ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ただいま~」
「お帰りなさい……って、あらあら」
家に帰った僕は、玄関の扉を開けてくれた母の楽しそうな笑みを見て、複雑な表情を浮かべた。
母の視線は僕……ではなく、僕に背負われているひよりさんに向けられている。
すやすやと寝息を立てている彼女を見つめた母は、にやにやと笑いながら僕へと質問してきた。
「どこからそうしてきたの?」
「普通に駅からだよ。バスを降りてから電車に乗ったんだけど、そこでひよりさんも限界みたいだったから……」
「ふ~ん、そうなの……!」
とても楽しそうに笑う母の様子に渋い表情を浮かべながら、僕は家に入った。
お土産をはじめとした荷物を玄関に置いた後、僕はひよりさんに声をかける。
「ひよりさん、家に着いたよ。ほら、起きて」
「ん~……? ん、うん……」
僕に声を掛けられたひよりさんが、軽い反応を見せる。
まだ眠そうにしながらむにゃむにゃと寝言を呟く彼女であったが、その口元に小さな笑みが浮かんでいることに気付いた僕は、目を細めながらひよりさんへと言った。
「……ひよりさん、実は起きてるでしょ?」
「あ……バレた?」
狸寝入りがバレたひよりさんの反応はあっけらかんとしたもので、にやっと屈託のない笑みを向けながらそんなことを言ってくる。
よくも騙してくれたなと僕が視線で責める中、彼女は笑いながらこう答えてみせた。
「眠さの限界だったことは本当だよ? でもほら、おんぶされてる最中に揺れで段々目が覚めてきたっていうかさ~!」
「だったらそこで起きれば良かったじゃないか。楽したいからって寝たふりまでして……!!」
「ごめん、ごめん! でもほら、お礼としていっぱいおっぱい当ててあげたからさ! それで許してよ!」
「あれもわざとだったの!? ちょっと気まずかったんだけど!!」
なんだか背中にすごく胸が当たっているなとは思ったが、眠って脱力しているせいで重心が前に傾いているせいだと思ってた。
あれがわざとだったと知った僕は、駅から家まで罪悪感と苦悶を抱き続けた自分が馬鹿みたいじゃないかとツッコむも、ひよりさんは笑ったままだ。
「それにしても、雄介くんの背中って大きいね~! 安定感抜群だったよ!」
「もう、からかわないでって! っていうか胸を押し当てるの止めて! いい加減に降りて!!」
「え~? いいじゃんいいじゃん! もうちょっとだけ、ねっ?」
バレたのをいいことにぎゅ~っと抱き着いてくるひよりさんに僕は大慌てだ。
流石に彼女を振り落とすわけにもいかないので説得するしかない僕が背中に当たる大きくて柔らかい感触にあたふたする中、その様子を見守っていた母が口を開く。
「いや~……若いっていいわね~。でも、時間も時間だし、そろそろ落ち着いてくれるとお母さん的には助かるかな~?」
「あっ、ごめんなさい。はしゃぎ過ぎちゃいました……」
「ひよりちゃんはいいのよ~! 雄介、あんたはしっかりしなさい!!」
「なんで僕だけ!? 悪いところないじゃんか!!」
なんだかオレンジの鎧武者にだけ厳しい昭和のレジェンド的なレベルの母の理不尽な厳しさに文句を言う僕であったが、特に効果はないようだ。
ひよりさんがようやく背中から降りる中、僕たちから荷物やお土産を受け取った母はリビングに向かいながら言う。
「お風呂を沸かし直しておくから、早めに入ってね。今日は疲れたでしょうから、ゆっくりした後で早めに寝ちゃいなさい」
「はい! ありがとうございます!」
びしっ、と手を上げて返事をするひよりさんへと、母が笑顔で頷く。
リビングに消えた母を見送った後、僕はひよりさんを見ながら口を開いた。
「先に入っていいよ。女の子は髪とかしっかり洗いたいだろうし、僕は別に急いでないから」
「いや、それは悪いよ。あたしをおぶってくれたわけだし、先に雄介くんが入りなって!」
僕としては別に疲れてないし、気を遣う必要もないから先を譲ったのだが、ひよりさんも僕に先に入ってほしいみたいだ。
なんだかんだでまだ眠いだろうし、僕のことは気にしないでほしいな……と思う中、彼女はにししといつもの笑みを浮かべながら甘い声で囁いてきた。
「じゃあさ、折角だし……一緒に入っちゃう? 今回は二人っきりだし、水着なしでもいいよ~!」
「んっ、んんっ! 良くないから! 絶対にダメだから!!」
「え~? いいじゃ~ん! あたしのことをおぶってくれた雄介くんの広~い背中、心を込めて洗わせてもらうからさ~!」
さっきまで眠そうだったのに急激にプールで遊んでいた時みたいに元気になったひよりさんが僕をからかい続ける。
それを止めながら先にお風呂に入るように促す僕とのやり取りは母が再び様子を見に来るまで続けられ、やっぱり僕は理不尽にツッコまれる憂き目に遭うのであった。