ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「……で、撮影会の次にやりたかったことがこれ?」
「うん! そうだよ! さっきのに比べればずっとまともで健全でしょ?」
撮影会を終え、家を出た僕たちは、とあるお店にやって来ていた。
最初のやりたいことがあまりにも過激だったから、次はどんな爆弾が飛び出してくるのかと警戒していたのだが……いい意味で予想外な要望に、ちょっと驚いているところだ。
「スイーツバイキング……ふ、普通だね……」
「ふふっ! 普通でしょ?」
とても見覚えのある、スイーツバイキングのお店。ここは僕たちが最初のデートの時に使ったお店だ。
そこで食事をしたいというひよりさんの実にまともな要望に拍子抜けしつつ、僕は店員さんに案内されて席に着く。
「それにしたって、どうして急にスイーツバイキングなんて……?」
「なに言ってるの!? 夏には夏限定のスイーツがあるんだよ!? それを食べずして秋に行くなんて、もったいないじゃん!!」
そう力説してくるひよりさんが指差す先には、『夏のフルーツをふんだんに使った特製スイーツ!』のポップと共に様々なスイーツが並べられている。
パイナップルやマンゴー、スイカなんかを使って作られた色とりどりのケーキやフルーツゼリーを目にした僕は、春に来た時とは全く違うラインナップを確認し、なるほどなと頷いた。
「夏休みが終わったら、次は秋のスイーツになっちゃうからね! 今のうちに夏を満喫しておかないと!」
「あはは、そうだね。でも、食べ過ぎてお腹を壊さないように気をつけてよ? アイスとかかき氷みたいなお腹が冷えるものも多いみたいだしさ」
「わかってるって! さあ、食べるぞ~!」
ケーキやパフェ、アイスにかき氷……と、様々なスイーツを前にして目を輝かせるひよりさんが早速席を立ってそれを取りに行く。
数分後、僕がケーキと飲み物を手に席に戻ってきた時には、テーブルいっぱいに乗せられたスイーツを幸せそうに頬張るひよりさんの姿があった。
「は~……っ♥ パイナップルの甘酸っぱさが癖になる~! スイカのシャーベットも美味しいし、マンゴーもこういうお店でしか食べられないからいっぱい食べたくなっちゃうよ~!」
もきゅもきゅとスイーツを食べるひよりさんの実に幸せそうな笑みを見ているだけで、僕も笑顔になってしまう。
彼女の笑顔を見ながら取ってきたケーキを頬張れば、ほんのりとした酸味とふわりと漂う甘味が口の中いっぱいに広がっていった。
「ふむふむ、そっちのケーキも美味しそう! 次のターゲットは決まったね!!」
「ははっ……! 全部美味しそうだから、何を食べようか迷っちゃうよね。僕は次、何を食べようかな……?」
そんな他愛もない会話を繰り広げながら、ケーキをもう一口頬張る。
幸せそうな恋人の笑顔を見ながら食べるスイーツは、こんなにも美味しく感じられるのかと……ちょっとだけ恥ずかしいことを考える僕へと、ほっぺたを押さえたひよりさんが言う。
「本当に来てよかった~! 食べ始めて五分くらいだけど、本気でそう思っちゃうくらいに美味しいよ~!」
「そうだね。もっと早く来れば良かったかも」
「そうしたかったんだけど、やっぱ紫村の件とかもあったじゃん? あとは……みんなでプールに行く予定があったから、カロリーは抑えめにしておきたかったんだよね~」
甘い物大好きなひよりさんが夏休みの終盤までスイーツバイキングに来なかったことが不思議だったが、そんな理由があったらしい。
水着になるのだから、プロポーションには気を使っておきたかったということなのだろう。
女の子は色々大変だと思いつつ、前に「折角の機会なんだからかわいい姿を見てほしい」と彼女に言われたことを思い出した僕は、小さく心をときめかせる。
僕のために大好きなものを我慢してくれていたのだと、改めて理解すると共にひよりさんのいじらしいかわいさを再認識した僕は、絶対に彼女を幸せにし続けようとさらに決意を強めた。
「もう薄着にはならないだろうし、ようやく美味しいものを存分に食べられるよ~! 食欲の秋も目の前だし、幸せだな~!」
「あははっ! じゃあ、秋は美味しいものを一緒に食べに行こうか。こういう甘い物だけじゃなくって、他にもいっぱい美味しいものが出てくる時期だもんね!」
「おおっ、最高だね! でも……うあ~! 油断してたら太る~! 雄介くんにぽっちゃり系女子にされちゃう~!」
「そうなったら一緒に運動すればいいじゃない。食欲だけじゃなくって、スポーツの秋でもあるんだからさ」
「ほうほう? そうやってあたしをダイエットさせて、お腹周りの脂肪だけを取り除いて……おっぱいとお尻をサイズアップさせた状態でえっちぃ水着を着せて、撮影会をする! つまりは芸術の秋ってことか!?」
「……その時は撮影会だけで済むとは限らないけどね。それ相応の覚悟はしておいてもらわないと」
「えへへ……♥ うん、覚悟しておく♥ これはえっちの秋ですな~……♥」
「お店の中でそういうこと言うもんじゃないと思うよ。今さらだけどさ」
「先にこんな話題を出したのは雄介くんのくせに~……♥」
周囲に人があまりいないからこそできる話ではあるが、普通に恥ずかしい会話だと思う。
やっぱり僕たちってバカップルの才能があるんだなと思いながら、会話に一つ区切りがついたところで……店員さんの声が聞こえてきた。
「大人気商品、メロンのタルトが出来立てで~す! どうぞお召し上がりくださ~い!」
「メロンか、いいね。僕、取ってくるよ」
「ありがとう! じゃああたし、テーブルの上を片付けておくね!」
高級感あふれるメロンをふんだんに使った目玉商品が並べられる様を目にした僕は、そうひよりさんに声をかけてから席を立った。
皿を二枚手に取り、他のお客さんのことを考えて一つずつタルトを皿に乗せる。
そうして席に戻った僕が片付けられていたテーブルにお皿を乗せ、ひよりさんへとタルトを差し出せば……目を細めながらそれを見つめた彼女が静かにこう呟いた。
「タルトかぁ……なんかちょっと、懐かしい気持ちになるね」