ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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夜空を見上げながら、二人で……

「お待たせ。はい、どうぞ」

 

「ありがとう! ささっ、雄介くんも座って、座って!」

 

 夜……家のベランダで座っていたひよりさんへとホットミルクが注がれているマグカップを手渡した僕は、彼女に言われるがままにその隣に腰を下ろした。

 九月に近付きつつあるこの時期の夜は夏の暑さが去り始めていて、半袖のパジャマだとわずかに寒さを感じるくらいの気温だ。

 

「なんか、そろそろ秋って感じがするよね……」

 

「うん、そうだね……」

 

 ひゅ~っ、と吹いた風に体をぶるりと震わせたひよりさんが小さく呟いた後、僕に身を寄せてくる。

 ほんのりと伝わってくる彼女の体温を感じながら、僕はひよりさんへと言った。

 

「やりたいこと、これで合ってるの?」

 

「うん! 本当はキャンプとかでやりたかったけど、これはこれで乙ってもんでしょ!」

 

 二人で夜空を見たい……それが、ひよりさんの望みだ。

 今、彼女自身が言ったように、本当ならばこんな家のベランダなどではなく、大自然あふれる土地でこの願いを叶えたかったのだろう。

 

 流石に今の時期から準備をして遠出することは不可能だったため、代用案としてこの形になったわけだが、ひよりさんは満足気に笑ってくれていた。

 ふんふんと上機嫌に鼻歌を歌いながらホットミルクを飲んだ彼女は、僕へともたれかかりながら言う。

 

「ここしばらく、外に出れなかったからね。こうして何の心配もせずに好き勝手できるってだけで、すっごく嬉しいかも」

 

 紫村さんのストーカー行為によって、身の安全を確保するために外出できずにいたこの期間は、ひよりさんにとって相当にストレスだったのだろう。

 今朝も同じようなことを言っていたが、やはり何の憂いもなく出掛けたり、好きなことができるというのは嬉しいものなのだろうなと考えつつ、僕も口を開く。

 

「それにしても、夜空を見たいかぁ……ひよりさん、ロマンチックなことを考えるんだね?」

 

「そりゃあもう、女の子の憧れだもん! 満天の星空の下、恋人と二人っきり! 綺麗な星空を見上げてうっとりするあたしに、雄介くんが君の方がきれいだよ。なんて言っちゃったりしてさ~!」

 

「……それ、言わなくちゃだめ?」

 

「う~ん……ちょっとクサいからそこまではしなくていいや。それはそれで面白そうではあるけどね!」

 

 少女漫画でよくある(あるのかな?)ようなキザな台詞を言わなくちゃならないのかと不安になった僕は、少し考えた後で首を振ったひよりさんの答えを聞いてほっと胸を撫で下ろした。

 僕がそんなことを言ってもギャグにしかならないし、生き恥を晒すだけだぞと……そんな不安から解放された僕へと、ひよりさんが言う。

 

「そういうのは言わせるんじゃなくって、雄介くんが思ったままに言ってくれた方がドキっとするからね。今日じゃなくてもいいから、なんかいい感じの台詞でときめかせてね!」

 

「うぐっ……! ぷ、プレッシャーだなぁ……!!」

 

 地味にハードルの高い要求をされた僕は、そう呻いた後で重圧をごまかすようにホットミルクを一口飲んだ。

 ほのかに甘い落ち着くそれを飲んで気持ちを静めた後、ちらりとひよりさんの方を見た僕は、彼女が使っているマグカップを見ながら言う。

 

「……明日、ひよりさん用のマグカップを買いに行こうか。これから寒くなって、使う機会も多くなるだろうしさ」

 

「おおっ! ついに尾上家にあたし用の食器が置かれるように……! 一気に家族感が強くなるよね!」

 

 多分、これからもひよりさんはこの家に遊びに来る。秋に入ったら気温も下がるし、温かい飲み物を飲む機会も多くなるはずだ。

 今のうちに、彼女用のマグカップも用意しておいた方がいいと僕が提案すれば、彼女は嬉しそうに笑いながら体を揺らしてみせた。

 そうした後で僕の使っているカップをじ~っと見つめたひよりさんが、微笑みを浮かべながら言う。

 

「どうせならさ、雄介くんのも買い替えて、あたしとお揃いのやつにしようよ。夫婦茶碗じゃないけどさ……なんか、そういうのもいいでしょ?」

 

「ふふっ……! そうだね、そっちの方がいいね。じゃあ、お揃いのにしようか」

 

「えへへっ! や~りぃ! バカップルしてますな~、あたしたち!」

 

 ひよりさんの言う通り、大分バカップルしてる自覚がある。

 これはしばらく家族にからかわれるネタを提供することになっちゃったなと僕が考える中、ホットミルクを一口飲んだひよりさんが楽しそうに声を弾ませながら言った。

 

「じゃあ、明日は役割交代だね。雄介くんがしたいことに、あたしが付き合う番だ」

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