ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……! 理性が! 理性がギリギリを通り越している!!)
ラッキースケベの後、どうにかこうにか自分の部屋まで戻った僕は、リビングでそうしていたように布団に倒れ伏し、危機感を募らせまくっていた。
まぶたの裏には少し前に見たばかりのひよりさんの上気した頬やしっとりと濡れた肌、何より一糸纏わぬ裸の彼女の姿が焼き付いてしまっている。
そのことについては改めて謝罪し、逆に不注意だったとひよりさんからも謝罪され、後腐れのない感じにはなったが……何も影響がないかと言われれば別だ。
今、こうして理性と本能の狭間で格闘している僕は、呻きながらどったんばったんと心の中で大騒ぎしていた。
(流石にダメだって! 水着姿でもギリギリだったのに、裸はマズいって!!)
別に僕も意図的に見ようとしたわけじゃあないし、ひよりさんもわざと見せたわけではないのだが……あのハプニングは僕の理性にとんでもない衝撃を与えてくれた。
僕の視点が高い位置にあったおかげで本当に大事な部分は見えなかったが、それでも恋人の裸を見てしまったことに対する心の乱れは半端なものではない。
罪悪感やら申し訳なさはあるが、僕だって立派な男子高校生。あんな状況に遭遇して嬉しくないわけがない。
ただ、今は嬉しいと思ってはいけない状況だからというか、昼前に「大事だから今は手は出さない!」とか宣言しておきながらいやらしい目でひよりさんを見るなんて、どの口がそんなことを言ったんだ? と自分自身にツッコみたくなってしまっている。
不幸中の幸いは、こうして僕が自分自身の状態を把握できていることだ。
それともう一つ、ひよりさんも僕の状態をなんとなくかもしれないが理解してくれていることだろう。
お風呂から出た後ですぐに謝罪した時も、気にしている雰囲気は見せないでくれていた。
さっきも言った通り、自分の方が不注意だったと逆に謝って話を流してくれたくらいで……深くまで話すとまた悶々とした空気になってしまうことを理解しているからこそ、さっさと終わりにしてくれたのだろう。
でもやっぱりひよりさんも恥ずかしそうで、そういういじらしいところもかわいくって、もっと言うならそんな状況でも僕のことを気遣ってくれる優しいところも本当に大好きというか、食べてしまいたくなるような愛らしさが――!!
「ぬおおおおおおおっ!!」
と、そこまで考えたところでひよりさんへの愛が危うく暴走しかかっていることに気付いた僕が布団に顔を埋めながら大声で叫ぶ。
危ないところだった。もう踏み越えている理性のラインが完全に消し飛んで、欲望のままに動くところだった。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせた(落ち着いたとは言ってない)僕は、ゆっくりと起き上がってあぐらをかくと共に改めて現在の状況を把握するために思考を働かせる。
ややあって、完全に状況を理解した僕は二つの事実を確認し、頷いた。
一つ、僕はもうギリギリの状態。あと少しの刺激があったら多分壊れる。
二つ、そんな僕の未来はひよりさんの行動にかかってる。つまり、全ては彼女次第。
もしも、もしもの話ではあるが……家族が帰ってくるまでの間にひよりさんに誘惑されたら、僕はそれを突っぱねられる自信がない。
むしろそれがトドメになって、確実に理性が終了する自信しかないくらいだ。
普段の逆セクハラじみた言動なら本当にギリギリで踏みとどまれるかもしれないが、それ以上はマズい。
具体的にいえば、今朝みたいに水着姿で誘惑されたら完全に落ちる。間違いない。
そして今、僕の運命を握っているひよりさんは昼食時に言った通りに一人で夕食を作ってくれていた。
僕がこうして一人で部屋にいるのも、何を作るのかを最後まで隠したい彼女にお願いされたからだ。
そこまで大仰なものを作れるような食材がこの家にあるわけでもないし、わざわざ夕食のメニューを隠す必要はあるか? と疑問に思う僕は、ちょっとした不安を抱いている。
もしも今、ひよりさんが料理をすると見せかけて僕の理性にトドメを刺すための作戦を実行していたらどうしよう……? という不安だ。
例えば、本当に例えばであるが……呼び出されてリビングに行ったら、彼女が裸エプロンで作業をしている可能性だって十分にある。
驚いて言葉を失う僕に対してニヤニヤと笑いながら「もう一回見たんだからいいじゃん!」なんて言ってそのエプロンすら脱ぎ捨ててみせる可能性だってあるし、もしかしたら「裸を見たんだから、責任取ってくれるよね……?」としっとり迫られたりするかもしれない。
当たり前だが、そんなことされたら僕の理性は終わる。
あるいは食事自体は普通に作ってくれているが、食べ終わった瞬間に「デザートはあ・た・し……♥」なんてことをしてくるかもしれない。
当然だが、そんなふうに迫られたら僕の理性は地平線の彼方まで吹き飛ぶ。尾上雄介終了のお知らせだ。
これまでは強靭な理性と使命感で興奮を抑え込んでどうにか冷静さを保ってきたが、もう次はないだろう。
というより、こんなことを考えてしまっている時点で僕は自分が思っている以上にギリギリの精神状態なのだということがわかる。
(ああ、『The Big Fundamental』……! どうか僕にあなたの冷静さをください……!!)
背番号21。黒のユニフォームを纏った憧れの選手のポスターを僕は祈りを込めて拝み倒す。
彼が持つどんな時も揺るがないメンタルを強く求めながら僕が祈りを込める中、部屋にスマホの通知音が響いた。
【お待たせ! ご飯の準備できたよ!!】
ひよりさんからのメッセージを目にした僕は、自分でも気付かない内にごくりと息を飲んでいた。
覚悟を決めた僕はゆっくりと立ち上がり、自室のドアを開く。
そこで改めて深呼吸をした後、緊張に心臓の鼓動を早くしながらリビングへと歩き始めた。
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