ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「えっ……!?」
大貫部長……というより、この場にいる全員が義姉さんの言葉に驚いていた。
こんな悪癖を持つ部長の気持ちが理解できるだなんて、どういう意味だ? と首を捻る俺たちの前で、義姉さんが言う。
「なんて言うか、自分に自信がないとネタに逃げちゃいたくなるよね。好きなんだけど、それを真っすぐにぶつけて拒絶されたら怖いっていうか……おふざけの告白だったら、フラれたとしてもいつものことって感じで流してもらえちゃうもんね」
「うっ……!」
「公開処刑みたいになっちゃって申し訳ないけどさ、あたしもわかっちゃうな。人を好きになるのって、意外と怖いものだもんね」
あはは、と笑いながらの義姉さんの言葉は、大貫部長に結構深く突き刺さっているようだ。
部長だけじゃなく、柔道部の仲間たちやバレー部の女子たちもさっきまでのざわつきがうそのように静かになっており、そんな中で義姉さんは話を続けていく。
「あたしもさ、一時期すごく自信を失ってたっていうか、誰かを好きになるのが怖いな~って思ってた時があったんだよね。まあ、つい最近の話なんだけどさ。色々としんどいことがあったりしたわけなんだよ」
義姉さんが何を指してそれを言っているかはわかる。多分、元恋人に浮気されたことだ。
幼馴染として十年以上の付き合いがあって、恋人としても一年近く付き合ってきて……信頼も恋愛感情も抱いていた相手に、手酷く裏切られた。
詳しい事情を知っている俺からしてみれば、本当に腹立たしいことだ。
単純に浮気をする時点で最低だし、あんなに明るくて愉快な義姉さんにトラウマを植え付けた元カレの悪行は、改めて振り返ると本当にとんでもないものだと思う。
「そんなふうに色々あって凹んでた時に雄介くんと出会ってさ、ちょっとずつ好きになっていった。でも、やっぱ怖かったんだよね。相手のことを好きになることが怖かったし……優しくしてくれる雄介くんを信じられない自分が嫌でもあった。だから、あたしも結構逃げたりしたし、楽な方法でつなぎ止めようともしちゃったかな」
信じていた幼馴染に浮気されて、捨てられて……それで、トラウマにならない方がおかしい。
凹むなんて生易しい表現じゃなく、心に深い傷を負ってしまった義姉さんが雄介を信じ切ることを恐れるのは当然のことだと思う。
今まで俺たちにはそんな素振りは一切見せてこなかったけど、二人の間では色々な話し合いが行われたはずだ。
話し合うだけでなく、行動でも自分の意思を伝えて……そうやって、関係を作っていったのだろう。
「楽だし、傷付かなくて済むもんね。惚れっぽくて、いいと思った女の子に簡単に告白しちゃうネタキャラみたいに振る舞ってたらさ。フラれて当然だからダメージは少ないし、もしかしたらそんなあなたでもいいよって言ってくれる子と巡り合えるかもしれない。男の子とは考え方が違うかもだけど……傷は浅くしたいって気持ちはわかっちゃうな」
「その……あなたも、俺みたいな感じで雄介先輩に接してたんですか?」
「……逆かな。最初はそうだったけど、途中から心が止まんなくなっちゃったからさ。離れてほしくないから、どうやったらつなぎ止められるかって馬鹿みたいなことを考えてたし、それを実行しようともしたからさ」
微妙に黒歴史です、と苦笑を浮かべながら義姉さんは部長の質問に答えた。
義姉さんの背景を知らない友人たちも、何かとんでもないことがあったということはその雰囲気から察することができたようだ。
重々しいとはまた違う雰囲気の中、ふぅとため息を吐いた義姉さんが言う。
「でも……うん。雄介くんは、そんなあたしにも優しくしてくれた。あたしの馬鹿みたいな考えとか行動とも逃げずに真正面から向き合ってくれたし、その上であたしを一番に考えて、優しく諭してくれた。いや、過去形じゃないな……現在進行形で、あたしを幸せにしようとしてくれてる。だから、大好きなんだよね」
ふふふっ、と笑った義姉さんの表情は、家で見るそれとは微妙に違っていた。
上手く言えないけれど……俺たち家族の一員としての幸せではなく、雄介の隣にいることへの幸せがその笑みには浮かんでいたと思う。
そこで改めて思ったのだが、うちの兄貴って本当にすごかったみたいだ。
トラウマもののフラれ方をした義姉さんをフォローした上に最適解行動を連発して、ここまで回復させたどころか幼馴染と付き合っていた頃とは比べ物にならないくらいに幸せにしている。
傷心の女の子に近付いて上手くゲットするチャラ男ムーブとも違うし、ただただ重いだけの男の動きとも違う。
もしかしてなんだけど……雄介が義姉さんと出会えたこと以上に、義姉さんが雄介と出会えたことの方が幸運だったんじゃないかって、こうして話を聞いてみて思った。
「変な話だったし、惚気にもなっちゃったけどさ……あたしからのアドバイスは一つ! 自分に自信を持って、好きになってあげなよ! いつか、本当に好きになる人と出会った時、その自信が大事になるからさ!」
という、真面目なアドバイスを明るい笑顔を浮かべながら義姉さんが言う。
大貫部長だけでなく、話を聞いていた全員が感銘を受けたような表情を浮かべる中……雄介が気まずそうに声をかけてきた。