ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「やっぱこれだね~! 花火の締め! 夏の終わり! う~ん、それっぽさ出てきた~!」
「ちょっと寂しくなるけどね。本当に、終わっちゃうんだなって……」
「それはもう仕方ないよ。うん、仕方がない……」
パチパチと弾ける、小さくて綺麗な火花。
さっきまで遊んでいた手持ち花火のような激しい勢いはなく、手元でわずかに閃光を散らすそれを見つめる僕の前で、膨らんだ花火がぽとりと落ちる。
ひよりさんの線香花火が消えるのを待って、また新しいものを取り出して……と、夏の終わりに相応しい花火を楽しみながら、僕たちは話を続けていく。
「楽しかったねって話はいっぱいしたし、多分、明日もするだろうからさ……今日は別のことを話そっか!」
「別のことね……明後日から始まる学校のこととか?」
「そうそう! 未来のことを話すのもいいと思わない?」
目前にまで迫った新学期について、僕は思いを馳せる。
この先に待つ学校行事や季節のイベントなど、そういったものを思い浮かべながらひよりさんとの話に花を咲かせていく。
「夏休みが明けたらすぐに文化祭の準備期間に入るね。何をやるんだろうな……?」
「文化祭って初めてだし、楽しみだね!! やっぱあれかな? 定番のメイド喫茶とかやるのかな?」
「流石にそれは許可が下りないんじゃないかな……? そもそも定番なのかどうか怪しいし……」
ラブコメ漫画では確かに定番だが、実際に現実でやっていることはまずないであろう文化祭でのメイド喫茶という出し物について、僕が苦笑を浮かべながら言う。
ではあるのだが、うちのクラスの男子たちならば提案くらいはしてきそうだなと思ったところで、にやにや顔のひよりさんがこう質問してきた。
「とは言いつつも、雄介くんもあたしのメイド姿は見たいんじゃない? ご主人様、って呼ばれてみたいでしょ~?」
「……それはそうだね。でもまあ、それは追々ということで」
正直な想いを口にしてみせれば、ひよりさんは実に嬉しそうに笑ってくれた。
そこでまた新しい線香花火に火を着けつつ、話は続く。
「文化祭の前にはシルバーウィークがあるでしょ~? そこでまた泊まりに行っちゃおうかな~?」
「歓迎するよ。母さんたちも喜ぶと思う。もちろん、吾郎さんたちに許可を貰えたらの話だけどね」
「大丈夫でしょ! 多分、明日も雄介くんに涙を流しながら感謝してくると思うよ! ついでに娘のこともよろしく! って言ってくると思う!」
「ついでで娘の人生に関する話はしないと思うんだよなぁ……ひよりさんも、自分のことなんだからついでは良くないよ、ついでは」
「へ~い! 気を付けま~す! ……それはそれとして、あたしの人生を受け入れるつもりではいるんだね?」
「もちろん。そこはとっくに覚悟決めてますから」
ポトリ、と落ちた線香花火の火玉を見つめながら小さく答える。
とうとう最後の一本になってしまった花火に火を着けながら、弾ける火花を見つめながら、僕はこう言葉を続けた。
「……また来年も、花火で遊ぼうよ。来年も、その先も、夏の終わりはこうして過ごそう」
「ふふっ、いいね! 結婚して、子供ができても、こういうふうに恒例行事ってことで楽しもうか!」
新学期よりもずっと先、遠い未来の話をしながら僕たちは笑う。
綺麗な火花を見つめながら、ふわりと微笑んだひよりさんは、目を細めながら言った。
「……夏は終わっちゃうけど、あたしたちの関係はまだまだ始まったばかりだもんね。これから先も、きっと楽しいことが待ってるって、そう思いながら歩いていこうか」
「そうだね。二人でなら、きっとどんなことでも楽しめると思うよ」
ぱちっ、ぱちっ……と一際大きな火花を放った後、線香花火の火が消える。
だけど、僕たちが最後に手にした花火たちは火玉を落とすことなく、最後まで燃え尽きていて……夏休みを最後まで満喫できた僕たちの気持ちや、夏は終わっても僕たちの関係はまだまだ続いていくことなんかを暗示しているように思えた。
「……話は変わるんだけど、ひよりさん、家を出る前に歯磨きしてきた?」
「もちろん! 出掛ける時に息リフレッシュするのは乙女の基本ですから!」
「そっか。じゃあ……夏休み最後のキスが焼肉味になるのは避けられそうだね」
ふふっ、とお互いに笑った後、そっと唇を重ねる。
短い時間だったけど、ほんのりと甘く温かい感覚に微笑みを浮かべた僕へと、にやにやと笑うひよりさんが言う。
「ついに雄介くんの方から求めてくるようになったか~! こりゃあもう、手を出される日も近いですな~!」
「我慢しなくていいって言ったのはひよりさんの方でしょ? それに、そっちだって期待してたくせに」
「ふふふ……♥ バレてたか~……♥」
気が付けば、温かった気温も半袖だと少しだけ寒気を感じるくらいになっていた。
遊び終えた花火を入れたバケツを片手に、もう片方の手でひよりさんの手を握りながら、僕たちは家路に就く。
「いい夏休みだったね、本当に」
「うん。最高の夏休みだった」
素直にそう思える時間を過ごした僕たちは、お互いの手を握る自分の手に小さく力を込める。
肌に触れる空気から夏の終わりを感じ取りながら……僕たちは、悔いのない夏の終わりを過ごせたと、同じ気持ちを抱え、歩いていくのであった。