ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ふぁぁぁぁ……っ」
「あはは……! おっきなあくびだ。眠くなっちゃった?」
「ん……早起きだったし、お腹が膨れたからちょっとだけね……」
手で口を押さえ、かわいい声を漏らしたひよりさんにそう言えば、彼女は恥ずかしそうに笑いながら頷いてみせた。
目も少しだけとろんとしているし、実際今日は眠っているところを大きな物音で起こされてしまったから気持ち良く目覚められたというわけではなかったし、眠気も残っていたのだろう。
朝から散歩をして少し疲れたところで朝食を取ったおかげでお腹が膨れて、その眠気が膨れてきたのかな……? と考える僕の前で、ひよりさんがポキポキと体の骨を鳴らすように体を動かし始める。
「ごめん、ちょっとタンマ。眠気覚ましに少し体動かさせて」
体を捻ったり、肩を回したりしながら全身の凝りをほぐし、眠気を吹き飛ばしていくひよりさん。
僕はそんな彼女のことを何の気なしに見つめていたのだが……少しだけ、気まずい場面を目にしてしまった。
「んん~~~~~~……っ♥」
背伸びをするように体をぴんっとさせながら両腕を伸ばす運動をしたひよりさんが、ちょっと官能的に聞こえる声を漏らす。
ああいう動きって体が伸びる感覚が気持ちいいし、眠気が飛んでいく感じも同じく心地良いからそういう声が漏れてしまうことは別におかしくないのだが……それはそれとしてドキッとしてしまう。
隣でそんなひよりさんの姿を見つめる僕の目には、伸びの運動に合わせてぷるっと揺れる胸の動きが見えてしまったのだが、それ以上に気まずさを覚えるのが無防備に晒されている脇だ。
今まで見ることもなかったし、これからもそれは同じだとは思うが……こういう場面に直面すると、なんだか不思議と目を惹かれるものがある。
つやっとしているというか、ふにふにしているというか、胸やお尻のように大きいだとか柔らかそうだとかの直接的なものではないが、確かな魅力がそこには存在していた。
上手く言えない、上手に言葉にできないのだが、普段は服に隠されているそういう部分がこうして無防備に晒されているのって、なんだか、こう――!!
(えっちだ……!)
という身も蓋もない正直な感想が自然と思い浮かんできたところで、ふと我に返った僕は慌ててひよりさんから目を逸らした。
そういうの良くないと自分に言い聞かせつつ、どうにかこうにか冷静になろうと頑張る僕へと、ストレッチを終えた彼女が声をかけてくる。
「雄介くん、どうかしたの? なんかあっちにあった?」
「えっ? あ、ああ! 僕もちょっと眠気がすごいから、ひよりさんみたく軽く体を動かそうかなって!」
「ああ、そっか。あくびって移るもんね。雄介くんも早起きだし、眠くなってきちゃったか」
慌ててそう取り繕って首をぐるんぐるんと動かしながらの僕の答えに、ひよりさんは特に不自然さを感じることもなく笑いながらそう答えてくれた。
思い返してみれば、さっきの伸びをしている時に彼女は目を瞑っていたような気がする。
そのおかげで僕に見られていることも不自然過ぎる反応にも気付かず、すんなりと僕の言葉を信じてくれたのだろう。
安心すると同時にさっきのあの動きは僕をからかうためとかではなく、完全に無意識というか自然な流れでああしてしまったということで、それって即ち本当に無防備だったということなのだろう。
そんな姿を曝け出せるくらいに僕のことを信用してくれているというのに、そんなひよりさんのことをえっちな目で見てしまったことに関して、申し訳なさがこみ上げてくる。
(よくないなぁ、よくないよなぁ、そういうの……)
自分の中で後悔の一句を詠んでしまうくらいには申し訳ない。
とは思いつつも、こういう考え方って実際どうなんだと心の中の悪魔みたいな存在が語り掛けてきていたりもする。
恋人なんだし、多少はそういう目で見ても仕方がないというか、逆にそういう目で見ない方が失礼なのではないだろうか?
そもそもひよりさんもそれを承知で『あたしのことが大好きな尻フェチの雄介くんにぶっ刺さるコーディネート』なんてものを着てくれたわけで、これはつまり彼女の目論見通りということじゃあないのか?
いやでも僕はひよりさんのご両親から信頼されて彼女を預けてもらっているわけで、そこで彼女をそういう目で見るのはその信頼を裏切ることになっているような……?
だがしかし、手を出すならまだしも大好きな恋人のことを女性として魅力的だと思ってはいけないとまでは吾郎さんも睦美さんも思っているわけがないし、そんなの人間として絶対に不可能だとも思ってしまう。
色々と考えた末に思ったこととしては……(以前から決めていたことだが)「この夏休み中はひよりさんに変なことはしないようにしよう」ということだ。
色々と大変な時期に、こうして同棲することになって、これ幸いにと手を出すというのは絶対によろしくないと思う。
そこまでいくとご両親からの信頼も失うし、将来的にひよりさんを迷わせる遠因にもなりかねない。
最後の一線は踏み越えるのはダメだ。でも、それ以外ならば多分大丈夫だと思う。
というわけで、改めて思わせていただこう。
(ひよりさんは、えっちだなぁ……!)
「あ、雄介くんも目がしゃっきりしてきたね。じゃあ、買い物しよっか!」
「うん、そうだね!」
眼が冴えたというより、迷いがとりあえず振り払えたということですっきりした僕へとひよりさんが言う。
僕もまた彼女の言葉に応えながら、昼食の材料を求めてスーパーで買い物をしていくのであった。