ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
高塔先輩の口から飛び出した信じられない言葉に、ひよりさんが目を丸くして叫ぶ。
そのリアクションが結構気に入ったのか、先輩はうんうんと頷きながらこう続けた。
「いやまあ、びっくりだよね。文化祭でメイド喫茶って、どこのラブコメ漫画だよ!? って俺も思ったしさ」
「い、一応、うちのクラスでも候補には挙がったんですよ。でも、流石に現実的じゃないって話になって……」
「衣装代とかお客さんからのセクハラとか、色々問題があるはずなのに……大丈夫なんですかね?」
「さあ? そこは俺たちが気にするところじゃないしな~……それに出す料理も俺たちのクラスと同じ既製品をちょっと手直しするレベルっぽいから、完全にメイドの部分で勝負しにいってるみたいだよ」
色々とツッコミたい部分もあるし、不安点もあるが、僕たちが気にしても仕方がないというのは高塔先輩の言う通りだ。
よくもまあ許可が出たもんだなとは思ったが、他のクラスのことを気にしてもどうしようもないので、もうこれ以上考えることは止めておくことにした。
「でもやっぱ、男としては気になるもんがあるよな~? 尾上くんも、ちょっとはメイドさんに興味あるでしょ?」
「え? いえ、僕はメイド喫茶にはあんまり興味はないですかね……」
「えっ!? そうなの!? うちのクラスだと、ちょっと見てみたいって言ってる奴も結構いるのにな~。珍しいね、君」
「あはははははは……」
高塔先輩の言うことはわかる。ただ、1-Aには紫村さんがいるし、それを考えるとメイドさんの魅力も激減してしまう。
もう片方の問題児である江間が学校に来ていないことを踏まえても、正直彼女とは顔を合わせたくないから、文化祭当日も僕はメイド喫茶に寄るつもりは一切なかった。
(ひよりさんは大丈夫かな? 不意打ちみたいな形で二人のことを思い出す羽目になっちゃったけど……)
そう思いながらひよりさんの様子を窺った僕であったが、彼女は意外と普通にしていた。
同学年のクラスがメイド喫茶なんていうトンチキな出し物をすることに驚いているせいで紫村さんや江間に気を回す余裕がないのかもしれないが、実に良いことだ。
不幸中の幸いってこんな感じなのかな~? と考えたところで、ひよりさんが僕へと言う。
「まあ、A組が何をしようとあたしたちには関係ないしね。とりあえず、今は調理器具の確認をしちゃおうよ」
「そうだね。高塔先輩のクラスと器具をやり取りする約束をしたことも報告しなくちゃ」
元々の目的を思い出した僕たちは、気を取り直して調理器具の確認に戻っていく。
高塔先輩のクラスから借りる包丁とまな板をチェックしている僕たちへと、先輩が声をかけてきた。
「もしかしてなんだけどさ、二人って付き合ってるの? いや、な~んか妙に仲がいいように見えるからさ……」
「ああ、はい。そうですね」
「やっぱりか! ははっ! 羨ましいな、尾上くん。こんなにかわいい彼女がいるんなら、そりゃあメイド喫茶なんかに興味も持たないわけだ!」
そう、高塔先輩が納得したように頷きながら大声で言う。
先生もいる教室の中でそういうことを話されると恥ずかしい気持ちがあったが、まあ隠すことでもないので特に深くは考えないことにした。
「いいな~、俺も彼女ほしいな~……とは言いつつも、俺は野球一筋で頑張ってるからな! いいんだ。俺はこれでいいんだ……!!」
ちょっと哀愁を感じる先輩の背中を見つめながら、僕は彼に何も言わないことにした。
何かを言えば、それだけで高塔先輩を傷付けてしまいそうだからと口を噤む僕の前で、新しく教室に入ってきた女子が先輩へと言う。
「
「あ、ああ。すぐ戻る!」
「ん……? 提督……?」
「あはは……! 俺のあだ名だよ。名前、
「あ~、なるほど! 確かにそれっぽいですね!! 提督! 面白いあだ名だ!!」
高塔先輩のあだ名の理由を聞いたひよりさんが笑顔を浮かべながら頷く。
僕もまた、その呼び名の理由には納得したのだが……それ以上に驚いてしまっていた。
「ん? 尾上くん、どうかした?」
「い、いえ……僕の好きなNBA選手の先輩っていうか、恩師みたいな人が『提督』って呼ばれてたんで、面白い偶然があるんだなって思っちゃって……」
「へぇ~……そりゃあ確かに面白いな。バスケのことはわからないけど、ちょっと嬉しいよ」
そう言いながら、白い歯を見せて高塔先輩が笑う。
色んな意味で面白い先輩だなと思いながら……僕は家庭科室を去っていく彼を見送った後、ひよりさんと一緒に最終確認を進めていくのであった。