ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ふ、ふふふふふふ……! 上手くいった。完璧だね……!!」
雄介くんと夜空を見た後、お風呂に入ったあたしは、湯船の中で満足気な笑みを浮かべながら独り言を呟いていた。
ぷかぷかと浮かびそうになる胸を押さえながら肩までお湯に浸かるあたしは、自分の目的がほぼ完璧に達成されていることに手応えを感じながら頷く。
「雄介くんもまさか、あたしがこんなことを考えてるとは思ってもないだろうな~……!」
今日一日、雄介くんはあたしの要望に応え、夏休みの間にやり残したことを終わらせるという無茶に付き合ってくれた。
最初の段階で雄介くんも気付いたように、そうなるようにあたしが誘導したわけだが……この行動の裏には、もう一つの目的が隠されている。
スケベな水着を着て、挑発しながら撮影会をしたり、思い出のスイーツバイキングに行ってイチャイチャしたり、夜空を見上げながらロマンチックな空気を楽しんだり……一見すると、ただひたすらに雄介くんと甘々な時間を過ごしたかっただけに見えるだろう。
いや、実際その通りではあるのだが、それだけではない。この行動は、壮大なあたしの計画の一部に過ぎないのである。
あたしが今日、雄介くんに頼んでしてもらったことは……全て、今後のための布石なのである。
そして、あたしの考えが間違っていないかどうかを確かめるためのある種の実験なのだ。
「結果は上々。やはり、あたしの考えは間違っていなかった……! ふふふふふふ……! はははははは……!!」
恋人という関係になり、順調に交際を続けていく中で、雄介くんの性格についてわかったことがある。
それは、適応能力が非常に高いということ……わかりやすく言えば、一度超えたハードルを再度飛ぶことにあまり躊躇しないということだ。
例を挙げるならば、あたしを名前で呼ぶようになった時なんかがわかりやすいだろう。
最初は女の子を名前で呼ぶことに抵抗を示していたが、あたしやご家族の促しに加え、『苗字で呼ぶと誰を読んでいるのかわからなくなる』という尤もな理由があったことであたしを「ひよりさん」と呼び始めた。
それからずっと、雄介くんはあたしのことを名前で呼び続けている。
今では完全に慣れているし、学校でもどこでも隠す雰囲気が微塵もないくらいだ。
要するに、だ……雄介くんは身持ちは固いが、一度経験したことに関しては一気にハードルが低くなる。
花火大会の日にキスをしてからというもの、バスの中や二人きりの時、果ては今日のようにベランダでもあたしが求めればいっぱい唇を重ねてくれるようになったことも、それを証明している。
普段はぽや~っとしているが、大事な時には思い切りがいい彼の性格は、こういうところにも表れているということだ。
(いや、これはあたしが愛されてる証拠かな? あたしとの関係をしっかり発展させていきたいと思ってるからこそ、ちゃんとステップアップしつつ、おねだりに応えてくれるのかも……)
性格が理由だけでなく、あたしのことを真剣に考えつつ大事にしているからこそ、雄介くんはそういう行動を見せるのではないかと……そんなことを思ったあたしはそのまま湯船の中に体を沈める。
ぶくぶくと泡を吐いた後で浮き上がったあたしは、微妙に早くなっている心臓の鼓動を感じながらだらしなく頬を緩めて笑みを浮かべた。
「ほんと、愛されちゃってるなぁ……♥ 幸せにされっぱなしで困る~……♥」
どこまでもあたしを大切にしてくれる雄介くんのことを考えるだけで、胸がいっぱいになる。
ついつい笑みが浮かんでしまう甘く心地良い温もりを堪能しながら、あたしは考えを切り替えた。
(ゆっくり、ゆっくりだ……順調に、着実に、ステップアップしていくぞ~!)
今日の行動を通じて、雄介くんのできることとできないことがわかった。
あ~んに関しては多少形が変わったとしても実行可能で、キスもまた人が見ていない可能性が高い状況でなら喜んでしてくれる。
対して、あたしをえっちな目で見たりすることには罪悪感があり、それは拒んでくるといった形だ。
しかし……その我慢はとても特殊な状況下だからこそ強いられるものであって、一生続くものではない。
しっかりと「その時が来たら我慢しなくていい」という約束も交わしたし、後はその日に向けて準備をしていくだけだ。
雄介くんに罪悪感を感じさせないレベルでアピールし、あたしをえっちな目で見てもらうようにする。
少しずつラインを引き上げ、大胆さを増させていって……その状態で然るべきタイミングを迎えたら、あとはお気に召すままにどうぞ♥ といった感じだ。
これぞ誘い受けの本領。最近自覚した、リードされたがりなあたしなりのアピール方法。
雄介くん自身が気付かない内に、あたしをそういう目で見れるようにしてみせる……という決意の下、あたしは色々と行動していたということだ。
この計画が大成功を収めた暁には、その先のやりたいこともガンガン付き合ってもらおう。
具体的に言えば、雄介くんと一緒にお風呂に入ったり、泊まりで旅行に行ったり、二人で同じお布団で寝たり……あとはもう雄介くんのしたいことを教えてもらって、それもやってしまいたい。
雄介くんの中にもしっかり性欲があることはわかってるわけだし、それを解放できるようにお膳立てをしていこう。
その気になればあたしの方から襲うことも、理性を崩壊させることもできるが……それは雄介くんの気持ちを踏みにじる行為だから良くない。
しっかりと気持ちを通じ合わせた上で、そういうことをしないとね!!
(明日は雄介くんがあたしにしたいことを伝える練習の日……ちょっとしたことから慣らしていって、ゆくゆくはあたしに甘えに甘えながら欲望をぶつけまくれるようにしてみせるぞ~……!)
あたしの壮大な計画はまだ始まったばかり。これからも少しずつ進行させていく必要がある。
そのためにも色々と試案をねりねりしながら……あたしは、お風呂場の中にちょっと妖しい笑い声を響かせ続けるのであった。