ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
というわけで30分ごとに1話ずつ、全話投稿させていただきます。
春休み中の皆さん、楽しんでくださいね!
七瀬の両親が家に来やがった……!(二奈視点)
――あの寿司屋での騒動から、数日が経った。
鉢村から七瀬の居場所を聞き出すことに失敗した私は、今も自分を監視するような視線に怯えながら生活している。
あの日から周囲に対して取り繕うことができなくなってきた私は、感じている恐怖や苛立ちを隠し切れなくなってきていた。
そんな私に対して両親は何かあったのかと聞いてきたが……素直に答えられるはずもなく、適当にごまかし続けている。
謎のストーカー被害に対して相談したいという気持ちがなかったわけではないが、姉にそのことを知られたら巡り巡って私の悪行がバレてしまうだろう。
そうなったら、これまで積み上げてきた立場が崩れ去ってしまう。なんとしてでも、秘密裏に全てを解決しなければならない。
……そう思っていたのだが――
「あ、あの、これはどういうことでしょうか? 何故、こんなことに?」
「質問しているのは私たちの方ですよ。娘さんに詳しく事情を聞かせてもらわないと、こちらが困るんです」
――怯えたような母の声を聞いた私は、自分へと突き刺さる重く鋭い視線を感じて息を飲んだ。
俯いたまま、わずかに視線を上げて正面に座るオヤジの様子を窺えば、そのオヤジがギロリと鋭い目でこちらを睨んでいる様子が目に映る。
今、私の目の前には探していた七瀬の両親が座っている。
夏休みのある日、私の家を訪れたこいつらは、数日前の寿司屋での騒動を私の母親に報告しつつ話を聞きに来たと言った。
混乱する私の母親を押し切り、私を呼び出して……そこでどうにか逃れようとした私だったが、七瀬の父親の剣幕に逆らえずにこうして話し合いの舞台に引き摺り出されてしまったというわけだ。
(くそっ……! なんで私がこんな目に……!?)
心の中で悪態を吐きながら、七瀬の両親に見えない位置で拳を握り締める。
母親が上手く追い返してくれればこんなことにはならなかったし、父親もこんな大事な時に家にいないだなんて本当にタイミングが悪い。
使えない両親のせいでこうなっていることに苛立ちを覚えた私の拳には、余計に力がこもっていく。
唯一の救いはここに姉がいないことだと考える私へと、七瀬の両親は低い声で何度も繰り返した話をし始めた。
「紫村二奈さん……だったね? 君が数日前、ここからそう離れていない回転寿司屋で騒いだことは知っている。その際、高校の同級生に私たちの娘の居場所を聞き出そうとしたこともね」
「うっ……!!」
あの日の寿司屋での騒動が、七瀬の両親に伝わるだなんて思ってなかった。
いや……確かに鉢村が七瀬にそのことを教えれば、あいつの両親が動く可能性は十分にあったはずなのだが、それを考えるだけの余裕がなかったと言った方が正しい。
「あ、あの……何かの間違いじゃあありませんか? 娘がそんな、店員さんに掴みかかるほどの騒動を起こしただなんて、到底信じられなくって……!」
「当該店舗の店員さんたちからあなたの娘さんが騒ぎを起こしたという証言は取れています。信じられないなら、店に行って直接聞いてみますか?」
「い、いえ……」
何かの間違いではないかとビクビクしながら質問した母親は、七瀬の父親の圧に負けてあっさりと引き下がってしまった。
本当に使えない奴だと、自分の母親の気弱な態度にうんざりとする私へと、七瀬の母親が話しかけてくる。
「騒動を起こされた寿司屋さんは警察沙汰にするつもりはないと言っていましたが……私たちは黙っているわけにはいきません。なにせあなたは、私たちの娘を探している。それも、公衆の面前で騒動を起こすくらいに必死になって」
「親として、その理由を知らないままでいるわけにはいきません。娘の安全に関わる話なのですから」
夫婦そろって私に圧をかけてくる七瀬の両親の態度に、私は苛立ちを募らせていく。
本当に……今、大変な目に遭っている私にこれ以上のストレスをかけるんじゃないと叫びたくなったが、そんなことを言うわけにはいかない。
どうにかこの場を切り抜けなくては、私の悪事が家族に知られてしまう。
焦りながら上手い打開方法を考える私が押し黙る中、そんな私の態度を見た七瀬の父親が口を開いた。
「……どうやら、私たちと話をしたくないみたいだね? では、話を変えよう。江間仁秀という男を知っているかな?」
「っっ……!?」
その名前を聞いた私は、思わず体を震わせながら顔を上げてしまった。
今現在、私をつけ狙っているであろうストーカー男の名前に反応してしまった私の目を真っすぐに見つめながら、七瀬の両親が話を続ける。
「当然、知っているね? 同じ高校に通っている上に、君も所属しているバスケットボール部の部員だ」
「あ、あの……その江間くんという男子が、この件に何か関係しているんですか……?」
「……江間くんと私たちの娘は幼馴染であり、恋人という関係だったんです。でも、二人は数か月前に破局しました。彼とお宅の娘さんが浮気していることがわかったからです」
「ち、ちが――っ!!」
「えっ……!?」
最悪だ……! 母親の前でなんてことを言いやがる、このババア!
私が江間を七瀬から奪い取ったことがバレたら、私の立場が悪くなるじゃないか!
どうにかしてごまかさなくちゃいけない……そう考えた私は必死に頭を働かせ、この状況を切り抜ける方法を模索する。
ややあって、一つの打開策を見出した私は、弱り切った女の子として振る舞いながら自分を見つめる大人たちへと言った。
「ち、違うんです……! 私、江間くんと浮気なんかしてません! 全部あっちが勘違いしただけなんです!!」
涙を流しながら一生懸命に訴え、同情を誘う。
これまで守り続けてきた被害者としての立場を活用する道を選んだ私は、必死になって話を続けた。