ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「だ~っ! クッソ、また負けた……!」
「ふぅ……まだまだ甘いな、弟よ」
「ちぇっ! バスケ部引退してから結構経ってるのに、まだそんだけやれるのかよ……?」
「あれ? 雄介くんと大我くん、何やってるの?」
ホラー特番を見終わってから少しして、色々と落ち着いた僕らは風呂の順番待ちの時間に好きなことをして過ごしていた。
母が風呂に入っている間、リビングで過ごしていた僕たちの元にひよりさんがひょっこりと顔を出し、そんな質問をしてくる。
上半身裸になっていい感じに汗をかいている僕と大我に代わって、一人涼しい顔をしている雅人がその質問に答えた。
「ああ、時々やってる筋トレ勝負っすよ。どっちが早く腹筋百回できるかとか、そういう勝負をしてるんです」
「俺と雄介は筋トレを日課でやってるんで、たまにはその成果を見せ合おうって感じでやってるんですよ」
「へぇ~、そうなんだ。二人とも、そんなに頻繁に筋トレやってたんだね」
「普段は自分たちの部屋でやってるから、あんまり見ないかもね。この勝負も久々だし……」
風呂に入る前にいい汗をかこうというわけではないが、こういう勝負は部活を引退した僕でも結構燃えるものがある。
ひよりさんにそう答えながら顔を上げた僕は、彼女にまじまじと体を見られて少し恥ずかしい気持ちになった。
「おお~、いいねぇ……! 水泳の授業とかで見たことあったけど、雄介くんも大我くんもいい感じに腹筋割れてるし、逞しい男! って感じがする!!」
「いや~……鍛えてますから! 義姉さんにそう言ってもらえて嬉しいっす!」
「ちなみに俺は頭脳派なんで筋トレはしてません! 部活も文化部でした!!」
「あはははは! さっきの話を聞くに、勝負は雄介くんが勝ったみたいだね?」
「そうなんすよ~! なんかこいつ、もう現役じゃないのに妙に強いんすよね~……!!」
愉快な弟たちの様子に大笑いした後で勝負の結果について尋ねてきたひよりさんへと、大我が悔しそうに答える。
僕と同様に半裸の状態になっている弟をまじまじと見つめたひよりさんは、不思議そうにこう言った。
「なんか意外だね。大我くんの方がマッチョ! って感じなのにさ」
「パワーは大我の方が上なんですけど、クイックネスに関しては雄介に軍配が上がるみたいですね。バスケでは色んな場面で瞬発力が求められるんで、そういう部分を重点的に鍛えてた差みたいです」
「ああ、そっか! 言われてみれば確かにそうだね!」
頭脳派を自称するだけあって、雅人の分析はとても正しい。
持久力や純粋な筋力だけならば柔道部の大我の方が勝っているのだろうが、こういう速さが物を言うタイプの勝負だと僕の方が圧倒的に有利なのだ。
「あとはまあ、純粋に鍛えてる時間の差もありますからね。これまで勝負してきましたけど、大分雄介に負け越してます」
「ありゃりゃ、それはちょっと可哀想だね。それで、今日の勝負はこれでおしまいなの?」
「いや、まだ母さんも風呂から出なさそうだし、腕立てで勝負しようかなって」
「ふ~ん、そっか~……! じゃあ、お義姉さんとして不利な大我くんの手助けをしてあげちゃおっかな~?」
まだ少し、母が風呂から上がるまで時間がかかりそうだ。
というわけで最後に腕立て伏せで勝負をしようとプッシュアップの体勢を取った僕たちの前で、ひよりさんがニヤリと笑う。
そうした後で軽い足取りでこちらへと近付いてきた彼女は、おもむろに僕の背中へと腰を下ろしてみせた。
「はい、ずし~んっ!」
「うわっ!? ちょっ、ひよりさん!?」
大きなお尻を僕の背中に乗せた後、肩を掴んで馬に跨るような体勢を取ったひよりさんが楽しそうに言う。
予想外の行動に僕が驚く中、彼女は何度か僕の背中にお尻を押し付けながら口を開いた。
「これでいいハンデになったでしょ~? あたしを背負ったまま雄介くんがどれだけ腕立てできるか、見ものだね!!」
「流石にこれは厳しいって! 重量があり過ぎるよ!!」
「おっ、なんだ~? あたしが重いってか~? 女の子にそれは禁句だぞ!」
そう言いながら重心を動かしてくるひよりさんに翻弄される僕は、重さよりも背中と腰の付近に当たる大きくて柔らかい重みに動揺していた。
できたらもう少し重心を前に傾けてくれるとお尻が当たらなくて助かる……と思いながらも、そうなったらそうなったでマズいことにもなりそうだと慌てる僕の隣で、雅人と大我が話をする。
「チャンスだ、大我! 義姉さんの援護を無駄にするな!!」
「ああ、これなら勝てる! 下克上、させてもらうぜっ!!」
「よ~し! じゃあ、勝負開始だ~! どっちも頑張れ~っ!!」
「ちょっと! 勝手に始めないで! これみんなが思ってる以上に大変なんだよ!?」
僕の言葉を無視するひよりさんたちのはしゃぐ声が響く中、筋トレ勝負が半強制的に幕を開ける。
背中にのしかかる重みと感触に心を乱されながら……僕は必死に腕立て伏せを繰り返すのであった。
……ちなみに勝負はなんやかんやあって僕が勝った。
なんで重りがあった方が速いんだと大我にドン引きされた。納得いかない。