ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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夜の公園、花火、二人きりで

「よし、バケツも水も準備オッケー! さあ、始めようか!」

 

「うん、わかってた……当然、こういうのだよね。健全なやつだよね……」

 

「あれ? ひよりさん、どうかした?」

 

「ううん、何でもないよ! ただちょっと、良くない想像をしてただけだから!」

 

 水を入れたバケツを手にいい感じのポジションへと移動した僕がひよりさんに声をかければ、彼女はなんだかよくわからないことを言ってきた。

 まあ、笑顔だし、特に気にしないでも大丈夫かと判断した僕は、用意しておいたある物を取り出す。

 

「久しぶりにかったな、手持ち花火セット。遊ぶのもいつぶりだろ?」

 

「なかなかやらないし、そもそもこの公園みたいに許可が出てる場所自体が少ないもんね」

 

 色んな花火が入っている手持ち花火セットの袋を開け、ろうそくに火を着けながら懐かしい気分に浸る。

 夏の終わり間際だからか、安売りされていた花火たちの中から好きな物を手に取った僕たちは、早速それに火を着けて楽しみ始めた。

 

「あははっ! ほんと、懐かし~っ!! 子供の頃はおじいちゃんとおばあちゃんの家でこんなふうに遊んだっけな~!」

 

「僕もそんな思い出があるな……中学に上がったくらいから遊びに行くこともなくなっちゃったけど、本当に懐かしいや」

 

 赤と緑の火花を散らす花火を眺めながら、僕は子供の頃の思い出を振り返る。

 夏休みの終わり際、祖父と祖母の家でこうして手持ち花火で遊ぶのが毎年の恒例だった。

 

 あの頃はまだ父が生きていて、大我も雅人もまだずっと小さかったと思う。

 本当に懐かしい、昔の記憶なのに……こうして花火で遊んでいると、その時の記憶がはっきりと浮かび上がってくるから不思議だ。

 

 そうやって数十秒の間、散る火花を見つめながら子供の頃の思い出を振り返っていた僕は、徐々に花火の勢いが弱くなっていくと同時に現実へと引き戻されていく。

 完全に火が消えた花火を水を張ったバケツの中に放り込み、新しい花火を取り出しながら……僕は、ひよりさんへと問いかけた。

 

「このセットには入ってないけどさ、他にもねずみ花火とか煙花火とかいっぱい種類があったよね? ひよりさんは、どういう花火が好き?」

 

「う~ん……ちっちゃい打ち上げ花火かな~? 火を着けてから一発目が飛び出すまでのあの何とも言えないそわそわする時間が好きなんだよね!」

 

「あははっ! あれだ? ギャグ漫画で「なかなか出ないな~?」って言って近付いたら、急に発射されて大慌てになるやつだ!」

 

「かもね! っていうか、実際に昔、お父さんがそれと同じようなことをしちゃってさ~! いや~! あの時は慌てたけど、今になると面白かったな~!」

 

 それぞれの思い出を振り返りながら、楽しい思い出を共有しながら……一つ、また一つと花火を燃やしていく。

 二人だけだから使っていくペースは緩やかだったけど、確かに火花が一つ散り終える度に僕たちの夏が終わりに近付いていく実感があった。

 

「……なんか、変だな。昨日は夏が終わってほしくないって思ってたけど、こんな終わり方もいいなって今は思っちゃってるよ」

 

「全部やり切ったからじゃないかな? 後悔も未練もない、楽しい夏休みだったって……きちんと区切りを付けられてるから、そんなふうに思えるんだよ」

 

「そっか、そうだな……これでようやく、全部をやり切ったって気持ちになれたかもね……」

 

 今になって思えば……僕たちの夏は、花火大会のあの日に始まったような気がする。

 恋人になり、二人きりで集まりを抜け出して、初めてのキスをして……あの日から、色んなものが動き始めた。

 

 だとするならば、花火で始まった夏を花火を以て締めるというのが僕たちの夏に最も相応しい形なのかもしれない。

 空になっていく花火の袋と、それとは反比例してどんどん量が多くなっていくバケツの中のごみを見つめながら思う僕へと、ひよりさんが言う。

 

「さっき、全部やり切ったって言ったけど……訂正! まだやることが残ってた!!」

 

「ふふっ……! 奇遇だね、僕もちょうど思い出したところだったんだ」

 

 手持ち花火はもうほとんど使いきってしまった。だけど、まだ最後の花火が残ってる。

 こういう花火大会の締めは、やはりこいつじゃないとダメだ。

 

 十本ほどでまとめられて束になっているその花火を手に取り、帯を切る。

 半分をひよりさんに渡しながら、改めてその花火たち……線香花火を見つめた僕は、残された時間を惜しむように一本ずつ火を着け、彼女との時間を過ごしていった。

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