ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
ある日の部活終わりの話(大我視点)
「全員、礼っ!」
「ありがとうございましたっ!!」
夕方、いつも通りの時間に柔道部の部員全員で並び、武道館へと礼をしながら大声で挨拶をする。
入部して数か月、この恒例行事にも慣れつつある一年生たちの姿を見ながらカバンを肩にかけた俺は、軽く伸びをした後で校門に向かって歩き出した。
「いよいよ今週だな、夏の大会……これで先輩たちも引退かぁ……」
「勝てばまだ一緒に練習できるだろ? もう負けた気になってんじゃねえよ」
「大我の言う通りだぞ~! お前たちの活躍次第で俺たちの引退が遅くなるんだから、頑張ってくれよ!」
がっはっは! と大きな声で柔道部の部長である大貫先輩が笑う。
苗字に『大』と入ってはいるが、残念ながら体格に関しては小さめの大貫部長は、そう言った後で俺に声をかけてきた。
「特にお前には期待してるぞ、大我。お前は我が柔道部のエースなんだからな!」
「俺も先輩たちともう少し部活を続けたいですし、頑張りますけど……先輩たちだって頑張ってくださいね? 俺一人が勝ったところで意味ないんですから」
「わかってるさ! まあ、見とけ! 公式戦ではいいところなしの俺だが、引退するまでに一勝くらいは挙げてみせるさ!」
「いや、目標低過ぎません? 自分のことなんですから、もっと気合い入れてくださいよ!」
微妙に頼りない大貫部長の言葉に対して友達がツッコミを入れれば、どっかんどっかんと大爆笑が起きた。
戦績も振るわないし、こんなふうに情けない姿を見せることも多い大貫部長だが……心の強さと俺たち後輩への気遣いを忘れない良いところもたくさん持っている。
そんな先輩だからこそ部長に推薦されたんだろうし、部員全員が今日までついてきたんだろうなと思いながら、俺は小さな声で呟いた。
「もうちょっとだけやってたいっすね、このメンバーで……」
「ああ、そうだな……」
残念ながら、俺たちの柔道部は全国大会に行けるような強豪校ではない。
俺が個人で県大会に行ける程度の、弱小とも中堅とも呼べない微妙な戦績だ。
仮に奇跡が起きて全国大会まで進めたとしても……どのみち、そこで先輩たちは引退する。
このメンバーで部活動ができるのもこの夏までだという、そんな寂しさが俺の胸の中にはあった。
(だからこそ、せめて悔いのないように……だよな)
どう足掻いたって終わりはやってくる。大事なのは、その瞬間まで全力を尽くし続けることだ。
中学三年でバスケを止めると決め、県大会の途中で強豪校と当たって負け、引退が決まった時……俺の兄貴は、寂しそうではあったが悔いを残した様子はなかった。
まだ俺にはもう一年あるとはいえ、このメンバーで迎える夏に悔いは残さないようにしようと兄を見習うことを決めながら歩いていた俺だが……そこで、周りを歩いていた友人や先輩たちがいなくなっていることに気付く。
「……またかよ、おい」
少しうんざりとしながら振り返った俺は、ひっそりと息を潜めながら体育館の中の様子を窺う部活の仲間たちの姿を見て、大きなため息を吐く。
なんかもう、この光景も見慣れたよな……と思いながら俺がみんなの方へと近付いていけば、体育館の中で片付けをする女子バレー部員たちの声と、興奮気味の仲間たちの声が聞こえてきた。
「いいなぁ、かわいいなぁ……!! 背も高くてスタイルのいい子ばっかりだなぁ……!!」
「シンプルに女の子がいる部活って羨ましいっすよね……!」
「ううっ! バスケ部もサッカー部も女子のマネージャーがいるのに、どうして俺たち柔道部には女子の影すらないんだ……!?」
むさ苦しく涙を流しながら密集している男子たちの姿というのは、とても見苦しいものがある。
中学生だからまだいいが、これが高校生とかになったらもっと見苦しくなるんだろうなと思いながら再びため息を吐いた俺は、嘆く先輩たちへと声をかけた。
「なにやってんですか、ホント。何度も言ってますけど、普通に怪しい集団でしかないですよ?」
「わかってる、わかってるさ。でもな、大我……憧れは、どう足掻いたって止められるもんじゃねえんだよ……!」
「大我、お前にわかるか!? この三年間、女子マネージャーという存在に憧れ続けた俺たちの気持ちが! 運動部女子との甘酸っぱい青春に想いを馳せた俺たちの期待が! その全てが叶わなかった俺たちの無念が、貴様にわかるというのか!?」
わかりたくないです、という言葉が口から出掛かったが、ギリギリで抑えられた。
握り締めた拳を震わせながら、情けないことを全力で訴えてくる大貫部長をこれ以上傷付けないようにと難しい表情を浮かべながら押し黙る俺であったが、部長は勝手にダメージを受け始める。
「ううう……! やっぱ柔道部ってモテないのかなぁ……? それともチビが原因かぁ? この間、C組の近藤さんにもフラれちゃったしさぁ……」
「あ、また記録伸ばしたんですね? これで十二回目でしたっけ?」
「人が玉砕した回数を嬉々としてカウントすんな!」
大貫部長はとても心が強い人だ。同時に、とても惚れっぽい人でもある。
この二年半、先輩は十二回もの
まあ、そのすごさが逆に作用しているというか、顔も性格も悪くないのにモテないのは柔道部だからとか身長とかの問題ではなく、そういう悪い意味で軽過ぎるフットワークが原因なんじゃないかとも思ったが、それを言ったら部長の心を抉るだけなので止めておくことにした。
「へっ! 俺を弄ってるお前らだって同類だろうが! 誰も彼女なんていないくせに!!」
「ぐはぁっ!!」
部長の言う通りだ。我が柔道部には、残念ながら彼女持ちの野郎は誰一人としていない。
入学してからそう時間が経っていない一年生は仕方がないとして、俺たち二年や三年の先輩たちには結構効く言葉だ。
そういう意味では玉砕を重ねているとはいえ、恋人を作ろうと動いている部長が一番マシかなと考える俺の前で、その大貫部長が言う。
「いいんだよ、俺たちはこれで! 俺たちは恋人に現を抜かすことなく柔道に打ち込んできた仲間たちだ! 俺たちの間には強い絆がある! そう……モテない男たちの絆がな!!」
物は言いようだ。最後の一言で全部が台無しになった感じがあるが、それでもいい感じに話がまとまった雰囲気がある。
でもまあ、とりあえず女子たちに見つかって不審に思われる前にこの場を離れたいなと、そんなことを俺が考えていた時だった。
「あっ、来た! お~い! 大我く~ん!!」