ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんと迫る不穏な気配(回避できないとは言ってない)
ある日の夜の緊急報告


「もう八月も半分過ぎちゃったのか~……夏休みも後半だね~」

 

「うん、そうだね。もう少しで夏休みも終わっちゃうのか……」

 

 ――その日、僕とひよりさんはキッチンで一緒に料理をしながら、そんな話をしていた。

 

 お盆も終わった八月の十七日、あと二週間ほどで夏休みも終わりを迎えてしまう。

 それは即ち、ひよりさんとの同棲生活の終わりを意味しているわけで……僕の声からそのことを残念がる雰囲気を感じたであろうひよりさんが、にやっと笑いながら質問を投げかけてきた。

 

「あたしがこの家からいなくなっちゃうの、寂しい?」

 

「そりゃあ寂しいよ。できることなら、もっと一緒にいたいって思ってる」

 

「えへへ~……! そう言ってもらえて嬉しいよ! もういっそ、あたしの引っ越し先はここにしちゃおっか!?」

 

 冗談めかしてそう言うひよりさんだが、流石にそうするわけにはいかないだろう。

 ご両親も一生懸命に問題解決に向けて動いてくれているし、何より高校生の身分で同居というのはなかなかによろしくないものがある。

 

 だがまあ、彼女とずっと一緒に過ごせたら楽しいだろうな……と僕が思う中、リビングで僕たちの話に聞き耳を立てていた家族がここぞとばかりに横槍を入れてきた。

 

「あら~! いいじゃない! 私たちは全然問題ないからね! ひよりちゃんならいつでもウェルカムよ!」

 

「いい引っ越し先が見つからなかったら仕方ないんじゃないっすかね~? そうなっちまったら助け合うしかないっすよ! ねえ!?」

 

 調子に乗っている母と雅人の言葉に、苦笑を浮かべた僕がひよりさんを見やる。

 彼女の方も僕の家族に歓迎されていることを喜びながら、料理を仕上げにかかった。

 

「はい、冷やし中華お待たせしました~! ざるラーメンもあるんで、足りなかったらじゃんじゃんお代わりしちゃってください!」

 

「きゃっほ~っ! ありがとうございま~す!!」

 

「あ、雄介、先にラー油用意しといて。あんたたちのイチャイチャでタレが甘く仕上がってるだろうから、バランス取っておかないとね!」

 

「馬鹿なこと言わないでよ、まったく……!!」

 

 母のボケにツッコミを入れつつ、言われた通りにラー油をキッチンに取りに行く。

 ついでに飲み物やらなんやらも一緒に持ってきた僕は、それを食卓へと並べていった。

 

「いや~、大我もタイミングが悪いよな~! 義姉さんが手料理を振る舞ってくれる日に、柔道部の友達と外食してくるだなんてさ!」

 

「手料理ってほどのものでもないですよ。それに、あたしだけじゃなくって、雄介くんと一緒に作ったものですし……」

 

「まあまあ、いいじゃない。まだ夏休み中にひよりちゃんにご飯を作ってもらう機会はあるだろうし、その時はみんなで食べましょうね」

 

 本日、末っ子の大我は柔道部の友達と外でご飯を食べてくると言っていた。

 行き先が僕がゴールデンウイーク中にバイトしていた『やっぱ寿司!』だったので、割引券をあげたら喜びと感謝のダンスを一人で踊っていたなとその光景を振り返って思い出し笑いをしたところで、ひよりさんが声をかけてくる。

 

「どうしたの? なんか、楽しそうだったけど……?」

 

「ああ、いや、ちょっとね。食べながら話すよ」

 

 大我の面白行動を話すのもいいが、今は夕食前だ。母も雅人も首を長くしていただきますを待っているだろうし、今話さなくてもいいだろう。

 食事の最中に笑い話としてひよりさんに教えようと思った僕であったが、そのタイミングでスマホの着信音が鳴り響いた。

 

「あっ、ごめんなさい。あたしのスマホみたいです」

 

 テーブルの上に置いてあった自分のスマートフォンを慌てて手に取ったひよりさんが、僕たちに頭を下げる。

 それから画面を見て、誰からの連絡かを確かめた彼女は、困惑したような表情を浮かべた。

 

「誰からの電話? もしかして、ご両親から……?」

 

「ううん、玲香から。珍しいな、こんな時間に電話してくるだなんて……」

 

 どうやら電話は鉢村さんからかかってきているようだ。

 別に友達だからおかしなことではないのだろうが、夕食前のこの時間にわざわざ電話をしてくるなんて珍しいと首を傾げるひよりさんが、僕たちへと再び頭を下げた後で立ち上がる。

 

 万が一にも電話越しに僕たちの声が入ったら、鉢村さんに色々と勘繰られてしまうかもしれない。

 別に彼女のことを信用していないわけではないが、ひよりさんが僕と同居していることを知る人間は少ない方がいいだろう。

 

「先、食べててください。どのくらいかかるかわからないですから」

 

「そう……じゃあ、悪いけどお言葉に甘えさせてもらうね」

 

 用心のために別の部屋で電話しようとするひよりさんにそう応えた僕が軽く頷く。

 でもやっぱり、少しは待っておこうと考えながら閉まるドアを見つめていたところで、今度は僕のスマートフォンが着信を告げた。

 

「おいおい、なんか落ち着かねえな。誰からだよ?」

 

「えっと……大我からか……?」

 

 画面には、今、友人たちと外食しているはずの大我の名前が表示されている。

 外で何かあったのだろうかと思いながら電話に出た僕は、眉をひそめながら話をし始めた。

 

「もしもし、大我? どうしたんだ、急に……?」

 

『兄貴、今、義姉さんって家にいるよな?』

 

「え? あ、ああ、いるけど……ひよりさんがどうかしたのか?」

 

 普段、僕を名前呼びしてくる大我が急に兄貴呼びしたことと、深刻さを感じさせるその声から、何か大変な事態が起きたことがわかった。

 ひよりさんに関わる何かが起きたであろうことに緊張しながら質問を投げかける僕に対して、大我が低い声でこう答える。

 

『義姉さんを探してる女がいた。多分、元カレと浮気した紫村って奴だ』

 

「なんだって……!?」

 

『今から帰るから、家で詳しく話すけど……なんかヤバい雰囲気だった。すげえパニックになってたっていうか、血眼になってたっていうか……とにかくヤバかったんだ。絶対にあいつと義姉さんを会わせない方がいい』

 

 大我がどんな事態に直面したのかはわからない。だが、その声からは僕の想像を超えた緊迫感が伝わってきている。

 とにかく、家に帰ってから詳しく話をするという大我の言葉に了解した僕は、弟との通話を切った。

 家族も漏れ聞こえてくる会話に剣呑な表情を浮かべる中、ひよりさんがリビングに戻ってくる。

 

「ゆ、雄介くん、ごめん……今、玲香のバイト先に紫村が来たって……それで、あたしのことを探してるらしくて……!」

 

「大丈夫、落ち着いて。今、大我からも似たような連絡がきたんだ。今から帰ってくるみたいだから、話を聞こう」

 

 怯えと困惑の色を入り混じらせながら、震える声で僕へと話すひよりさんが拳をぎゅっと握り締める。

 なにか良くないことが起きていることを感じながら……僕はひよりさんを落ち着かせるように言葉をかけ続けた。

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