ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ぶっ……!? えほっ! ごほっ!」
唐突にそんなことを言われた僕は、焦りのあまり盛大にむせてしまった。
隣の席のサラリーマンさんたちの視線が突き刺さる中、どうにかドリンクを飲んで落ち着いた僕はひよりさんへと言葉を返す。
「さ、流石にここでは無理だよ。スイーツバイキングとかとは全然雰囲気が違うしさ……!」
「う~ん……言われてみればそうか。流石にこの空気の中でいつも通りにイチャイチャするのは難易度が高そうだね」
普段、僕たちがそういうことをしているのは、スイーツバイキングのようなお客さんの年齢層が若く、比較的テーブル間の距離が空いているお店だ。
しかし、このたこ焼き屋さんは居酒屋としての立場が強いおかげで年齢層も高めで、すぐ近くに別のお客さんもいる。
さっきから話が聞こえているであろうサラリーマンさんたちの視線が微妙に痛いし、このアウェーな空気の中でいつも通りにあ~んはできないと僕が言えば、ひよりさんも納得してくれたようだ。
「ふむ、まずはこの空気に慣れる必要があるね! ちょっとずつハードルを上げて、抵抗感を薄くしていくところから始めようかな?」
「ひよりさん? なんか妙な計画が聞こえてきたような気がしたんだけど?」
「大丈夫! 雄介くんは気にしないでいいよ! こっちの話だから!!」
何も大丈夫じゃないし、気にしないのは無理だと思う……とひよりさんの返事に心の中でツッコミを入れつつ、彼女が食べていた明太マヨのたこ焼きを頬張る。
テーブルに届いてからしばらく時間が経ったおかげか、トッピングのチーズが蕩けてさらに味わい深くなったそれの予想以上の美味しさに驚く僕へと、ひよりさんが話題を変えるように言う。
「まだ他にも色んな種類のたこ焼きがあるみたいだし、追加注文しちゃおうよ! 雄介くんも食べてみたいでしょ? でしょでしょ!?」
「あはは……! まあ、そうだね。滅多にない機会だし、思う存分食べちゃおうか!」
たこ焼き屋はもちろん、こういう居酒屋のようなお店で食事を取ること自体が珍しいのだ。次にいつ来れるかわからないし、研究のことを抜きにしても色んな味を楽しんでみたいとは思っている。
折角の機会だし、お腹がいっぱいになるまでたこ焼きを食べ尽くそうじゃないかとひよりさんの提案に乗った僕は、モバイルオーダーで追加のたこ焼きと飲み物を注文した。
「ひよりさん、ドリンク何にする? 僕は烏龍茶にするけど……」
「じゃあ、あたしもそれで!」
たこ焼きが油っぽいから、ドリンクは口の中がさっぱりするような物がいい。
というわけで油もののお供の定番、黒烏龍茶を二つとたこ焼きを数種類頼んだ僕へと、微笑みを浮かべたひよりさんが口を開いた。
「あたしたちもいつかはこういうお店にお酒を飲みに来たりするのかな~?」
「かもね。たこ焼きも好きだけど、もんじゃとかお好み焼きのお店も楽しそうじゃない?」
「いいね! 鉄板焼きのお店って、焼いてる時も楽しいもんね! 雄介くんの家でやる焼肉パーティーもすごく楽しいしさ!」
「居酒屋って一言で言っても色んなお店があるもんね。こういう鉄板焼きのお供にお酒を出してるお店もたくさんあるし、大人になったらそういうのを楽しむデートをするのもいいんじゃないかな?」
まだ五年は先の話だけど、と苦笑を浮かべながら付け加える僕であったが、ひよりさんとお酒を飲みに行くデートも楽しそうだとも思っている。
流石に昼間から酒を浴びるように飲むことはないだろうが……二人で美味しそうなお店を見つけ、ふらりと立ち寄ってわいわい騒ぎながらお酒を飲むというのもいいかもしれない。
高校生の身分では、あまり夜遅くまで外出するわけにもいかないし……と考える中、同じようなことを考えていたひよりさんが言う。
「大人になったら時間のことも気にしないでいいだろうし、夜遅くまで飲めるね。それで、その後は――」
と、そこまで口にしたひよりさんが急に押し黙る。
夜遅くまでお酒を飲んで、その後はそのまま解散……なんてことにはならないだろうなと考えた彼女と僕は若干気まずいふしだらな妄想を働かせていった。
なくなる終電。深夜料金で割増しになるタクシーの代金。微妙に帰宅が難しい距離にある繁華街で二人きり。
そうなったら多分……まあ、二人きりで夜を明かせるところに行くだろう。そこで何をするかに関してはご想像にお任せする形だが、ひよりさんの頬が赤く染まっているところを見るに、僕と同じことを考えたようだ。
「お待たせしました~! たこ焼きセットと黒烏龍茶で~す!」
「あ、ああ! 注文してた料理が届いたよ! 美味しそうだし、早速食べないと!!」
「あっ、ちょっ、ひよりさん!? そのたこ焼き、出来立てだからまだ熱い――!!」
未来の自分たちの姿……というより、そういう関係になった僕たちのことを想像していたところで店員さんが料理を手に声をかけてきたから、ひよりさんは相当びっくりしたようだ。
その焦りをごまかすようにバタバタと手を動かしながら出来立てほやほやの熱々たこ焼きを頬張った彼女は、僕の予想通りに目を白黒させながら烏龍茶が入ったジョッキに手を伸ばす。
「あふっ! あふっ!! 口のなきゃ、やけろするっ!!」
そう言いながら、慌ててジョッキを傾けたひよりさんが烏龍茶を一気飲みする。
割と受けに回ると弱いというか、慌てた時は僕以上に動揺するよな~……と、慌ただしいひよりさんの反応を見ながら、彼女のために新しいドリンクを注文しようとしたところで、僕はひよりさんの様子が変なことに気が付く。
「……ひよりさん? どうかしたの?」
「ん? んん……? いや、この烏龍茶、なんか味が変だったような気が……?」
空になったジョッキを見つめながら、訝し気な表情を浮かべるひよりさんが僕の質問に答える。
味が変とはどういうことだろうかと思った僕が、自分用の烏龍茶を飲んで確かめてみようと思った時、隣のテーブルから声が響いた。
「あれ? これ、普通の烏龍茶じゃね? 俺が頼んだの、烏龍ハイなんだけど?」
「えっ……?」
その言葉に慌てた僕が自分の前に置かれたジョッキの中の飲み物の匂いを確かめれば、はっきりとアルコールの香りがしてきた。
そこで隣の席のサラリーマンさんたちと視線を交わらせ、まさか……!? という表情を浮かべた彼らと同時に、僕は大きく手を上げて店員さんを呼ぶのであった。