ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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はい、あ~ん……♥

「あ、あ~んって……!?」

 

 こちらへといちごタルトを刺したフォークを差し出し、信じられないことを言ってきたひよりさんの行動に焦る僕。

 少し赤くなっている彼女の顔と手に持つフォークとを交互に見つめながら、慌てて言う。

 

「べ、別にそんなことしなくてもいいでしょ? 分けてくれるなら、普通に食べればいいだけだし……」

 

「……したくないの? あたしにあ~んされるの、嫌?」

 

「そ、そういうわけじゃあないけど……」

 

 ぷくっと頬を膨らませて、目を細めて……ジト目で見つめてくるひよりさんの言葉に僕は動揺を深めてしまう。

 恥ずかしくはあるが嫌というわけではないし、したいかしたくないかで言えば間違いなくしてみたくはあるのだが、やはりそんな恋人のような真似をするのはちょっと……と考える僕へと、不意に破顔した彼女が言ってきた。

 

「ふふっ! 真面目だな~、雄介くんは。別にこの程度、友達同士でもすることでしょ? 雄介くんも男の子の友達としたことない?」

 

「えっ? う、う~ん……? 言われてみれば、したことがあるような気が……?」

 

 そう言われて思ったが、確かに中学時代に部活の友達に弁当の中身を食べさせた覚えがある。

 他にもお菓子の交換だったり、差し入れのお裾分けだったりで、似たようなことをしたことがあるといえばそうだ。

 

 別にこのくらい、友達なら普通にすると……何か変なものを感じながらもひよりさんの意見に納得しかけている僕に対して、彼女が続ける。

 

「だからほら、そんなに気にしないでいいんだよ。悪乗りみたいなもんだって。知ってる人の前なら恥ずかしいかもだけどさ、ここにはあたしたちの知り合いなんて、いないでしょ?」

 

「まあ、それはそう、だね……」

 

「ふふっ……! 納得した? それじゃあ、改めまして……はい、あ~ん……!」

 

 今度は笑顔でいちごタルトを差し出してくるひよりさんが、促すように首を傾げる。

 恥ずかしくもあるし、違和感がないわけでもないが、友達でもする行為だという免罪符を得た僕は自分の気持ちに素直になることにした。

 

「じゃあ、えっと……い、いただきます……っ!」

 

 小さな彼女が腕を伸ばして差し出してくれるタルトへと、体を丸めて顔を近付ける。

 羞恥を感じながらも口を開けた僕は、その中にフォークに刺さったいちごタルトを迎え入れて……ひよりさんはそんな僕の前で嬉しそうに目を細めて腕を引くと、質問を投げかけてきた。

 

「どう? 感想は?」

 

「……甘酸っぱい、かな」

 

 口の中に広がるイチゴの風味だとか、サクサクの生地の中にふんわりと感じる甘みだとか、味の感想はいっぱいあった。

 だけど、口から突いて出たのは胸をときめかせる感覚についての感想で、それを聞いたひよりさんが面白そうに笑いながら言う。

 

「あははっ! 変なの! イチゴなんだから、甘酸っぱいのは当たり前じゃん!」

 

「あっ……!?」

 

 子供のように無邪気に笑ったひよりさんが、そのまま手にしているフォークで皿の上に残っているいちごタルトを突き刺す。

 僕が何かを言う前にそれを口の中に放り込んだ彼女は、もぐもぐと口を動かした後で悪戯っぽい表情を浮かべながら問いかけてきた。

 

「別に気にするようなことじゃないでしょ、間接キスくらいさ。雄介くんも、部活でペットボトルの回し飲みとかしたことあるでしょ? それと同じだよ」

 

「いや、でも、男同士と女の子相手じゃあ結構違う気が……」

 

「え~? ……その違うっていうのはさ、女の子が相手だから? それとも……あたしが相手だからかな?」

 

 ドクン、と心臓が跳ね上がった。

 僕を試すような、何かに期待しているような、ひよりさんの視線が突き刺さる。

 

 あ~んも、間接キスも、女の子が相手だから緊張しているのだろうか? それとも、ひよりさんが相手だからそうなっているのか?

 ごくりと息を飲んだ僕は、正直に自分の思いを彼女へと伝えていく。

 

「……今までこんなことを女の子としたことがないから、はっきり判断はできないけど――」

 

「……けど?」

 

「――ひよりさん以外の女の子と同じことをしても、ここまで慌てたり緊張したりはしない……と思う」

 

「ふふっ……! そっか!」

 

 少し曖昧な答えだったけど、ひよりさんは僕の答えに満足気に笑ってくれた。

 その笑顔を見て、また緊張を高めてしまう僕へと、彼女が言う。

 

「いちごタルト、お代わり来たみたいだよ。なくなっちゃう前に取りに行こ!」

 

「ああ、うん。そうだね」

 

 お皿を手に、楽し気に立ち上がったひよりさんが跳ねるようにケーキたちの下へと駆けていく。

 その後ろ姿を見つめる僕は、多分、今は何を食べても口の中に残り続けるこの甘酸っぱさに上書きされてしまうんだろうなと、ブラックコーヒーでも消し去れないであろう初恋の味に、口元を押さえながら思うのであった。

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