ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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お別れ前の、二人だけの時間

「お父さんと何話してたの? もしかして、圧かけられてたとか?」

 

「そんなんじゃないよ。ただ普通に、話をしてただけ」

 

 まとめた荷物を車に乗せた後で先んじて新居に向かった吾郎さんを見送って自分の部屋に戻った僕は、家族との挨拶を終えたひよりさんからそんな質問を投げかけられた。

 微妙に心配している様子の彼女を安心させるようにそう答えた後、僕は小さく息を吐く。

 

 これで本当に同棲生活も終わりか……と思うと、やはり胸に込み上げてくる寂しさがある。

 そんな僕の心境を察したのか、微笑みを浮かべたひよりさんがこう言ってきた。

 

「もう、そんなに寂しそうな顔しないでよ。ご近所さんになったんだし、会おうと思えばいつでも会えるでしょ? 明日からは学校でも顔を合わせるわけだしさ」

 

「それはそうだけどさ……」

 

 彼女の言う通りなのだが、そういう理屈では説明できない寂しさがある。

 家族の中では僕が一番ひよりさんと顔を合わせる機会が多いわけなのだが……多分、この同棲生活の終わりを一番悲しんでいるのも僕だ。

 

 母や弟たちに聞かれたらどれだけ贅沢な悩みだと言われそうではあるが、寂しいものは寂しいんだから仕方がない。

 そんなふうに心の中で情けなく開き直ってみせる中、ひよりさんが口を開く。

 

「まだ家を出るまで時間があるし、少しだけ話をしようよ。夏休みの思い出の振り返りってことでさ!」

 

「……うん、そうだね」

 

 立ったままではなく床に腰を下ろして、落ち着いた体勢を取る。

 そうした後、僕たちはもう随分と昔のことのように思えるこの夏の始まりからの全てを振り返っていった。

 

「始まりは両家の顔合わせ……いや、もう少し前の江間のストーカー行為からかな? それがまさか同棲生活に繋がるだなんて思いもしなかったよ」

 

「そうだよね。こういうの何て言うのかな? 瓢箪から駒? 棚から牡丹餅? まあ、色々あった末にいい形になったから、あたしとしてはラッキーだったよ!」

 

「まあ、確かに……一緒に水着を買いに行けたのも、同じ屋根の下で生活してたからだもんね」

 

「他にも色々あったじゃん! お盆のお墓参りとか、お義母さんから餃子のレシピを教えてもらったりだとか、家族みんなでホラー番組を見たりとかさ……それ全部、こうして一緒に過ごしてたおかげだよね」

 

 改めて振り返ると、この夏は本当に色々なことがあった。

 一緒に買い物に行ったことも、プールに遊びに行ったことも、他にもたくさんのことをひよりさんと一緒に過ごして……その全てが楽しかったと、心の底から思える。

 

 心の中のアルバムをめくって毎日を思い返せば、その全部にひよりさんとの思い出があることがわかった。

 多分……いや、絶対に……この夏休みが楽しかったのは、彼女が一緒にいてくれたからなんだろうなと思って微笑んだ僕へと、ひよりさんが言う。

 

「うわ~っ! 思い返してみたら他にも二人きりで過ごしたりだとか、弟くんの部活の大会の応援に行ったりだとか、いっぱい思い出があるじゃん! あと、初めて雄介くんに裸を見られたこともあったな~……!」

 

「あの、その記憶だけはどうか心の奥底に封印してください。それとご両親には絶対に言わないで……!!」

 

 懐かしそうに語りながら最後に特大級の爆弾を仕込んでくるのは、彼女のいつものからかいなのだろうか?

 見事に心の急所にクリーンヒットした僕が呻く中、にやにやと笑いながらひよりさんが話を続ける。

 

「え~? あたしにはそう言ってるけど、雄介くん的にはばっちり記憶しちゃってるわけでしょ~? ちょっと不公平じゃな~い?」

 

「忘れようったって忘れられるわけないでしょ、あれは……!!」

 

「にししっ! まあ、そうだよね~! もうすっかり忘れましたって言われたら、普通にそっちの方がショックだもん!」

 

 ずいずいと距離を詰めながらのからかいに、僕は顔を赤くするしかない。

 微妙に胸を押し当ててきているのは計算しての行為なのか、はたまた偶然なのかはわからないが……そうやって僕に迫りながらからかってくるひよりさんは実に楽しそうだ。

 

 そんな彼女のおかげで少しずつ感じていた寂しさが薄らいでいく中、ふふっと微笑んだひよりさんが僕へとこんなことを言ってくる。

 

「はい、じゃあここでクイズで~す! この夏休みの中であたしが一番楽しいって感じた思い出は、いったいなんでしょう!?」

 

「えっ? ええっ……? 急に言われてもなぁ……?」

 

 ひよりさんが一番楽しかった思い出とは、いったいどれだろうか?

 僕からすれば全部が楽しかった思い出だし、彼女が何を一番楽しんでいたのかはわからない。

 

 もしかしたらあれだろうか? いや、こっちかもしれないな……と僕が色々と考えを巡らせる中、笑みを強めたひよりさんがその答えを告げてきた。

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