ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「うえ~ん! やっぱり寂しいのよ~! ひよりちゃん、もうちょっとウチに居ましょうよ~!!」
「……始まったよ、酔っ払いモード」
「ちょっともう母さん! 義姉さんが困ってるでしょ!? ダル絡みは止めなって!!」
「うえ~ん! うえ~ん!」
そんな感じで普通に焼肉を楽しんでいたところまでは良かったのだが、酔っ払った母親のダル絡みが始まってしまった。
子供のように泣きながらひよりさんに帰らないでほしいと訴える母の姿に、僕たち兄弟は呆れ顔を浮かべてため息を吐く。
これはもう半分放置するしかないんだよなぁ……と、眠くなってくれるまでツッコミつつ我慢するかと三人そろって意識を共有する中、酔っ払いの母が話を続けていった。
「ひよりちゃん、何か方法ない? もうちょっと我が家で過ごす方法とかさ~!」
「う~ん……残念ながら、今のところはないですね」
「ぐうっ! 仕方がない。こうなったら息子たちの誰かを人質として七瀬家に送り込むしか方法は……!!」
「なんでだよ!? どうしてだよ!?」
「戦国時代の大名じゃないんだからさぁ……!」
「息子を犠牲に欲望を叶えようとするな! あっちだって迷惑するでしょうが!」
何故だか巻き込まれそうになった僕たち三兄弟のジェットストリームツッコミを受けて母が小さくなる。
ひよりさんはあははと楽しそうに笑った後、机に肘を乗っけながら凹む母へとこんなことを言った。
「まあでも、あと二年くらい我慢すればどうにかなると思いますよ。雄介くん次第ですけど、この家の娘にはなれると思いますから!」
「僕次第って、それは、その……?」
「ふふふ……! 雄介くんが想像してる通りの意味だと思うよ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらのひよりさんの一言に、僕の心臓が高鳴る。
我が家の一員に、母の娘になるというのはおそらくそういうことで、状況のせいでちょっとプレッシャーも感じてしまっていた。
「あ~、始まったよ。いつも通りのイチャイチャ」
「雅人、塩取って。この状況で焼肉のタレで食べるのは無理だ」
そんな弟たちの会話を耳にしつつ、笑うひよりさんを見つめ続ける。
恥ずかしさを感じながらも、僕は少し真面目な答えを彼女へと返した。
「ね、年齢の問題が解決しても、すぐにはプロポーズなんてしないと思うよ? やっぱりその、金銭面のこととかもあるだろうし……」
「ふふっ! プロポーズ自体はいつかしてくれるつもりなんだ?」
「そりゃあ、まあ、ね……というより、実質プロポーズみたいなことはこれまでも何度もしてきてるし……」
「ふふふ……っ! そうだったね。雄介くん、あたしのことをずっと幸せにしてくれるって、そう言ってるもんね……!!」
家族の前でなんて話をしているんだと思いもしたが、割とこれが僕たちの平常運転だ。
弟たちも無言でこちらを見ながら食事を続けているし、母に至っては僕たちの会話を肴に酒を楽しんでいる。
こういうやり取りも、家族の反応も、この夏休みの間に何度も見たな……と思いながら、いつかはこれが当たり前の日常になるのかもしれないと考える僕に向けて、にやにやと笑うひよりさんが言う。
「夏休みはあたしが雄介くんたちにお世話になっちゃったし……冬休みはウチで同居してみる? それで色々フェアになるんじゃない?」
「そ、それはかなり難易度が高いというか、僕の胃が死ぬ未来しか見えないんだけれど……?」
「大丈夫、大丈夫! 両親、思ったより家にいないからさ! 基本的にあたしと二人っきりでイチャイチャできるよ!」
「それもそれで胃が死にそうなんだよなぁ……」
冗談なのか本気なのかわからないひよりさんの提案に、冷や汗を流しながら僕が応える。
そんな僕たちの会話を聞いていた母が、ぐいっと缶チューハイを飲み干すと共にひよりさんへと言った。
「雄介がそっちに泊まりに行く案もいいけどね~! ひよりちゃんも、いつでも遊びに来ていいわよ! 冬休みだけじゃなく、シルバーウイークとか、そういうの関係ない週末とかでも……いつでもウチに来ていいからね~!」
「ありがとうございます! これからはご近所さんですし、気軽に顔を出せると思うんで、そんなに寂しがらないでくださいね!」
「うん! やっぱりひよりちゃんはいい子ね~! 雄介、あんたしっかり幸せにしてあげなさいよ! ひよりちゃんを泣かせたら、絶対に許さないんだから!!」
「わかってるって、最初からそのつもりだよ……」
「心配する必要ないだろ。雄介が浮気とか、できるわけないしな」
「小心者ってこともあるけど、義姉さんが好き過ぎて他の女子に靡く姿が想像できねえもん」
「そこは信頼のある誠実な性格って言ってくれよ……」
母からも弟からも散々な言われ方をした僕がぼそっと愚痴を漏らせば、家族みんなが大笑いしてくれた。
なんだかなぁ、と思いながらもなんだかんだで今を楽しんでいる僕は、こちらを見つめるひよりさんと共に笑みを浮かべ、共に時間を過ごしていくのであった。