ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ほほ~う? 我慢できない~? ふ~ん? へ~? ほ~う!」
絶対にこういう反応をされると思っていた僕は、にやにや笑うひよりさんから逃げるように目を閉じて唸り声をあげる。
顔が熱くなっていることを感じながら、もうここまできたらいくらでも恥を掻いてやれと開き直った僕へと、彼女は質問を投げかけてきた。
「ということはあれかな? 雄介くん的には、あたしに手を出すつもりはあると?」
「そりゃあるよ。っていうか、さっきも言った通り結婚まで我慢できる気がしないって」
「えへへへへへ~~っ! そうですか、そうですか……!!」
恥ずかしそうに、だけどそれ以上に嬉しそうに笑ったひよりさんが僕の腕の中でぐるんと体を回転させる。
僕と向き直る体勢になった彼女は、そのままぎゅ~っと両腕で僕に抱き着いてきた。
ごろごろと喉を鳴らす猫のように体を擦り付けるひよりさんは、強く僕の体を抱き締めながら胸を押し当ててきている。
顎を肩に乗せ、満足気に唸る彼女の反応に色々とドキドキする僕は、小さく喉を鳴らした後で聞かれてもないことを話していった。
「僕だって健全な男子高校生だし、ひよりさんは死ぬほどかわいいし……そうなって当たり前でしょ?」
「んふふ~! 別に責めたりなんかしないよ~! あたしだってそう言ってもらえて嬉しいしね! ただちょっと心配だったから、聞いてみただけ!」
「……僕がなんだかんだ言ってひよりさんに手を出そうとしないんじゃないかって?」
「そうそう! 理由があるとはいえ、これまで二度もチャンスがあったのにあたしって手を出されてないじゃん? だから、あたしに気を使って我慢させてるんじゃないかな~? って思ってさ!」
一度目は初めてのお泊りの時で、二度目は今ということなのだろう。
確かに一回目は恋人という関係ではなかったし、今は江間や紫村さんが原因のトラブルがあって、ひよりさんが落ち着いていない状況で手を出したくないという理由が存在しているとはいえ、絶好の機会を連続して見逃す彼氏を見たら不安になって当然だ。
大事にするとか、誠実でありたいとか言ってる僕を見ていたら、そういう意思がないと思われても仕方がない。
そういった行動でひよりさんを不安にさせていたかと反省した僕は、彼女の背中に回す腕に力を込めながらちゃんと自らの意思を伝えていった。
「ひよりさんに対して誠実でありたいって気持ちに嘘はないけど、誠実と臆病さをはき違えちゃいけないとも思ってる。何も問題がない上にひよりさんの意思も固まってる状況でも手を出さないとしたら、それは
もしもそういう状況になったとして、それでも手を出さないというのは誠実さを理由に逃げているだけだ。
本当の誠実さとは、恋人の意思を尊重した上ですべきことを考え、それを成すことだと……そう伝えれば、ひよりさんは顔を赤くしながら微笑んでくれた。
「改めて思うんだけど、雄介くんってすごいね。あたしが雄介くんの立場だったら、絶対に押し倒してえっちなことしちゃってるよ?」
「……これからずっと幸せにしたい人にこんなどさくさ紛れの状態で手を出したくないだけだよ。大切なことだからこそ、後で思い返した時に後悔してもらいたくないじゃない」
「んっ……!!」
ひよりさんの小さな体が、ビクッと震えた。
肩に乗せていた顔をそっと離して僕と向き合った彼女は、とても蕩けた表情をしている。
瞳の奥にはハートマークが浮かんでいるように見えるし、吐息は何故だか甘く感じられるし、赤く染まった頬と潤んだ瞳を向けられながらの上目遣いは破壊力がすごい。
何より、彼女の背中に置いてある僕の手からはひよりさんの心臓の鼓動が伝わってきていて……あまりに速いその脈動から彼女の興奮と緊張を感じ取ってしまった僕の心臓もまた早鐘を打っている。
「……キス、しよ。とりあえず今はそれで我慢するからさ……!」
僕の方がひよりさんより体が大きくて良かったと心の底から思った。
もしも僕の方が小さかったら、間違いなく押し倒されていただろう。
そんなふうに思わせるだけの危険さを持つひよりさんの表情を見つめながら、荒い呼吸を繰り返す彼女と同じくらいに頭をぼーっとさせている僕が、腕に力を込める。
ひよりさんを抱き寄せ、言われるがままにその小さな唇に自分の唇を重ねた僕は、長くて短い口付けを交わした。
「んっ……♥」
ひよりさんのくぐもった満足気な声を聞きながらのキスは、今までのそれとは全く違う味がした。
イチゴシロップの味がしたファーストキスとも、秘密の味がしたバスの中でのキスとも違う。もっと危険で、熱くて、それでいて味わい続けたい禁断の味だった。
「………」
「ん……♥」
ゆっくりと唇を離した後で見つめ合って、その中でひよりさんが目を細めながら微笑んだことが合図になる。
熱に浮かれたままに相手を見つめる僕たちは、もう一度、もう一回……と、二人きりのリビングで何度も口付けを交わし続けるのであった。
第三巻発売は三日後!
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