ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
『こちらを見つめるこの世のものとは思えない女……これは我々への警告なのだろうか……?』
「なんか普通だね。あるあるって感じ」
「まあ、こんなもんじゃない? こういう番組って毎年、似たような映像を流してるしさ」
ホラー特番の中身は、実にあるあるな内容だった。
どこかで見たような心霊映像や心霊写真を紹介し、それにおどろおどろしい効果音やナレーションを付けることで少しでも怖さを増させようとする。
さらに出演者たちの大きな悲鳴や霊能者の神妙な顔を時折流して、場を盛り上げて……というのは、こういった番組の
ぶっちゃけ、そこまで怖くない。というより、全く怖くない。
去年も似たようなものを見た気しかしない僕としては、あくびが出るくらいに物足りない内容だったのだが……?
「ひぃ、ひぃぃ……! あがががが……!?」
「ふっ、ふふ、ふ、ふ~ん? ややや、やるじゃん?」
「ちょっともうその『おわかりいただけただろうか?』止めなさいよ! 映像よりもその声が怖いじゃない!!」
僕としては全く怖くなかったのだが、ホラーが苦手な家族には大分刺激が強かったようだ。
恐怖に震えたり、無駄に強がったり、逆切れしたり……我が家族ながらバリエーション豊かな反応を見せてくれている。
「う~ん……よくもそこまで怖がれるよなぁ……」
「雄介が強過ぎるんだよ! 普通にホラー耐性があるのに義姉さんでさらにバフ盛られたら、そりゃあ何も怖くなくなるわ!!」
「そのひよりさんもそこまで怖がってないんだけどなぁ……」
朝の調子に乗った発言を懲らしめるつもりだったのだが、ここまで効果があるとは思わなかった。
若干呆然としながらの呟きに対して半ギレになって言い返してくる弟の呟きに僕が苦笑を浮かべている間に、また別の映像が流れ始める。
『恐怖の追跡者……これは、ある若者たちが肝試しに心霊スポットとして有名な廃墟に行った際に撮影された映像である……』
「そんなところ行くんじゃねえ。記録にも残すなよ、アホ共が」
「雅人、気持ちはわかるけどお口が悪いわよ」
あまりの恐怖に一周まわって怒りの感情が勝ってきたのか、悪態を吐く弟を母が嗜める。
そんな家族のやり取りを苦笑しながら見守る僕の腕の中で、ひよりさんが興味深そうにテレビを見つめながら呟いた。
「あたし、この映像は見たことないかも。どんな感じなのかな~?」
毎年、似たような映像が放送されるホラー特番だが、この映像に関しては僕も初見だった。
ただまあ、タイトルから察するにああいう系だろうな……という予想はある。
そして、映像は僕の予想通りの展開を見せていった。
『なんも無かったね~。期待してたのに、残念』
『そうだね……あれ? あそこ、誰かいない?』
カメラを持つ男が、彼女と思わしき女性が指差す方向を向く。
カメラをズームさせたり、位置を動かしたりして彼女が言う人影を探す男性であったが、そんな彼の姿を見ていたであろう女性の笑い声が響いた。
『あはははははっ! 引っ掛かった~! 本当は誰もいないよ~!』
『んだよ。嘘だったのかよ。お前さ――』
自分が騙されていたことを知った男性が呆れながら振り向き、いたずらが成功して喜んでいる彼女を映し出した……その瞬間。
『うっ、うわああああああああっ!?』
『えっ? きゃ、きゃああああっ!!』
「いやあああああああああっ!!」
「のぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
「きゃっ……!?」
――彼女の背後に立っていた恐ろしい形相を浮かべる不審者の姿も同時に捉え、それを見た男女の悲鳴が響いた。
……というところで映像が途切れるという内容だったのだが、どこからどう考えてもこれは作り物だ。
一旦油断させておいて、予想外の不意打ちで見る者を驚かせるというありがちなテクニックを使ってのニセ恐怖映像は、母や弟たちには効果抜群だったようである。
しかし、僕としてはそんな家族の反応よりもちょっと面白いリアクションが見れたわけで、ニヤニヤと笑いながら腕の中のひよりさんへと声をかける。
「ひよりさん、さっきの映像で怖がってたよね? 体、ビクッとしてたよ?」
「えっ!? ちっ、違うよ! 別に怖がってなんかなかったって!」
「ごまかそうとしても無駄だよ。これだけくっ付いてるんだから、反応なんてまるわかりだって!」
カメラが不審者の姿を捉えた瞬間、彼女の体が軽く跳ねたことを感じた僕は、普段のお返しだとばかりにひよりさんをからかった。
そうすれば、彼女は顔を赤くしながら必死に反論してみせる。
「本当に怖がってなんかないって! あれは急に大きい音が鳴ったから驚いただけ!! 怖がったんじゃないの!!」
「え~? ホントかな~? それにしては大袈裟だったと思うけど?」
「うぅ……! 今日の雄介くんは意地悪だぁ……!!」
「はははっ! 恨むなら、不用意に弄るネタを提供した自分を恨むんだね!」
ひよりさんが晒した隙を僕が弄るという普段とは真逆の立場でのやり取りを繰り広げる。
ぷくっと不満気に頬を膨らませたひよりさんは、ジトーッとした目で僕を睨んでいたのだが……不意にそれを緩めると、複雑そうな表情を浮かべて言う。
「むうぅ……! 悔しいのは悔しいんだけど、Sっ気のある雄介くんに弄られるっていうのも結構ありなんじゃないかという気持ちにもなってしまう……!!」
「そ、それ、どういう葛藤なの……?」
「いや~、普段とは違う感じっていうか、主導権を握られていじめられるのもこれはこれで悪くないなって……」
ひよりさんたちは心霊映像に不意打ちで驚かされたが、僕はひよりさんの予想外の言葉で驚かされてしまった。
こういう時にどういう顔をすればいいのかわからず困惑する僕の左右で、家族がひそひそと話し合う。
「すごいよな~……! イチャつきまで一秒もかかってねえもん。日本新記録目指せるんじゃね?」
「というより、
「こりゃ義姉さん公認のヘタレってことで決定だな」
そんなふうに好き勝手言ってくれる家族に無言の圧をかけてみれば、全員そろって視線を逸らしてみせる。
やっぱり家族の前でこういうことをするのは良くないなと思いながらも、そんな思考に反して僕は腕の中のひよりさんを強く抱き締めてしまうのであった。