ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「おぉ……! この世界に神はいないのか!? どうしてここまで残酷なことを!?」
「俺たちが何をしたっていうんだ!? これは罠だ! 粉バナナ!!」
「うるさいぞ。大人しく座ってろ」
時間は過ぎて夜の七時。本日は早めに晩御飯を食べ終えた僕たち家族は、テレビの前に並んで座っていた。
……正確に言えば、泣きわめく弟たち二人を強引にテレビの前に座らせている、というのが正しい。
用意した座布団の上に座らせ、逃げようとする度に視線を向けてそれを制する僕は、怒りと喜びを入り混じらせた笑みを浮かべながら口を開く。
「『心霊映像100連発! 世界で一番怖い夜!!』……いや~、楽しみだな~! ちょうどいい機会だし、人をヘタレ呼ばわりしたお前たちの勇敢さをしかと見せてもらおうじゃないか……!!」
「やめて~! 俺たちがホラー苦手なの知ってるだろ!?」
「俺たちに苦手なことを強いるだなんて、それでも長男かよ!?」
泣き叫ぶ弟たちであったが、そんなことで僕は許したりしない。
今日は存分に復讐させてもらおうと考える僕のすぐ近くで、弟たちがひよりさんに懇願する。
「義姉さん、お願いします! 雄介を止められるのはあなたしかいないんです!」
「何卒! 何卒、お慈悲を……!!」
「う~ん……でも今回は二人にも非があるし、雄介くんも可哀想だったからな~……」
流石はひよりさん、大事な時には僕の意見を通してくれる。
ひよりさんの無慈悲な答えに愕然とした弟たちは、絶望の表情を浮かべながら嘆き始めた。
「何もかもおしまいだぁ……どうすることもできない……」
「い、いや、まだワンチャンあるかもしれないぞ! こっそり、こっそ~り逃げれば――!!」
「どこへ行くんだぁ? 雅人、大我?」
「シュワット!?」
「ば、番組を見る前に、ちょっとトイレに……!」
「一人用のトイレに、二人でかぁ?」
「お助けください!! 許して!!」
立ち上がって逃げようとする二人の肩をそっと(そっととは言ってない)掴み、そのまま下へと押し込む。
正座する形で再び座る羽目になった二人が抵抗を諦めたことを確認した僕は、弟たちが逃げ込もうとしたトイレに籠城する母を呼ぶために扉を激しくノックする。
「ほら、母さん! 雅人も大我も観念したんだから、諦めて出てきなさい!!」
「よよよ……! い、いったいいつからこんなことをする子になっちゃったのかしら……? お母さん悲しい!」
どの口が言うか、と思いながら僕がドアをノックしまくる中、リビングではひよりさんが弟たちに素朴な疑問をぶつけていた。
「もしかして二人とお義母さんってホラー系の番組とか映画、苦手なの?」
「イクザクトリー、正解です! なので今、おしっこチビりそうになってます!」
「そして雄介は我が家で唯一ホラーに強固な耐性を持つ人間! ジェットコースターは家族で唯一ダメなのに、どうして……!?」
「そこは父親似なんでしょうね……私は大のホラー嫌いだし、あんたたちは私に似たのよ……」
そんな会話を繰り広げるひよりさんたちの元に観念した母親を連れて行けば、全ての準備は完了だ。
死刑執行を目前とした囚人たちのような表情を浮かべる家族たちの前でテレビをつけ、部屋の電気を消した僕は、用意してあった座布団の上に座った。
「ち、ちなみに、ひよりちゃんはホラーって得意?」
「あ~……どっちかっていうと苦手ですね。でも、お義母さんたちほどじゃないかな?」
「そ、そう……! ね、ねえ、雄介? せめて私の隣にひよりちゃんを座らせてもらえない? それで怖さが多少軽減されるから!」
「ええ? まあ、別にいいけど……」
現在、僕は五人並んでいる列の真ん中に座り、右に母が、左にひよりさんがいる状況だ。
その僕とひよりさんの位置を変えてほしいと頼んできた母に応えるために立ち上がろうとしたのだが、そこでひよりさんが待ったをかける。
「あ、ちょっと待った。そんなことしなくっても、こうすればよくない?」
そう言った彼女がよじよじと僕に近付いた後、大きなお尻を浮かせて軽く立ち上がった。
そのまま、崩れた形の体育座りをしていた僕の脚を開いたひよりさんは、そこに自分の体を収めるようにして座ってみせる。
「これでよし! ほら、雄介くんもぎゅ~ってして!」
「え? あ、うん……」
思わず言われた通りにしてしまった僕がひよりさんを背後から抱き締めるように腕を回せば、彼女は嬉しそうに笑って僕へと体重を預けてきた。
「えへへ~……! あたし専用席の完成だ! お義母さんも、これで大丈夫ですか?」
「えぇ? え? ええ……」
「おい見ろ大我、あの母上が圧されてるぜ……!!」
「恐ろしくノータイムなイチャつき、俺たちでなきゃ見逃しちゃうね」
ひよりさんをすっぽりと抱きすくめる格好になった僕が左右から聞こえてくる家族の反応に微妙な気恥ずかしさを抱く。
こっそりと脚の組み方を変え、ひよりさんのお尻を囲うようにあぐらっぽい座り方をすれば、彼女はそんな僕の脚を挟むような体育座りの姿勢を取る。
「んっふっふ~……♥」
満足気に笑いながらそっと自分を抱き締める僕の腕に手を添えたひよりさんを見ていると、なんだか嵌められた気分になってくる。
別に嫌なわけじゃないんだが……と考えている間にホラー特番の放送が始まっていたのだが、今の僕はテレビに集中できる状況ではなかった。