ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
これは、八月十三日のお話
「ふぅ……なんか、すごい久しぶりな気がするな……」
学校の制服に袖を通した僕は、姿見に映る自分自身を見つめながらそう呟いた。
夏休みが始まってから大体二週間か三週間くらいしか経っていないのに、この服を着るのが随分と久しぶりに思える。
それにはきっと、今の気持ちも影響しているんだろうな……と思いながら僕が最終確認をしていると、部屋の扉が開いてひよりさんが顔を出した。
「雄介くん、準備終わった?」
「ああ、ちょっとだけ待って。すぐに行くから」
ひよりさんも僕と同じく学校の制服を着ている。
どうしてだか眩しく見えてしまう彼女の制服姿に目を細めながら答えた僕は、急いで支度を整えて部屋を出た。
リビングに行けば中学の制服に身を包んだ弟たちが手を上げ、僕を迎えてくれる。
「悪い、待たせた」
「いや、大丈夫だよ。母さんまだ準備終わってないし」
どうやら母はまだ化粧をしているようだ。
やはり女性の身支度には時間がかかるのだなと僕が思う中、ひよりさんが口を開く。
「雄介くん、ネクタイ曲がってるよ?」
「あ、本当だ。急いでたせいかな……?」
「結び直すから、ちょっとそこ座って」
ひよりさんにそう言われるがままに、普段食事の時に使っているテーブルへと(お行儀が悪いと思いながらも)僕は腰掛けた。
そうした僕の首に手を伸ばし、曲がっているネクタイを結び直してくれたひよりさんが笑顔で肩を叩いてくる。
「うん、これでよし!」
「ありがとう、ひよりさん」
「う~ん……今日も立派にイチャついてるな~……!!」
「やってることが夫婦のそれなんだよなぁ……」
弟たちのからかいとも感嘆とも取れる呟きに苦笑を浮かべながら、立ち上がった僕はひよりさんにお礼を言った。
確かにこれは出勤前の夫婦のやり取りだよな……と僕が考えたところで、ちょうど支度を終えた母が声をかけてくる。
「お待たせ~! ごめんね、お化粧に時間かかっちゃった。そっちはもう出掛けられそう?」
「ちょうど今、雄介が義姉さんにネクタイ結び直してもらったところ」
「お熱い二人が見れなくて残念だったね、母さん」
「からかうなって……みんな、準備終わってるよ。いつでも出掛けられる」
「そう。じゃあ、行きましょうか」
いつも通りの、だけど少し違う雰囲気がしているやり取りをした後、荷物を手に玄関へと向かっていく。
最後尾を歩く僕は、隣にいるひよりさんへと声をかけた。
「ごめんね。ひよりさんにも付き合ってもらっちゃってさ……」
「気にしないでよ。っていうか、そっちこそいいの? あたしが一緒に行って……?」
「……うん、いいんだ。会ってほしいんだ、ひよりさんにも」
申し訳なさそうに、どこか遠慮した様子でそう問いかけてくるひよりさんへと、静かに答える。
彼女がこんな反応を見せるのも当たり前かと思いながら革靴を履いた僕は、午前中の夏の日差しを浴びながら空を見上げた。
「……暑くなりそうだな、今日は」
誰に対する言葉でもない独り言を呟きながら、輝く太陽を見つめる。
夏真っ盛りの八月十三日……僕たちは今日、父親に会いに行く。