ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「えっ……?」
静かだが、はっきりとそう言われた母の勢いが止まる。
私もまた七瀬の父親の言葉に目を見開いて驚く中、七瀬の母親が話を継いだ。
「私たちも江間くんのことは警戒して、彼の家を監視できるようカメラを設置しました。毎日それを確認していますが……この夏休みの間、江間くんは一歩も家を出ていませんよ」
「は、はぁ……?」
江間が家から出ていない……? そんなはずはない。私は間違いなくストーカーの被害に遭っている。それが勘違いなわけがない。
犯人は江間だ。あいつ以外に誰がいる? きっと七瀬の両親は嘘を吐いて――!!
「疑うのなら、監視カメラのデータをお見せしましょうか? しっかりと保存してありますから、好きな日にちを教えていただければ記録をお見せしますよ?」
「う、そ……? じゃあ、じゃあ……!?」
――七瀬の両親が嘘を吐いていると思おうとした私だったが、その自信満々の態度が全てを物語っている。
本当に、江間は家から出ていないのだ。私に付き纏っているのは、あいつではなかった。
じゃあ、だとしたら誰が私を……? と愕然としながら考え始めたところで、七瀬の母親が口を開いた。
「……ショックを受けているところ申し訳ないのだけれど、最初の質問に戻らせてもらっていいかしら? どうしてあなたは、私たちの娘を探しているの?」
「えっ? い、いや、だから、江間くんからのストーカーの被害について、相談したくて――」
私が動揺している今ならば、本音を引き出せると思ったのかもしれない。
不意を打たれた私は狼狽しながら先ほどと同じ理由を答えたのだが、七瀬の母親はそんな私の発言について淡々と矛盾を指摘していく。
「それが本当だとしたら、どうしてあなたは娘の同級生から娘の連絡先ではなく、居場所を聞き出そうとしたのかしら? 相談をするだけなら直接会う必要なんてないはずよね?」
「そ、それは……」
「さっきもそう。あなたは私たちに娘に会わせてほしいと頼んできた。あなたは娘と話をしたいんじゃなくて、顔を合わせる必要がある……理由はわからないけど、そうなんでしょう?」
「あの、その……」
「そもそも、居場所を探すってことは、私たちの家に娘がいないことを知ってるってことよね? どうしてあなたがそれを知ってるのかしら? 少し前の監視カメラの映像に私たちの家の様子を確認してる男の子たちの姿が記録されてたけど、何か関係があるの?」
「………」
――また、最初に逆戻りだ。私は項垂れたまま、何も言えずに俯き続けるしかない。矛盾なんてないと思っていたが、七瀬の両親は何もかもを見抜いているように私を責めてくる。
質問に対して何も言えずに押し黙り続ける私の態度を見て、これ以上は話しても無駄だと判断したのだろう。七瀬の父親が話をまとめにかかる。
「君は江間くんについて娘に相談したかった。だが、彼は君に付き纏ってはいない。ここまでの話が本当なら、この時点で君が娘に接触する理由はなくなったはずだね?」
「あ、あぅ……」
「あなたがストーカーの被害に遭っているという話を疑うつもりはないわ。でも、それはあなたの家の問題であって、私たち家族を巻き込む話ではない。娘ではなく、然るべき機関に通報して助力を求めるべきでしょう?」
「うっ、うぅぅぅぅ……!」
こいつらの言う通りだ。ストーカーが江間ではないというのなら、七瀬に相談したいという私の言い分は通らない。
そもそも、ストーカーが江間じゃないのなら、七瀬に会ってもあいつを擦り付けることなんてできないではないか。
「……これで話は終わりです。もしも、これ以上娘に近付こうとするのなら……相応の覚悟をしておいてください」
いつでも叩き潰す準備はできていると、二人の顔が語っていた。
どうしようもなくなった私ががっくりと項垂れる中、七瀬の両親は母に見送られて家を出ていく。
(ストーカーは、江間じゃなかった……? じゃあ、誰だよ? 誰が私を狙ってるんだよ!?)
全ては江間のせいだと思っていた私は、その可能性を否定されてパニックに陥っている。
あいつが犯人じゃないというのなら、誰が私を狙っている? どうして、なんで、私がこんな目に遭っている?
七瀬の両親が言うように警察に被害届を出すか?
ダメだ、そんなことしたら全部がバレる。私が数々のカップルを崩壊させてきたことも、姉の恋人を奪ったことも全部バレて、私は家でも学校でも立場を失ってしまう。
まずは母親に今日のことを黙っておくよう頼まなくては。絶対に姉の耳に入れるわけにはいかない。
それで、その後は……どうすればいい? どうしたらいい?
こんなこと誰にも相談できない。警察だって頼れない。
唯一使えるのは私に従う男たちだけだが、あいつらを活用するのは何もかもがバレた時に私が受けるダメージをより深くする諸刃の剣だ。
(耐えるしかないの? そんなの無理に決まってる! でも、どうする? どうするの? どうすればいいのよ!?)
誰も私に救いの手を差し伸べてはくれない。私もどうすればいいのかわからない。
出口の見えない迷路に閉じ込められたような、そんな絶望に打ちのめされた私はしばらく立ち上がることもできなくて……ただただ、目の前の現実を受け入れられず、愕然とするしかなかった。