ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ふふふっ! 正解はね……この家で、雄介くんや真理恵さん、弟くんたちと一緒に過ごした時間全部でした~!」
「家で過ごした時間? どこかに遊びに行ったことじゃなくって?」
「うん! 雄介くんの家で過ごした時間だよ!」
ちょっと意外なひよりさんの答えに驚く僕へと、彼女は大きく頷いた後で念を押すようにそう答えてくれた。
そうしながら微笑みを浮かべる彼女は、その理由を僕に語っていく。
「雄介くんも知っての通り、あたしの両親は共働きでさ。家にいないことが多いんだよね。あっ、別にそのことに不満を持ってるってわけじゃないよ? あたしのことを大切に想ってくれてることはわかってるし、今回も色々と大変だったのに一生懸命に動いてくれたことも感謝してる」
そう自分の家族について前置きした後、咳払いを一つ。
少しだけ恥ずかしそうにしながら、ひよりさんは話を続けた。
「でもやっぱり、寂しいものは寂しいんだよね。長い間、あの広い家の中で一人でご飯を食べてる時とか、特にそう思った。だけど……この夏休みの間はそうじゃなかったよ。真理恵さんが、雅人くんが、大我くんが……何より大好きなあなたが、ずっと一緒にいてくれた。毎日のように一緒にテーブルを囲んでご飯を食べてる時とか、すっごく楽しいな~って思ったんだ」
「ひよりさん……」
「……最初は不安だったし、紫村があたしを探してるって聞いた時もちょっと怖かったけどさ。この夏休みの間、一度も
嬉しそうに微笑んだひよりさんが、視線を上に向けながら息を吐く。
この夏の思い出を振り返り、それを懐かしむように目を細めた彼女は、がっくりと項垂れると共におどけ半分の様子で愚痴っぽく僕へと言った。
「だから、あたしも寂しいよ~! あたしだって雄介くんたちともっと一緒にいたい! でも……今はしょうがないもんね。納得するしかないや!」
そう言った後、ひよりさんが顔を上げる。にやっと笑った彼女は……またおどけが半分、だけど確かな真面目さも感じさせる雰囲気で、僕を見つめながら言った。
「でも、やっぱり寂しいからさ……できるだけ早く、あたしを
「……うん、もちろんだよ。でも、僕も母さんたちも、もうひよりさんを本当の家族だと思ってるよ?」
「にししっ! そう言ってもらえるのは嬉しいね! でもまあ、あたしが期待してるのはそういうのとは別なんだってこと、わかってるでしょ~?」
にやにやと笑うひよりさんが肘で僕をぐりぐりと突いてくる。
そんな彼女が何を言わんとしているかを理解している僕もまた、笑みを浮かべると共に口を開いた。
「……わかってるよ。ついさっき、お義父さんからもひよりさんをよろしくって言われたばっかりだしね。ちゃんと、幸せにさせていただきますとも」
「んっ……!? そっか、お父さんとそんな話してたんだ。へ、へぇ~……!」
僕が吾郎さんをお義父さんと呼んだことや、既に親からも公認をもらっていたことを知ったひよりさんが目を丸くして驚く。
そうした後で顔を赤くして恥ずかしがる彼女を抱き締めながら、僕は言った。
「名残惜しいけど……そろそろ時間だね。寂しいけど、家も今までよりずっと近くなったしさ。いつでも遊びに来てよ」
「うん、ありがとう! ……よし、行きますか!!」
ひよりさんもぎゅ~っと僕を強く抱き締め返した後で、気合いを入れたように言った。
これ以上は名残惜しさが勝ってしまうのだろう。この同棲生活を終わらせることを決めた彼女の言葉を尊重すべく、僕はひよりさんを抱き締めていた腕を解き、小さな体を解放する。
最後の荷物を手に取り、立ち上がったところで……ひよりさんは何かを思い出したかのように僕を見ると、いたずらっぽく笑いながら言った。
「あっ、そうだ。
そう言って彼女が見せてきたのは、僕の制服のネクタイだ。
予備も用意してあるから別に構わないよと苦笑しながら僕が応えれば、ひよりさんは嬉しそうに笑いながらそれを懐へと納めてくれた。
玄関まで彼女を見送り、扉を開けて……家の外に出る。
すぐ近くにある新居を見つめ、そこに向かって歩き出したひよりさんの背を見つめていた僕は、大きな声でその背に叫んだ。
「ひよりさん!」
その声に驚いたひよりさんが足を止め、振り返る。
少しだけそのまま見つめ合った後……僕は、微笑みを浮かべながら静かに言った。
「……また明日、学校でね」
「……うん! また明日会おうね!」
僕の言葉に笑顔を浮かべたひよりさんが、大きく頷きを見せる。
確かにひよりさんと過ごす夏休みは終わってしまったけれど、彼女と過ごす日々はこれからも続いていく。
何度だって幸せにして、笑顔にしてみせるぞと思いながら……夏休みの終わりと共に訪れた新しい始まりを確かに感じる僕は、夏休みの最後のページに最愛の彼女の笑顔を記憶しながら、彼女へと手を振り続けるのであった。