ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
取り立てて特別なことがあるわけでもない、普通の食卓。
ほかほかとした湯気を立てる焼きそばをただ食べるだけ。たったそれだけの日常の一コマだけど……言葉にできない幸せがそこにある。
「おおっ! 焼きそばって最初に焼き色を付けるとカリカリになって美味しいね! あたし、あんまり作んないから知らなかったよ!」
「ひよりさんが作ってくれたソースもいい味出してるよ。粉末ソースにちょっと手を加えるだけで、こんなに美味しくなるんだね」
お互いがお互いに手を加えた部分を褒めつつ、二人で作った焼きそばを美味しく食べていく。
あっという間に皿の上の料理は無くなってしまって……後には満足気な僕たちだけが残された。
「ふ~っ! 満腹、満腹! 余は満足じゃ~!」
「ふふふっ! それなら良かった。はい、お茶」
「ありがとう!」
ぽんぽんとお腹を叩くひよりさんへと麦茶を注いだグラスを差し出せば、彼女は満面の笑みを浮かべながらお礼を言ってくれた。
食後の一休みとなる時間を過ごす中、僕は微笑みを浮かべながら口を開いた。
「ひよりさん、やっぱりよく食べるね。朝もあれだけ食べたのに、焼きそばも残さず食べちゃったしさ」
「雄介くんの作ってくれた料理が美味しかったからだよ! それにほら! 焼きそばみたいなジャンクフードってぺろりといけちゃわない?」
皿に盛った焼きそばは、一応ひよりさんの方を多めにしておいた。
正直、食べきれないかもしれないと心配していた部分もあったのだが……杞憂だったようだ。
朝もたくさん食べた上で、昼も一人前以上の焼きそばを見事に平らげたひよりさんの笑顔や、僕の作った料理が美味しいという言葉が、また幸せを感じさせてくれる。
こういう時間が幸せを強く実感できる瞬間だなと思いながら、僕はお茶を飲んでいたのだが……?
「でも本当に美味しかったな~! 朝のホットサンドも美味しかったし、ツナとチーズの相性も抜群……うっ」
「ん……? どうしたの、ひよりさん?」
ニコニコ顔で話をしていたひよりさんの表情が一気に曇る。
何か危機的なことに気付いた様子の彼女を不審がって問いかければ、こちらへと顔を向けたひよりさんが表情を引きつらせながらこう答えた。
「い、今さらだけど、カロリーヤバいなって……み、みんなでプールに行く予定もあるのに、これは油断し過ぎたかも……!?」
「そう? 一日くらいなら大丈夫じゃない?」
「大丈夫じゃない! ここ最近、水着を着る機会に備えて食べる量を控えめにしてたのに、これじゃあその意味が~! うわ~っ!」
苦悶するひよりさんの様子を見た僕は、あれで控えめだったのか、という心の声を口には出さないことにした。
服の中に手を突っ込み、おそらくはお腹のお肉の乗り具合を確認しているであろう彼女に苦笑を浮かべながら、僕は言う。
「そんなに気にすることないよ。女の子はちょっとふくよかな方がかわいいしさ」
「そうじゃなくって! ……あたしが、一番かわいい姿を雄介くんに見てもらいたいの! 折角の水着姿なのに、お腹が出てたりしたら最悪じゃん……!!」
なんともかわいらしい理由を口にしつつ、ぷくっと頬を膨らませるひよりさん。
僕はそういう乙女心に疎いなとちょっと反省しつつ、正直な感想を述べる。
「ひよりさんはいつだってかわいいよ。ちょっとぽちゃっとしてるくらいで、それは変わらないって」
「でも……!」
「ひよりさんの気持ちもわかるけど、僕はそういう油断してる姿を見せてもらえた方が嬉しいかな。それだけ僕のことを信用してくれてるってことだし……そんなひよりさんもかわいいと思うよ」
今朝から何度も思っていたことを正直に告げれば、ひよりさんは顔を赤くしながら俯いた。
脇腹を擦っていた手を下腹部に当てて体を丸める彼女へと、ちょっと不安になった僕が問いかける。
「あ、あの、大丈夫? お腹痛くなっちゃった?」
「ううん、平気……不覚にも今の言葉でときめいちゃっただけだから……」
なんだかよくわからないけど、とりあえず大丈夫そうだ。
ただ、この話題を続けるのはひよりさんの精神衛生上よろしくない雰囲気も感じている。
というわけで話題を変えることにした僕は、何を話そうかと考えながら空になったお皿を見つめた後で、こんなふうに話を切り出してみることにした。
「焼きそばかぁ……! なんか、お祭りを思い出すね」
そんなに時間が経っているわけではないが、どうにも懐かしく思えてしまう花火大会とお祭りのことを振り返った僕がしみじみと言う。
色々なことがあったあの日に思いを馳せた僕は、そこからひよりさんと思い出話をしていった。