ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「え~、それでは……明日、帰ってしまうひよりちゃんの送別会を開催したいと思います……!! ううっ、ぐすん……!」
「わざわざあたしのためにありがとうございます! でも、会おうと思えば五秒で会える距離ですし、そんなに寂しがらなくて大丈夫ですよ!」
そして、夜……家に帰った僕たちは、ひよりさんの送別会こと焼肉パーティーに興じていた。
涙を流して挨拶する母へと、ひよりさんが笑顔で励ましの言葉を述べる。
ホットプレートに肉を乗せた僕もまた、彼女に同意しながら母へと言った。
「そうだよ、母さん。気持ちはわかるけど、大袈裟過ぎだって」
「黙りなさい、雄介! あんたは学校で好きなだけひよりちゃんに会えるからいいけど、私はなかなかそんなチャンスがないのよ!? そりゃあ、悲しいに決まってるでしょうが!」
「悲しんだって仕方ないじゃん。義姉さんも困るだけだから、少しは落ち着きなよ」
「あんたたちもバクバク焼肉食ってないで、少しは悲しむ様子を見せなさいよ!!」
「いや、俺たちだって悲しんでるよ。悲しくって悲しくって、牛タンとカルビとハラミしか喉を通らないって。あ、あと白米ね」
「お前の神経が図太くて、兄は嬉しいよ……」
ボケたりツッコんだり忙しい我が家族とのやり取りは、こんな時だって変わらない。
ひよりさんの送別会なのに、こんなのでいいのかな……? と僕が思う中、そのひよりさんがくすくすと笑いながら僕たちへと言った。
「ふふふ……っ! なんか、こうしてると初めてお邪魔した時のことを思い出すな~……!」
「初めてって……カレーを一緒に作った時か」
「うん! あの時もお義母さんたちは賑やかで、面白くって……楽しい家族だなって、そう思った。あの日からずっと、その印象は変わってないね」
褒めてもらえてるのだと思うが、僕としては目の前で馬鹿をやっている家族の醜態を日々見せつけていたことへの羞恥が勝る。
思えば、この夏休みで僕たちはひよりさんにどれだけの無様を晒しただろうかと……酔っ払ってた母や謎のダンスを踊りまくる弟たちの姿を思い出し、これを吾郎さんと睦美さんに見せたら色々とマズい気がしてきた僕が空を見つめる中、母が口を開く。
「ひよりちゃんにそう思ってもらえて嬉しいわ。こうして焼肉を食べるのも何度目かわからないけど……もうすっかり、慣れた感じがするわよね」
「はい! 誰が肉を焼く担当だとか、そういうのも覚えましたから!」
「最初の焼肉は義姉さんが初めてお泊りした日か~……なんか懐かしいな~……」
「あれから数か月、義姉さんと雄介が付き合うようになったことも驚きだけど、その前から普通に義姉さんが我が家に出入りするようになったことも驚きだよな」
そういう家族の呟きに対して、カルビを頬張りながら僕も頷く。
先ほど、ひよりさんが言っていたことが『変わらないもの』だとすれば、家族が言ったのは『変わっていくもの』だ。
ひよりさんという存在が加わったことで、僕たち家族の中でも変化はあった。ただ、ひよりさんが感じた『楽しく愉快な家族』という根幹の部分は何も変わっていない。
僕とひよりさんが付き合い始めて、友達から恋人へと関係が変化したように、この同棲生活を経て、また何か僕たちの中で変わったものがあるのだと思う。
特に実感できるのは、ひよりさんが僕たちの家族として完全に馴染んだなということで……だからこそ、この家から彼女がいなくなってしまうことへの寂しさも強く感じる。
会おうと思えば会えるし、学校でも毎日のように顔を合わせる。
それでも、明日からは家に帰ってきてもひよりさんの姿がないと考えると、母の寂しさもわかるような気がした。
「でも、いいことなんだよ。ひよりさんが安心して家族と過ごせるようになったんだから、それは喜ばなくっちゃ」
「そうよね……わかってる、雄介の言う通りよ」
家族だけでなく、自分自身に言い聞かせるように呟いた僕は、母の声を耳にしながらハラミを頬張った。
しんみりとした空気がリビングを包む中、ひよりさんがパンパンと手を叩くと僕たちへと言う。
「ほら! そんなに暗くならないで! あたしが死ぬってわけじゃないんだし、思いっきり楽しみましょうよ!! ケーキも買ってあるんですよね!?」
「そうだった! 焼肉の後にケーキが待つ、黄金パターン!! 俺たちを黄金体験が待ち受けている!!」
「この尾上雅人には『夢』がある! 美味しい焼き肉を腹いっぱい食べた後、別腹でケーキを美味しくいただくことだ!!」
「……格好つけて言うことじゃないだろ、その夢。明らかに勢いの無駄だ、無駄」
ひよりさんの言葉に反応して、弟たちがいつも通りのおふざけをする。
そのボケに対して僕が緩くツッコんで……という、お決まりのパターンで笑いを生んだ後、仕切り直された空気の中で僕たちはパーティーを楽しんでいった。