ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「雄介先輩のどこを好きになったんでしょうか!? やっぱりスタイル? それとも顔? 運動神経抜群なところですか!?」
「いや、その辺は別にかな。好きな部分ではあるけど、好きになったきっかけじゃあないよ」
「じゃ、じゃあ、どこに……!?」
にこにこ顔の義姉さんが大貫部長の質問にあっけらかんと答える。
なんか部長って色々残念な人だなと俺が改めて思っている間に、義姉さんは質問の答えを返していた。
「優しくて温かいところかな……うん、そこが一番大好き!」
「せ、性格……!? い、一番聞きたくない答えがきた……!!」
引き攣った表情を浮かべながら呻く部長の反応を見るに、この答えが想像できていたのだろう。
でも、そうであってほしくなかった様子の大貫部長へと、照れながら(だけどすごく嬉しそうに)義姉さんが話を続けていく。
「色々とあたしのことを気遣ってくれてるし、本当に優しいしさ。これは雄介くんだけじゃなくて大我くんたちもだけど、今もお世話になってるのに嫌な顔一つしないでくれてる。そういうとこ、温かいって思うんだ」
「うぐっ……」
「あとは、あたしの気持ちにちゃんと応えようとしてくれるところも好きだな。女の子慣れしてないし、どきどきしちゃうことが多いっていう自覚があるみたいだけど……それでも、あたしが名前で呼ぶようになったら同じように名前で呼んでくれるようになったり、色々考えて友達から恋人になろうって告白もしてくれた」
「ふぐぅぅぅ……」
「なんて言うか、優しいけどそれだけじゃないんだよね。普段はあたしがちょっとセクハラしただけであわあわするのに、大事なところではしっかり受け止めて、動いてくれる。あたしのことを一番に考えて、大切にしてくれてるところが……大好きなんだ」
「うっ、うっ、うっ……うぅぅぅぅぅ……!!」
(わぁ、泣いちゃった……!)
ギリギリで後輩が買ってきてくれたブラックコーヒーを飲みながら、俺は直球で義姉さんの惚気を聞かされた部長を見やる。
どこぞの小さくてかわいい生物のような反応を見せている小さいけどそこまでかわいいわけじゃない部長は、義姉さんが放つ甘いオーラに心をへし折られたようだ。
背後でぐびぐびと買ったばかりのお茶を飲む後輩たちへと視線を向けた俺は、視線で「な? 必要だっただろ?」と無言で語り掛けた。
こくこくと首を縦に振る後輩たちの反応を見た後、俺は大貫部長へと声をかける。
「部長? 自分から頼んで話を聞かせてもらっておいて、勝手にダメージ受けて泣くの止めてもらえません? 義姉さんが困ってるでしょ?」
「だ、だって、俺が三秒でフラれた女の子に、雄介先輩はここまで愛されてるって考えたら、なんか悔しくって……!!」
「体だけじゃなくて心も小っちゃいなぁ……! そんなんだからモテないんだよ、お前」
「玉砕したのもダメージ受けてるのも、自分が悪いのに……」
「お前らには傷心の俺を気遣うだけの優しさはないのか!? 鬼どもめ!!」
ここぞとばかりにボコボコにされる大貫部長に若干の不憫さは感じたものの、結構な自業自得感があるからあまり同情しきれない。
ああやって弄られることで元気を取り戻してくれたらいいなと考えていた俺へと、同級生が声をかけてきた。
「なあ、大我。雰囲気とかお前の呼び方とかから察するに、雄介先輩の彼女さんってお母さんたちとも結構関わってる……?」
「ああ、うん。もう何回もうちで飯食ってるよ。あっちのご家族からも大分信頼されてるし、両家公認的な関係だぞ」
今は同棲もしてるしな、という事実は当たり前ながら言わないでおいたが、既に家に何度も来て家族公認の仲になっているという話だけで柔道部の連中は言葉を失うくらいに驚いていた。
「え? じゃあお前、二人が一緒にいる時は、あのレベルの熱々っぷりを見せつけられてるってことか……?」
「いや、あんなの全然序の口だけど? 家ではもっとすごいよ、うん」
二人で一緒に料理を作ったり、ボディタッチも多めだったり、ちょっと目を離すだけで二人だけの世界に入ってしまったり……という、我が家での兄夫婦のイチャ付きっぷりを思い返しながらの俺の回答に、柔道部の面々はさらに驚いていた。
気が付けば、練習を終えた女子バレー部の部員たちも堂々と輪に加わって話を聞くようになっていて……なんか妙な形で注目を集めていることに、若干の気まずさを覚え始める。
「マジか……まだ進学して三か月くらいしか経ってないのに、あそこまでイチャイチャできちゃうんだな……!」
「高校生の恋愛ってすげ~……! 俺もかわいい彼女、欲しいな~……!!」
「尾上先輩って彼女さんにそんな感じなんだ。優しいのは想像通りだけど、あんなに甘々になっちゃうんだね」
「いいな~……私も先輩みたいな男の人と付き合ってみたいなぁ……」
周囲から聞こえる憧れの言葉は、俺に向けられたものではない。
それはわかっているが……やっぱり恥ずかしいものがある。
どうにかこの輪の中心から逃げ出したいなと俺が考える中、その期待に応えるように大貫部長が盛大な溜息を吐いた後でぼやいてくれた。
「はぁ~……性格かぁ……俺、そっちの方が自信ないんだよなぁ……」
「とりあえずお前はその無意味な告白癖をどうにかしろよ。女子に引かれる原因だろ?」
「それはそうなんだけどさぁ……」
当然のツッコミに対して、大貫部長が妙な反応を見せる。
その反応を見て、自分でもその悪癖を理解しているだろうに、どうして部長は簡単に告白する癖を直さないだろうかと俺が思ったタイミングで、苦笑を浮かべた義姉さんが口を開いた。
「ちょっとだけだけど……君の気持ち、わかっちゃう気がするな」