ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「お待たせ、ひよりさん……って、柔道部のみんなも揃ってるじゃないか。先生の話が長引いたと思ったけど、ちょうど良かったのかな?」
「お疲れ様です、雄介先輩!」
「お久しぶりです! 先輩も元気そうで何よりです!!」
義姉さんに声をかけながら走ってきた雄介が、一緒にいる俺たちを見てそんなことを言う。
去年からちょくちょく差し入れをしに柔道部に顔を出してくれていた雄介のことはみんなが知っており、普通に和やかな会話が繰り広げられていたのだが……?
「……大我、ちょっと」
「はい? なんですか、部長?」
一人だけ輪から離れたところにいる大貫部長に手招きされた俺は、嫌な予感を覚えながら指示に従った。
うんざりつつも部長に近付けば、確認といった様子でこんなことを質問される。
「もしかしてだけどさ……あの女の子の彼氏って、雄介先輩?」
「はい、そうです」
別に隠すことでもないので正直にそう答えれば、大貫部長はキリキリと油の差されていないブリキ人形みたいな動きで振り返り、雄介と義姉さんを見つめた。
そうした後、再び俺の方を向いた部長は……そのまま崩れ落ちると共に、情けないことを叫ぶ。
「畜生! 羨ましい!! っていうかズルいだろ!? この世の中は不公平だっ!!」
かける言葉が見つからないってこういう時にいうんだなって、俺はこの世で最も知りたくない形でどうでもいい情報を学んでしまった。
その場に崩れ落ち、おいおいと泣き叫ぶ大貫部長は、握り締めた拳をぶんぶんと振り回しながら本当に情けない訴えを俺へと叫び始める。
「おかしいじゃん! 不公平じゃん! 背も高くて運動神経も良くって、普通に顔もいい! あの人、モテる要素しかねえじゃん! その上、あんなにかわいくっておっぱいも大きい彼女までゲットして……俺がもってないもの、全部持ってるじゃん!!」
「あ~……どんまいっす」
「どんまいじゃねえんだよ~! 俺の三番目の初恋の相手の水野さん、雄介先輩が好きだからって俺の告白を断ったんだぞ!? 俺は二人の女の子にフラれてるのに、雄介先輩は二人の女の子に好かれてさ~! そんなのってねえだろうがよ~!」
兄貴を褒められて悪い気はしないのだが、同時に部長のことを哀れに思ってしまう。
可哀想だなとしか思えない部長の泣き言を聞いていた俺であったが、大貫部長は死ぬほど悔しそうにこう言葉を続けた。
「何より悔しいのがさ、仕方がないって思っちゃうところなんだよ! 雄介先輩、普通に優しくていい人じゃん! 引退した先輩たちとも仲良かったし、差し入れとか持ってきてくれる性格イケメンじゃん!? 恨ませてくれよ~! 憎ませてくれよ~! これが雅人の方だったら、全力で投げ飛ばしてたのにさ~!!」
多分だけど、雅人って舐められてるんだと思う。それか、後輩にも同級生にも滅茶苦茶嫌われてるかだ。
両極端な兄貴二人の評価に色々と考える俺であったが、今は大貫先輩を慰めてあげることにした。
「いやでも、普通に考えて部長にも反省すべき点はあると思いますよ? 初対面の相手にいきなり告白したところで、OK貰えるわけがないじゃないですか」
「ぐふっ……! で、でも、もしかしたらそういうストレートな男が好きって女子もいるかもしれないじゃんか……!?」
「そのやり方で十三回フラれてきてるんでしょ? 学習しましょうって」
「がはっ……! や、優しい言葉をくれ……! 傷心の俺をもっと苦しめないでくれ……!!」
う~ん、困った。普通に改善点を指摘して次につなげてもらおうと思ったんだけど、逆効果だったみたいだ。
人を励ますのって難しいなと思っていたら、いつの間にやら近付いてきていた義姉さんが声をかけてきたではないか。
「あはははは……大我くんの言う通りだね。お節介かもしれないけど、あのやり方じゃあ女の子もドン引きしちゃうよ?」
「うえっ……!?」
予想外の事態に大貫部長がまたフリーズする。
義姉さんに声をかけられたことで固まっているのだろうが、地味にさっきの告白でドン引きされていた事実も告げられていたことに、部長は気付いているんだろうか?
「あっ、あの! 先ほどは失礼しました! それで、その……後学のために、是非ともお聞かせいただきたいことがあるんですが……!!」
「ん? なにかな?」
男子の中でも小さ目な大貫部長に輪をかけて小さい義姉さんが、首を傾げながら応える。
こうして見てみると、やっぱり義姉さんってかわいいよなと兄の彼女のすごさを実感する俺の横で、部長はある意味禁断の質問を投げかけた。
「ゆ、雄介先輩のどこを好きになったのか、教えていただけないでしょうか!? どうしたらモテるのか、知りたいんです!!」
「ふ~む、なるほど……! そういうことね?」
「あ~……お~い、鈴木~! ちょっといいか?」
部長の質問と、それに対する義姉さんの反応を見た俺は、一年生の後輩を手招きした。
カバンの中から財布を取り出し、千円札を渡した後、俺はその後輩へと言う。
「そこの自販機でお茶とコーヒー買ってきてくんね? うん、できるだけ多く。ブラックコーヒーがあったら一本買っておいて。お前にも好きなの一つやるよ」
俺にパシられることになった後輩は、その不可解な指示に困惑し、怪訝な表情を浮かべている。
まあ、そうなって当然だろう。でも、すぐにこの指示の意味が理解できるはずだ。
本当に、可及的速やかに……苦い飲み物が大量に必要になる。だから、早く買ってきてほしい。マジで。
そのことと、今がどんなに危険な状況かも理解している俺の前で、義姉さんと部長が話を続けていった。