ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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引っ越し祝いを、君にも一つ

「実はそれ、さっきから僕も思ってたんだよね」

 

 引っ越し祝いと先に言ってはいたが、やっていることはもうほぼほぼ結婚の挨拶に行く時に手土産を用意している彼氏のそれだ。

 特に、彼女から両親の好みを聞いて……のところなんて、それ以外のなにものでもない。

 

「どうする? 一旦帰って、スーツに着替える?」

 

「あははははっ! いいねぇ! じゃあ、変なところがないかひよりさんに確認してもらおうかな?」

 

 軽い冗談に乗ってそんなことを言った後、ひよりさんと同時に噴き出して大笑いする。

 馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、遠いようでそうでもない未来のことを考えると、ちょっとした予行練習にはなりそうだと思った。

 

「引っ越し祝いを渡す時、逆にあたしの親が緊張してそうだな~。嫌でも結婚の挨拶を意識しちゃうだろうからさ」

 

「確かに。変な緊張感を与えちゃいそうだなぁ……」

 

「下手したら、『雄介くんがあたしに手を出したから、責任取ろうとしてる!?』くらいのことは考えると思うよ」

 

「それ、下手したらじゃなくって、割とあり得るパターンじゃないかな……?」

 

 ご両親への結婚の挨拶だなんて、ドラマでしか見たことがない……というより、ドラマの中でも滅多に見ない。

 厳格な父親が「娘はやらん!」と怒っているイメージしかないが、現実ではどっちかというとこちらよりも相手側の方が緊張するような気がする。

 

「……ちょっと言ってみようかな? 娘さんをくださいって……」

 

「んっ……!! それ聞いたら、お父さんがひっくり返る気がする。あたしも今、そうなりそうだったし……」

 

 何の気なしに呟いた言葉に、ひよりさんが少しだけ頬を赤くしながら答える。

 自分でも言ってて恥ずかしいと思ったし、やっぱりやめておこうと苦笑しながら前言を撤回した僕へと、彼女が言う。

 

「まあ、それは将来のお楽しみってことにしておこうよ! それで、他にはしたいこととかないの?」

 

 流石にこの話題の恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、ひよりさんが話を変えるために僕のしたいことを尋ねてくる。

 そんな彼女の問いに頬を掻きながら、僕はこう答えた。

 

「あるにはあるんだけど、実はもう準備は終わってるんだよね。はい、これ」

 

「ほぇ……?」

 

 ついさっき、マグカップを買う時にこっそりと一緒に購入していたある物……ラッピングしてもらったそれをひよりさんへと手渡す。

 目を丸くしている彼女に「開けてみて」と開封することを促せば、ひよりさんは丁寧に包みを開け、中身を取り出してくれた。

 

「わわっ!? リップクリームだ!」

 

「こっちはひよりさんへの引っ越し祝い。これから空気が乾燥してくるし、必要になると思ってさ」

 

「ありがとう! えへへっ、またプレゼントもらっちゃった~!」

 

 少しお高め(だと思う)なリップクリームを選んだわけだが、ひよりさんが気に入ってくれて本当に良かった。

 一応は化粧品の域に片脚を突っ込んでいるような品だし、好みに合わなかったらどうしようかと不安だったのだが、この反応は本当に喜んでくれているみたいだ。

 

「マグカップにマドレーヌにリップクリーム……雄介くんには貰ってばかりですな~! これは、あたしも何かお返ししないとだね!」

 

「いいよ、気にしないで。僕が好きでやってることだし、マグカップはお互いにプレゼントしたでしょ?」

 

「むぅ……! じゃあ今はその言葉に甘えるけど、覚悟しておいてね! いつか、この恩を十倍にして返すから!!」

 

「あはは、楽しみにしてるよ」

 

 なんだかちょっと不穏な感じだが、普通に感謝している言葉を述べながらひよりさんが僕をビシッと指差す。

 苦笑しながら僕が彼女に応える中、プレゼントしたばかりのリップクリームを見つめたひよりさんが、微笑みを浮かべながら言った。

 

「ふふふふふ……っ! 折角、リップクリームを貰ったんだもんね。いつでもキスできるよう、唇のケアはしっかりしとこうっと……!」

 

「んっ……!!」

 

 ふにふにと自分の唇を指で突き、柔らかさをアピールしながらのひよりさんの言葉に思わず呻き声が漏れる。

 そういう思惑を持ってプレゼントしたわけではないのだが、結果としてこの冬は色々と意識してしまいそうだなと思いながら……僕は、ひよりさんの楽しそうな横顔を見つめるのであった。

 

 

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