ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
尾上家・ある夜の出来事
――ひよりさんが我が家に泊まり始めてしばらくの時が過ぎた。
最初はひよりさんも僕たち家族も緊張していた部分があったが、今ではすっかりフランクになっている感じだ。
全く気を遣わないわけではないが、家族の一員として迎え入れられている彼女との生活はとても楽しいし、母も弟たちも同じ気持ちだ。
ひよりさんの方も一緒に遊んだり、夏休みの宿題を片付けたり、弟の部活の応援に行ったり……と、この日々を満喫してくれていると思う。
そんな感じで僕たちは家族で仲良く楽しい夏休みを過ごしていたわけなのだが……決して、何一つとして問題のない日々を過ごしていたわけではない。
というより、長く時間を過ごすことで判明する問題があったりもするというか、そろそろ我慢の限界になるとある事象に直面した僕は、ある日の朝、そのことをひよりさんに訴えかけていた。
「あのさ、ひよりさん……あれ、どうにかならない?」
「ん? あれってなぁに?」
「いや、だからその……下着だよ。僕の部屋に干されてる、ひよりさんの下着!」
半ばヤケクソに叫ぶ僕の最近の悩みがそれだ。
何を隠そう、ひよりさんの下着をはじめとした服たちは全て僕の部屋に干されているのである。
同棲生活初日にも話したと思うのだが、これは本当に仕方がないことだ。
明らかに母のものではない女物の服が普通に干されていたら、見る人が見ればこの家に若い女の子が住み始めたということがわかってしまうのだから。
それを隠すためにも、全ての衣類は部屋干しすることになっていたのだが……それに僕の部屋が使われているというのが問題だ。
いや、これも仕方がないということはわかっている。
普通の服だけならまだしも、ブラジャーやショーツといったひよりさんの下着がリビングに干されていたら、弟たちもひよりさん本人も色々と気まずいと思うし、僕もなんか微妙な気持ちになるだろう。
だが、朝起きて顔を上げたら視線の先に日替わりで彼女の下着が干されているという状況は、精神衛生上よろしくないということもわかってほしい。
「なんか他に方法ないの!? 誰も使ってない部屋に干すとかさ!?」
「そういうところは日当たりも良くないのよ。ひよりちゃんの服がカビちゃったりしたら大変でしょう?」
「義姉さんも俺たちに気を遣ってくれてるわけだしさ、そもそも雄介も俺たちが義姉さんの下着を見たりしたらブチギレそうじゃん?」
「いや、そうかもしれないけどさ……!」
「じゃあもうお前が慣れるしかねえじゃん。それがベストだろ?」
それはその通りなのだが、やはり部屋の中に四六時中彼女の下着がある状況というのは気持ちが落ち着かないものだ。
うむむ……と唸る僕に対して、申し訳なさそうにひよりさんが言う。
「ごめんね、雄介くん。色々と負担掛けちゃってさ……」
「あ、いや、その、ふ、負担とは思ってないよ? ただちょっと、気持ちが落ち着かないってだけで……」
普段のからかいモードとは違う、割と真面目に凹んだ様子を見せるひよりさんの反応に慌ててフォローを入れる僕であったが、そんな彼女の姿を見た家族がブーイングをかましてきた。
「こら、雄介! ひよりちゃんを凹ませるんじゃないわよ!」
「そうだぞ! そもそもお前が若干嫉妬深いことが原因の一つなんだから、仕方ないだろ!?」
「っていうか、義姉さんも納得の上で下着を干してるわけだし、開き直ればいいじゃん! 世の男からしてみたら普通に羨まし過ぎるシチュエーションだぞ!?」
「ま、待ってください! 今回はあたしが原因ですし、雄介くんを責めるのはちょっと違うっていうか……」
「いやいや、義姉さんは悪くないっすよ! 雄介がヘタレなのが問題なわけですし!」
「そうそう! ヘタレ雄介が悪い!!」
「なんだとぅ……!?」
いつも通りの理不尽ブーイングは、ひよりさんの制止を受けても止まる気配がない。
家族からのヘタレコールに青筋を浮かべた僕は、久方ぶりの反撃を決意すると共に口を開いた。
「そうか、そうか。僕がヘタレなのが悪いってか? まあ、一理あるよ。だが、そこまで人をヘタレ呼ばわりするなら、自分たちはそうじゃないって証明できるよなぁ?」
「「え……?」」
笑みを浮かべながらの僕の言葉に何か嫌な予感を覚えたであろう弟たちが口を閉ざす。
しかし、絶対にやり返すことを誓った僕は胸に復讐の炎を燃え上がらせながら、そんな家族へと言った。
「今夜、自分たちがどれだけ勇敢か、証明してもらおうじゃあないか……! 絶対に逃げるなよ……!! ってか、逃がさないからな!!」