ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「僕がしたいこと……?」
「うん! 今日はあたしが甘えちゃったからね! 明日は、雄介くんが夏が終わるまでにしたいことをやる日にしようよ!」
そう、笑顔で言ってきたひよりさんが期待に満ちた目で僕を見つめる。
彼女に要望に応えてもらう立場なのに、なんでだかプレッシャーを感じる僕は、苦笑しながら正直な感想を述べた。
「夏が終わるまでにやりたいことか……正直、ぱっと思い浮かばないんだよなぁ……」
「え~? 何か一つくらいはあるでしょ!? 捻り出せ~! 搾り出せ~! 頑張れ~!」
「そう言われましても……」
今朝も言ったが、僕は今年の夏休みは今までにないくらいに楽しめたと思っている。
大好きなひよりさんと一か月以上同棲できただけでなく、プールに行ったり、お盆を過ごしたりと、かなり大満足なひと時だった。
この上で、まだやりたいことを見つけろと言われても、かなり難しい気しかしない。
でも、折角ひよりさんが僕のしたいことに付き合ってくれるというのなら、何か一つくらいは絞り出してみようとも思った。
「じゃあ、考えておくよ。ひよりさんの言う通り、何か一つくらいはあると思うしさ」
「うんっ! 期待してるからね!!」
だからなんでお願いを聞いてもらう側の僕が期待されてるんだろうと思う僕であったが、楽しそうなひよりさんを見ていたらどうでもよくなってきた。
そこでこの件についての話を終えた僕たちは、揃って夜空を見上げる。
「……そう言えばだけど、ひよりさんって星に詳しいの?」
「ううん! 全然! オリオン座くらいしかわかんない!」
「冬の星座じゃん……季節が真逆だよ」
「いいの、そういうのは! こうして二人で並んで夜空を見上げてるってシチュエーションがなんかいいんじゃん!」
ぷくっと頬を膨らませながらのひよりさんの言葉に、小さく喉を鳴らして笑う。
どこに何座があるのかも、そもそも今の時期に見える星座は何なのかもわからないけど、確かに二人でこうしているだけで幸せだと思った僕は、ゆっくりと頷くと共に彼女へと言った。
「……じゃあ、今度プラネタリウムでも行こうか? 勉強して、星座のこととかわかるようになったら、もっと楽しめるかもしれないし」
「いいね~! それで冬に新しく買ったマグカップ使いながら、またこうして星を見ようよ! オリオン座もさ!」
そのオリオン座へのこだわりは何なんだとおかしさを覚えてしまった僕が笑う。
半年後、寒空の下で身を寄せ合って過ごす自分たちの姿を想像した僕がそれも悪くないなと思いながら微笑む中、少しトーンを落とした声でひよりさんが言う。
「ねえ、雄介くん? まだ日付は変わってないってことは、あたしがやりたいことをする日は終わってないってことだよね? 今、すごくしてもらいたいことがあるんだよな~……!」
「そっか。それで、何をしてほしいの?」
「……わかってるくせに、いじわる」
そう言って微笑んだひよりさんが、そっと目を閉じる。
僕の方を向いたまま、何かを待ち侘びる彼女の姿を見た僕もまた、小さく微笑むと共にそっと唇を重ね合わせた。
「んっ……♥」
満足そうな、くぐもった声がひよりさんの喉から漏れる。
ほんのりとしたホットミルクの甘さと、その奥から漂う蜂蜜のような甘さを感じながら唇を重ね続けた僕は、ひよりさんが満足したことを感じ取るとゆっくりと唇を離した。
「……ご近所さんに見られたらどうしようね? 恥ずかしいことをする子たちだって思われちゃうよ」
「あはは、どうしようね……? じゃあ、こういうことはやめよっか?」
「……やだ。もう一回、ねっ?」
ひよりさんの言葉に対して、少し意地の悪いことを返せば、彼女は甘えるような目で僕を見つめながらにじり寄ってきた。
この時間なら、誰かに見られる心配もないだろうし……僕だって、止めるつもりはない。
何より、今日はひよりさんのしたいことを一緒にする日だ。彼女がそれを望むのなら、僕に拒む理由はないだろう。
「もう少ししたら、母さんが洗濯物を干す時間になるからさ。あと一回だけだよ?」
「ん、ありがと……♥」
嬉しそうに微笑んだひよりさんが、するりと僕の腕の中に小さな体を滑り込ませる。
今度は正面から、そっと抱き締めるようにキスした僕たちは、ひんやりとした夜の空気とほのかな甘さを感じながら、ゆっくりと時間を過ごしていくのであった。
・やり残したリスト
雄介くんと星を見て、ロマンチックなムードを楽しむ! →達成!
……次回、あたしの真の目的について