ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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誰でもいいから助けろよ!(二奈視点)

 ある日の夕方、人通りの多い通りで七瀬を探していた私は、寿司屋で働いている鉢村玲香を見つけた。

 鉢村は七瀬とかなり親しい。少し前に一緒にプールに遊びに行っていたこともSNSから得た情報で把握している。

 

 あいつなら七瀬の居場所について、何か知っているはずだ。そう考えた私は寿司屋に乗り込み、鉢村に詰め寄った。

 

「鉢村っ!」

 

「えっ? あんた、紫村……?」

 

 私に名前を呼ばれた鉢村が驚いた表情を浮かべてこちらを向く。

 あいつの元に歩み寄った私は、驚いている鉢村へと声を荒げ、脅すように質問してやった。

 

「七瀬はどこにいる!? あんた、何か知ってるんでしょう? 早く教えなさいよ!」

 

「はぁ? 何言ってんの? どうしてあんたがひよりを探してるのよ!?」

 

 私の質問に対して、鉢村は顔をしかめながら逆にそう問いかけてきた。

 こちらの質問に答えようともしない鉢村の態度に、私は苛立ちを募らせながら叫ぶ。

 

「質問しているのは私なんだから、逆に質問なんてすんな! お前は私の質問に答えればそれでいいんだよ!」

 

「ふざけんな! 意味わかんない上に明らかにヤバい雰囲気のあんたに友達の居場所なんて教えられるわけないでしょ!?」

 

 やっぱりそうだ。こいつ、七瀬がどこにいるか知ってる。

 それを私に隠して、あいつを匿っているんだ。

 

 七瀬のせいで私が大変な目に遭っているのに、こいつはそんな私の気も知らないで言い返してきて……本当に頭にくる。

 こいつもそうだが、ぬくぬくと匿われて安心している七瀬のことはもっとムカつくし、絶対に居場所を突き止めて代償を払わせなくては。

 

「いいから教えろよ! 七瀬はどこにいるんだよ!?」

 

「知らないわよ。知ってても危害を加えそうな奴に居場所なんて教えるわけないでしょ? っていうか、ひよりに何の用があるわけ?」

 

「だから……! 質問してるのは私! あんたは黙って私の知りたいことを教えればいいの!!」

 

 どこまでも神経を逆撫でする女だ。質問に答えればいいだけなのにピーチクパーチク騒いで、本当に頭にくる。

 周囲もざわついていることがわかったが、そんなのどうだっていい。私の人生がかかっているのだから、そんなことを気にしていられるか。

 

 何も答えない鉢村に対して、私はさらに強引な手段で七瀬の居場所を聞き出そうとする。

 あいつへと手を伸ばし、暴力を振るうことも辞さないと態度で見せながら話をしようとした、その時だった。

 

「おい、あんた」

 

「は……?」

 

 背後から声をかけられて振り返った私は、そこに()が立っていることに気付いて目を丸くした。

 よく見れば、その壁はがっしりとした大男で、私に対して警戒心を剥き出しにした表情を浮かべている。

 

 突然の大男の登場に驚いて思わず口を閉ざしてしまった私に向け、そいつは信じられないことを言ってきた。

 

「あんた、まさか……()()()()か?」

 

「え……!?」

 

 待て……なんでこいつ、私の名前を知ってる? こんな奴、私は見たことも聞いたこともないぞ?

 それなのになんで私のフルネームを知ってる? 私の情報を持ってる!?

 

 まさか……仁秀か? あいつがどこかで私の情報をばら撒いているのか?

 フラれた腹いせに私に対する嫌がらせとして、私の目の届かない場所でとんでもないことをしているんじゃないか!?

 

「お客様、よろしいでしょうか? 当店の従業員が何かお客様のご気分を損ねることをしてしまいましたか?」

 

「あ、あ……っ!?」

 

 また別の男の声が響いたことに驚いた私が振り向けば、そこにはさっきまで立っていたはずの鉢村の姿はなかった。

 代わりに店長と思わしき男が私に声をかけ、大男と同じように警戒した雰囲気を醸し出しながら声をかけてくる。

 

「他のお客様もいらっしゃいますので、あまり大声を出していただいては困ります。落ち着いて、話を聞かせていただけると――」

 

「ううう、う、うう……っ!!」

 

 そうやって話す店長の声は、途中から耳に入ってこなかった。

 私を見つめる無数の視線が突き刺さり、その痛みと恐怖が心を埋め尽くし始めたからだ。

 

 夏休みの間、ずっと感じていた視線が四方八方から突き刺さる。周囲の人間すべてが敵に見えてしまう。

 どうしてだか私の名前を知っていた大男の存在が、私の恐怖を加速させた。

 仁秀は私の知らないところで個人情報をばら撒いて、それを多くの人たちが見ているのではないかという恐怖が心を満たしていく。

 

「もう、もう……いやあああっ!!」

 

 気が付けば、私は叫びながら店を飛び出していた。

 暗くなり始めた空の下を家に向かって走りながら、私は苦しさに涙まで流し始めてしまう。

 そんな私のことを見つめる視線は消える気配がなくって……もう、どうすればいいのかわからなかった。

 

(誰に相談すればいい? 誰に助けを求めればいい? 誰だ? 誰が? 誰を……!?)

 

 証拠が何もない以上、警察は動いてくれない。バスケ部のキャプテンもこれ以上強引な手段は取れないだろう。

 友達もダメだ。こんな弱味を見せたら馬鹿にされる。家族になんて絶対に言えない。

 少しでも隙を見せたら、これまでの悪事がバレたら、今の私のポジションが粉々に砕け散ってしまう。そんなの絶対に嫌だ!

 

 だけど、どうすればいい? この恐怖から逃れるためには、どうすればいい?

 誰かに相談しようと思っても、そんなことできない。困っている私に救いの手を差し伸べてくれる人もいない。

 

 こんなの不公平だ! 七瀬は家族や友達から庇われて、仁秀の驚異から守られているっていうのに……私のことは誰も助けてくれないじゃないか!

 

(誰でもいいから助けてよ! 私を助けなさいよ!)

 

 自分と七瀬との差に涙しながら、私は暗くなってしまった街を必死に駆け抜ける。

 そんな私のことを奇特な目で見つめる者はいても……心配してくれる者は、一人も現れなかった。

 

 

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