ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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不憫だぞい!雅人くん!

「あの時もひよりさんはたくさん食べてたよね。焼きそばだけじゃなくって、唐揚げとかたこ焼きとか……」

 

「そうだったね~……うう、思えばあの時から節制すべきだった……! 彼氏ができたんだから、海かプールに行くだなんてことは目に見えていたのに……!」

 

 また話がリピートしてしまったことに苦笑しつつ、テーブルに突っ伏すひよりさんを見やる。

 でも、あの時のひよりさんは幸せそうだったなと改めて僕が思う中……顔を伏せたままの彼女が、あの日の一番の思い出について言及した。

 

「でも、やっぱり……あたしたちの花火大会の思い出といったら、()()……だよね?」

 

「うん……あれだね……」

 

 今でも鮮明に思い出せる光景。打ち上げ花火に照らされる人気のない公園での、彼女とのファーストキス。

 甘くときめくあの感覚と、間近で見たひよりさんの普段とは違う雰囲気の表情を思い返す度に、胸が高鳴ってしまう。

 

「改めて思ったんだけど、最後に食べたのがイチゴ味のかき氷で良かったよね。焼きそば味のキスとかだったら、ときめきとか微塵もないでしょ?」

 

「そうかな? 僕は十分、ときめいちゃったと思うけどな」

 

 あの時もそんなことを言っていたなとひよりさんの発言に微笑みつつ、初めてのキスが何味であろうともときめきは変わらなかったと僕は言う。

 いや、初めてのキスでなくとも、彼女との口付けにときめかないことなんてないよな……と思った時、呟くようなひよりさんの声が耳に響いた。

 

「じゃあ、する? 今、キス……」

 

「えっ……?」

 

 驚いた僕が彼女を見れば、顔を上げたひよりさんがほんのりと頬を染めながら上目遣いでこちらを見つめている様が目に映った。

 そのかわいらしい姿にドキッとした僕へと、彼女が言う。

 

「焼きそば味のキスでもドキドキするか、試してみようよ。雄介くんが良ければ、だけどさ……」

 

 潤んだ瞳でそう言うひよりさんの雰囲気に、思わずごくりと息を飲んでしまう。

 期待が込められた視線で見つめられる僕は、既に答えが出ている心臓の鼓動を感じながら、ゆっくりと頷いてみせた。

 

「ん……じゃあ、えっと……そっち、行くね?」

 

 テーブルを挟んだままではキスなんてできない。もっと近付かなくては。

 一言そう述べた彼女は、僕に近付くために立ち上がろうとした時だった。

 

「ふぁ~……! なんか美味そうな匂いがする~……!」

 

「「!?!?!?」」

 

 がちゃり、と音を立ててリビングの扉が開き、次男の雅人が姿を現した。

 実に眠そうな弟は大あくびをしながら寝ぼけまなこを擦っており、唐突な第三者の登場に僕もひよりさんも盛大に驚き、ビクッと体を飛び上がらせてしまった。

 

 ただ幸運なことに、まだ寝ぼけ半分な雅人は僕たちのそんな反応にも全く気が付いていないようだ。

 ふらふらといい香りに誘われるようにしてキッチンに向かった弟は、鼻をひくつかせると共に口を開く。

 

「あ~……ソース焼きそば作った感じ? いいな~、なんか腹減ってきちゃった……俺も食べたい、な……?」

 

 そこでキッチンの様子を確認した雅人は、既に空になっているフライパンを発見したようだ。

 少し考えた後、こちらへと振り返った弟が僕たちへと質問を投げかける。

 

「あの、兄貴? 俺の分の焼きそば、材料とか残ってる……?」

 

「あ、えっと、その……」

 

 ……正直に申し上げると、今の今まで雅人が家で寝ていることを忘れていた。

 だからこそキスなんて大胆な真似をしようと思ったわけで、要するに完全に失念していたから弟の分の食材は買ってきていない。

 

 ということを、僕の反応から察したようだ。

 完全に目が覚めたであろう雅人は、キッチンに置いてあった洗う前の菜箸を掴むと、それをシンクへとダンクしながらネットでミームにされいてる某最後の一週間的映画で有名なシーンを髣髴とさせる叫びを上げた。

 

「畜生めーーーっ!」

 

「いや、あの、ごめん。うっかりしてて……」

 

「うっかりだ? 義姉さんとイチャイチャしてて俺の存在なんて記憶から消えていたとはっきり言わない兄貴なんて大っ嫌いだ!」

 

「い、いつもだったら昼ご飯は食べないし、今日もそうかなって……」

 

「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないだろ!? っていうか俺も兄夫婦と家に取り残された時点でこうなる可能性を考えておくべきだったわ! お前も俺もイッツ判断力足らんかっただわ!」

 

 ここで鋼鉄の人を出してくれたりだとか、ひよりさんのおっぱいぷるんぷる~ん! って言ってくれたらまだちょっと笑い話にできたと思う。

 嘆きながら叫んだ雅人はドタバタと朝の母や大我よりも騒がしい足音を響かせながら支度を終えると、再びリビングへと戻ってきて僕たちへと叫んだ。

 

「今から外に出掛けてご飯食べてきます! お前は俺が居ない家の中で、思う存分義姉さんとイチャコラしとけ、バーカッ! 夕ご飯までには帰ります~! リア充爆発しろっ! いや、義姉さんはしなくていいっ! ボケ兄貴だけ大爆発しろ!」

 

 そう言い残し、雅人は全力疾走で家から出て行った。

 途中、廊下で転んだあいつを不憫に思いながらも見送った僕たちは、落ち着いた後で話し合う。

 

「……どうする? 電話とかして謝って、帰ってきてもらう?」

 

「いや……あいつなりに気を遣ってくれたみたいだし、今電話しても逆効果っぽいだろうし……とりあえず、感謝とお詫びの印にあいつの好物でも買っておくよ」

 

 悪気こそなかったが……いや、悪気がなかったからこその申し訳なさを募らせた僕たちは、昼食後に再び外に出て、雅人の好物であるスイーツを買いに行った。

 夕食後にお詫びの印としてそれを渡したのだが、「俺への謝罪をダシにしてこいつらまたデートしたんだ!」と泣かれた。

 

 いったい僕たちは、どうすれば良かったんだろうか……?

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