ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「そうだな。今回はラッキーだったし、大我もファインプレーだったと思うぜ」
僕の意見に雅人が大きく頷きながら同意する。
状況的には良いとは言えないのかもしれないが、紫村さんが血眼になってひよりさんを探していることを先に知れたことは、間違いなく幸運だったはずだ。
逆に何も知らない状態で街を出歩いている時にばったり彼女に出くわしていたりしたら、何か危害を加えられていた可能性が高い。
大我や鉢村さんからの報告を受けて脅威が迫っていると先に知れたおかげで、僕たちは紫村さんに警戒を払いつつ動くことができる。
「それに、時期も良かった。今は夏休みだから、学校で紫村さんと顔を合わせることもない。むしろ今から新学期までの間に問題解決に動くことだってできるはずさ」
もう一つの幸運は今が夏休みだということだ。
紫村さんと学校で出くわすこともないし、残り二週間ほどの休みの間に何が起きているのかを把握したり、彼女に釘を刺すことだってできる。
ひよりさんのご両親も娘に新たな脅威が迫っているとわかったらすぐに動いてくれるだろう。
寿司屋でトラブルを起こしたということもあるし、鉢村さんからの証言も取れる。警察や学校側を動かすには十分な証拠が揃っているはずだ。
「そう考えると、決して楽観視するわけじゃないけど状況は悪くないよな? こっちだってガチガチに対策を練ればいいだけの話だしさ!」
雅人の言う通り、状況は絶望的というわけでもない。それどころか、危機が迫っているとわかったことで十分な対策を取れるだけの猶予がある。
吾郎さんたちの危惧していた形とは違っていたが、僕たちの家にひよりさんを預けてもらったことで別のところで生まれた脅威をほぼ完全に回避できていることは実に幸運だといえた。
「そうだね……何も知らないでいるより、相手の動きを知れた方が安全だもんね。あたしはラッキーだ」
ひよりさんも改めて状況を振り返って、そう思えるようになってくれたようだ。
まだ完全に不安を拭えたわけではないのだろうが、立ち直りを見せ始めた彼女を僕たち三兄弟が見つめる中、電話を終えた母がリビングに戻ってくる。
「お待たせ。今、話をしてきたわ」
「両親は何て言ってましたか……?」
「わからないことが多いけど、すぐに動くって。まずは『やっぱ寿司!』さんに連絡して、同時に家の前に設置してある監視カメラにその紫村って子が映ってないか確認してみるって言ってたわ」
ひよりさんの家には、吾郎さんと睦美さんが江間家に秘密で取り付けた監視カメラがある。
家の前の通りを撮影しているこのカメラは、監視の他にも以前のように父親が息子をこっそりと外に逃がしたりした時などに証拠を残しておくために設置されたものだ。
今日まで江間が家から出ていないか確認することばかりに注意を払っていたが、もしかしたら紫村さんが家に来ていた可能性もある。
それが映像として残っていれば、彼女がひよりさんに付き纏っている証拠になるはずだ。
あとは、彼女が騒ぎを起こした『やっぱ寿司!』にも話を聞きに行けば、事態が進展する可能性がある。
お店には監視カメラがあるだろうし、やはりそこにも紫村さんの映像が残っていれば、彼女から話を聞くきっかけにはなるはずだと思ったところで、僕は小さく息を吐いた。
(色々と考えてはみたけど、僕たちにできることは少ない。というより、警戒しつつ待機することが僕たちのすべきことだな……)
今、考えたようなことを僕やひよりさんがするわけにはいかない。
それは即ち、僕たちと紫村さんの接点を増やすということ。つまりはひよりさんを危険に近付けることに他ならない。
彼女を守るために我が家で匿っているというのに、そんなことをしてしまっては本末転倒だ。
ここはひよりさんのご両親である吾郎さんと睦美さんに任せて、僕たちは待機すべきだろう。
安全な場所で彼女を守るためにじっとしていることが、問題の迅速な解決につながるのだから。
「とりあえず、ひよりちゃんはしばらく外に出ちゃダメよ。雄介も、できるだけ傍に居てあげなさい」
「うん、わかってるよ」
母の言う通り、しばらくは家に引きこもっていた方がいいだろう。
この家にいる限りは紫村さんと遭遇することはない。彼女はひよりさんが僕の家に身を寄せていることを知っているはずもないし、仮にその可能性に思い至ったとしても僕の家がどこにあるのかわからないのだから、訪ねられるはずもない。
何件か短期アルバイトの予定を入れていたが、それもキャンセルして家でひよりさんと一緒に過ごそう。
不安を抱いているであろう彼女を守るためにも、そうすべきだと心の底から思えた。
「雄介くん……その、ごめんね。また大変なことに巻き込んじゃったみたいで……」
「大丈夫だよ。僕たちに気を使う必要なんてないから、安心して」
隠し切れない怯えを抱いているひよりさんが、申し訳なさそうに僕へと謝罪する。
そんな彼女を励まし、安心させるように小さな手をぎゅっと握った僕は、絶対にひよりさんを守ってみせると誓いながら、彼女へとそう言うのであった。