかなメンバーがいないと、どんどん眠くなってきちゃうからさ」

 

「そうそう。尾上も鉢村さんも物静かな方だし、俺も疲れで口数少なくなってたから、ヤバかったって」

 

 あまり紫村さんのことをひよりさんの耳に入れたくなかった僕たちは、上手いこと口裏を合わせてその場をごまかした。

 そんな僕たちの話を聞いていた熊川さんが、眉をひそめながら口を開く。

 

「ちょっと気になったんだけどさ、二人っていつまでお互いを苗字で呼んでるの?」

 

「二人って……僕と遊佐くんのこと?」

 

「うん。結構仲も良いし、()()()()についても知ってる数少ない相手同士なわけじゃん? なのに苗字呼び続けてるから、変だな~? って思ってたんだよね~」

 

「ああ、それあたしも気になってた。男の子同士なんだから、そんな緊張せずに名前で呼べばいいんじゃない?」

 

「……って、愛しの彼女さんから言われてるけど、どうするよ?」

 

「言い出したのは熊川さんだけどね。まあ、いいんじゃないかな?」

 

 お互い、好きな女の子から話を振られた僕たちが苦笑を浮かべながら話をする。

 そうした後で一度口を閉ざした僕たちは、改めて短い会話を繰り広げた。

 

「俺の名前、わかんねえってことはないよな? ()()?」

 

「もちろん覚えてるよ、()()

 

 そう言い終わった後、なんだかおかしくなって二人同時に吹き出してしまった僕たちのことを、ひよりさんたちが楽し気に笑いながら見守っていた。

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