ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(う~ん……少し地味過ぎないか……?)
そして迎えた土曜日の朝、鏡に映る自分の姿を見つめながら、僕は難しい表情を浮かべていた。
ひよりさんとの初の秋デートということで、恥ずかしい姿ではないか確認しているのだが……どうにも微妙に思えてしまう。
やや厚手の黒の長袖Tシャツの上にグレーのカーディガンを羽織り、下はベージュのパンツというこの服装は、自分でも割と気に入っている組み合わせなのだが……悲しいかな、着ている人間の顔面レベルのせいか地味な印象を拭えない。
というより、前々から思っていたのだが、僕ってシンプルな服以外持ってないよな……と、おしゃれというものに興味を持たずに過ごしてきたこれまでの人生を呪いながら思った僕は、再び鏡の中の自分と睨めっこを始める。
(変ではないと思うけど、地味だなぁ……)
彼女ができるとこんなにも自分の服装に気を使うようになるのかと、自分の身に起きた変化に驚きを隠せない。
秋は手遅れだが、冬に備えて楽人に頼んでいい感じの服を教えてもらおうか……と、お洒落な男友達に助力を請うことを検討し始めたところで、チャイムの音が響いた。
もう待ち合わせ時刻かと、慌てて荷物をまとめた僕は玄関へと向かい、扉を開ける。
そうすれば、笑顔のひよりさんが元気よく挨拶をしてくれた。
「雄介くん、おはよう! 今日はあたしが迎えに来たよ!」
「ああ、うん。ありがとう、ひよりさん」
――明るい笑顔を浮かべるひよりさんの姿を見て、とても不思議に思うことがある。
本日のひよりさんのコーディネートは大きく膨らんだ胸元にロゴが描かれた薄いクリーム色のパーカーの上から茶色や黒が組み合わさったやや大き目なジャケットを羽織り、下は(多分お尻の大きさを隠すための)だぼっとした感じのチェック柄のハーフパンツという感じだ。
基本的な色合いはアースカラーでまとめた、僕と左程変わりないものであるはずなのに……どうしてこんなにも華やかに見えるのだろう?
男女という違いはあるが、ほぼ同じ色合いでここまで華やかさに差が出るだなんて、どこのその原因があるのだろうかと考える僕へと、ひよりさんが言う。
「むっふっふ~! 雄介くん、あたしの秋服姿に見とれてるって顔に書いてあるよ~! この正直者め~!」
「いやぁ……なんかこう、これまでの季節とは違うひよりさんの姿が見れて、いいな~って思いまして……」
「ふふっ! そうやって褒めてもらえると、頑張った甲斐があったって思えるよ! よし! じゃあもっといいものを見せてあげましょう!!」
いつも地味な僕とは違って、ひよりさんはお洒落だな~という想いを微妙に込めながらそう答えれば、ひよりさんは嬉しそうに笑いながら何かし始めた。
肩にかけていたポーチをずらし、左肩から右腰へと紐をかけるようにしながら、彼女はその紐を胸で挟む姿を僕にお披露目してくる。
「どうだ!? これがうわさのパイスラだぞ~っ!!」
「げほっ! ごほっ!?」
ドヤ顔を浮かべるひよりさんが、谷間にポーチの紐を食い込ませて自慢の胸を見せつけてくる。
えっへんと胸を張りながら、同時にゆさっと胸を揺らす彼女の行動に赤面してしまった僕は、げほごほとむせた後で慌てながら言った。
「さ、サービス精神はありがたいけど、恥ずかしいから! 家族に聞かれてたらマズいしさ!」
「ふふふっ! まあ、外ではこんなことできないからね! 雄介くんにだけの特別サービスってことで!」
確かにあんなことを外でされたら恥ずかしいよりも心配の方が勝る。
人の目を集めてしまうだろうし、そういう姿を他の誰かに見せたくないという気持ちもあった。
まあ、だからといってわざわざ僕に見せる必要もなかったんだけどな……と考えたところで、ひよりさんが僕のことをじっと見つめていることに気付く。
何か変なところがあったかと不安になった僕であったが、笑みを浮かべたひよりさんは明るい声でこう言った。
「うん! 雄介くんも格好いいね! 大人っぽくていい感じ!」
「え? あ、本当? ちょっと地味かなって思ってたんだけど……?」
「そういうのは地味じゃなくって、落ち着いた雰囲気っていうんだよ! 雄介くんの雰囲気に合ってて、あたしは好きだな!」
結構不安だった本日の服装だが、ひよりさんにそう言ってもらえると安心できる。
少なくとも、彼女が好きだと言ってくれるのなら別にいいかと考えたところで、あることに気付いた僕は微笑みを浮かべた。
(そっか。好きな相手だから、輝いて見えるのか)
僕の目にひよりさんが華やかに見えているのは、彼女を大切に思っているからなのだろう。
そして、多分それはひよりさんも同じで……だからこそ、僕にああ言ってくれたのだと思う。
「どうしたの? なんか、嬉しそうだね」
「ああ、ちょっとね。さあ、そろそろ行こうか」
「うんっ! お腹いっぱい食べるぞ~っ!」
出掛ける前から嬉しいことがあったことを喜びながら、靴を履く。
嬉しそうにはしゃぐひよりさんと手を繋いだ僕は、彼女との初めての秋デートを楽しみ始めるのであった。