ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「まだまだ雄介くんも初心だよね~! キスもしたのに、まだ間接キスで緊張するだなんてさ~!」
「そういうことに一切緊張しない自分が想像できないもの。でもまあ、少しずつ抵抗がなくなってる気はするけどね」
朝食を食べ終えた後、僕たちは家に帰るのではなくもう少しだけ駅の方へと足を運んでいた。
理由は単純で、明日の朝食用と今日の昼食用の食材を購入しておこうとなったからだ。
単純に、このまま朝デートを終わらせてしまうのはもったいないという気持ちが少なからずあったとは思うが……それは言葉にしなくても伝わっていると思う。
そんなわけでスーパーまでやってきたところで、ひよりさんが先ほどのコーヒーショップでの一幕を切り取り、くすくすと笑いながらからかってきた。
確かに彼女の言う通り、もうキスまでは経験しているわけだし、何度も間接キスはしてきたわけなのだが……やっぱり緊張してしまう。
逆に、お付き合いを続けてキスやらなんやらを経験した後でも自分が人目を気にせずにひよりさんとそういうことができるような気がしない僕は、もしもの可能性であるそうなった自分を想像して、渋い表情を浮かべてしまった。
「な、なんか、すごい気持ち悪い自分がいた……すごいチャラ男になってて、改めて考えてもああはなりたくないな……」
「あははははっ! それはあれだね、サンプルが少ないからでしょ? 女の子と堂々とイチャイチャする=チャラい男、みたいなイメージしか雄介くんの中にないからじゃない?」
言われてみれば確かにそんな気がする。
そもそもそういうカップルを現実で見たことがないし、大半がドラマやら漫画で見たバカップルのイメージというのが正直なところだ。
ということをひよりさんに伝えてみれば、彼女はまた大笑いした後でにやっとしながらこう言ってきた。
「いや、でもさ。あたしたちも大概バカップルだと思うよ? 人前であ~んとか、膝枕とかいっぱいしてきたわけだしさ」
「うむぅ……!」
これまた言われてみれば確かに案件だ。鉢村さんや熊川さんにもそんなことを言われたような気がする。
チャラチャラしているわけではないし、自分なりに緊張していたりする場面も多いのだが……バカップルと言われたら否定できない気しかしない。
「でもいいんじゃない? 周りに迷惑かけるようなことさえしなければ、相手への好きって気持ちを示すのは悪いことじゃないでしょ?」
「……そうだね。やり過ぎは良くないけど、そういう気持ちをちゃんと示すのは大事だと思う」
そう言って、ひよりさんに先んじて買い物かごを取り、もう片方の手を彼女へと伸ばす。
荷物は僕が持つという意思表示と共に、もう一つの要望も彼女に伝えてみせれば、ひよりさんは嬉しそうに笑いながら僕の手を取ってくれた。
「こういうことでしょ。ちゃんと好きを伝えるってさ……」
小さな彼女の手が僕の手を掴み、少しずつ握り方を変えていく。
握手するような握り方から、指と指を絡めて緩く握る恋人繋ぎをしたひよりさんは、ぎゅっと小さな手に力を込めながらそう言った。
「……僕たちなりの形を作っていこうか。多分、それで正解だと思うからさ」
「そうだね。それが一番だ……」
多分、僕たちは普通という枠組みから外れている。
付き合うきっかけはひよりさんが浮気されたことだったし、そこから紆余曲折を経た上で今現在疑似的な同棲生活までしている高校生カップルだなんて、世界中を探しても早々見つけられるものじゃないだろう。
だからこそ、普通の恋人らしさを目指さなくてもいいのだと思う。
僕たちは僕たちらしく、お互いへの好きという気持ちを示しながら歩いていけばいい。
きっと……自分たちなりの関係を作っていくということは、世の
回り回ってそれが普通につながるんじゃないかと、遠回りだけど正しい道を歩いて行こうと話したところで、ひよりさんがからからと笑いながら言った。
「でもまあ、今は手を繋ぐのは止めておこっか。買い物する時に不便でしょ?」
「えっ、あっ、うん……そうだね……」
僕の右手には買い物かごがあって、左手はひよりさんの右手と繋がれている。
棚から物を取る時は小柄なひよりさんの左手だけで全部取ってもらわないといけないというのは、確かに不便だ。
名残惜しいが仕方がないと手を開いた僕の心を見透かしているように、蠱惑的に笑ったひよりさんが甘い声で言う。
「ふふ……っ! そんな名残惜しい顔しちゃって……! 大丈夫だよ。帰り道では、いっぱい手を繋いであげるからさ……!」
恥ずかしいけど、その言葉はとても嬉しくもある。
やっぱりひよりさんの態度にドキドキしてしまう部分に関してはいつまで経っても治る気がしないなと思ったところで、彼女が大きなあくびをした。