ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(さて、どんなのがいいかな……?)
ひよりさんが喜びそうなマグカップと一言に言っても、方向性は数多く存在している。
使いやすさだとか、かわいいデザインだとか、彼女が何を重視しているかを見極めなければならない。
……まあ、僕はひよりさんが一生懸命に考えて選んでくれた物ならば大喜びで使うから究極なんでもいいわけで、ひよりさんも同じ気持ちな気がしなくもないが……だからといって妥協はしたくなかった。
(ひよりさんは大食いだけど、コーヒーとかホットミルクってがぶがぶ飲むようなものじゃないよな? だったら、サイズは一般的なやつにして……あと、できたら軽めのやつがいいか)
昨晩のようにゆっくりとおしゃべりを楽しみながら温かい飲み物を飲むとするなら、重さが気にならないように軽い方がいい。
暴飲のために使う物でもないんだから、ジョッキのように大きなものを買う必要はないはずだ。
デザイン重視で軽くて丈夫なカップを選ぶと決めた僕は、早速条件を満たす物を物色し始め……一つのマグカップを手に取る。
ヘアゴムと同じ、黄色のマグカップ。軽くて持ちやすく、ひよりさんの小さな手にちょうどいいサイズ感でもある。
デザインはシンプルにスマイルマークが描かれていて、かわいらしいし……これならひよりさんも気に入ってくれそうだ。
(よし、これにしよう!)
ただ黄色一色のカップだと味気がなさ過ぎるし、逆に派手派手しいデザインはゆったりと落ち着いて話したい時に邪魔になる。
そういった条件を排除して、ちょうどいいデザインのマグカップを見つけ出して頷いた僕へと、ひよりさんが声をかけてきた。
「おっ? 雄介くんの顔、あたしへのプレゼントを見つけたぞって書いてあるね! 見せて見せて~!」
「うん、いいよ。気に入ってもらえると嬉しいけど……」
「わっ!? なにこれ、かわい~っ!! ニコニコマークが描いてある~!」
僕が選んだマグカップを受け取ったひよりさんは、そこに描かれているスマイル以上に弾ける笑顔を見せてくれた。
彼女に気に入ってもらえたことに安堵する僕へと、今度はひよりさんが自分が選んだマグカップを見せてくる。
「はい! これがあたしの選んだカップだよ! どうかな?」
「おお、いいね……! シックな感じがして、格好いいよ!」
ひよりさんが差し出したのは、黒の陶器に英語の白い文字が刻まれたデザインのマグカップだった。
僕が選んだマグカップより一回り大きいそれには、ちょっとした大人っぽさを感じさせる落ち着いた雰囲気がある。
軽さから察するに、僕がひよりさんのために選んだカップと素材は同じみたいだな……と考える中、恥ずかしそうにはにかんだ彼女が口を開く。
「色をちょっと悩んだから、ビッグファンダメンタルさんにあやかることにした! 黒地に白の文字のユニフォームだったでしょ?」
「あははっ! そっか、なんだか馴染みがあると思ったら、そういうことか……!!」
僕がひよりさんのヘアゴムから黄色のイメージを得たように、ひよりさんもまた僕の部屋に飾ってあるNBA選手のポスターから僕が好みそうな色のイメージを得たらしい。
そういう部分も考えて、このマグカップを選んでくれたんだなって考えた僕がじんわりと胸が温かくなる幸せを感じる中……僕と同じような笑みを浮かべているひよりさんが言う。
「思ったよりサクサクっと決まって良かったね! お互いのこと、わかってきた感じだ!」
「確かにそうかも。ヘアゴムを選ぶ時はあんなに悩んだのに、今回はあっさり決められたな……!」
僕からひよりさんへの最初のプレゼント。あのヘアゴムを渡す時は、ああでもないこうでもないと必死に頭を悩ませていたことは覚えている。
それから数か月経って、恋人という関係になった僕たちは、あの頃よりもお互いのことを理解するようになった。
雑に扱うようになったからあっさり決められたのではなく、相手の好みやどんな部分を重視するかを理解できるようになったから、迷うことが少なくなった。
こういう部分からも僕たちの仲が深まっていることが実感できて、なんだかとても嬉しい。
「よし! じゃあ、これを買うとして……家に帰ったら、早速何か飲んでみようよ! 記念すべきお揃いのマグカップでの一杯目、何にする?」
「ふふっ……! 人生で一度もしたことない会話だね、それ……!」
ひよりさんの言葉についつい笑みをこぼしてしまった僕は、彼女と手に持っているマグカップを交換した。
自分が選んだプレゼントを確認した僕たちは、そのままレジで会計を行い、改めてそれを相手へと贈る。
「カップル用のマグカップは、いつか二人で同棲する時に買うってことで!」
「あははっ! まあ、今の僕たちにはこのくらいがぴったりだよね」
そういう未来が来てもおかしくないなと思いながら、夏の終わりに受け取った贈り物の幸せを噛み締めながら……僕たちは、上機嫌で雑貨屋を後にするのであった。