ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「へい、いつものお待ち!!」
「やっほ~い! ひっさびさのラーメンだ~!」
「夏休みの間は来られなかったし、ほぼ二か月ぶりくらいかな? 寒くなってきたおかげで、一層美味しく食べられそうだ」
「やっぱりここのラーメンを食べないと始まらないよね~! うんうん!!」
放課後、僕とひよりさんは久しぶりに行きつけのラーメン屋を訪れていた。
本当に久しぶりの来店だが、店主さんは僕たちの好みを覚えてくれていたようだ。
いつもの、という言葉と共に醤油豚骨ラーメンの煮卵トッピングが僕の前に置かれ、ひよりさんの前には大盛り特製醤油豚骨チャーシューメンの野菜マシという、量も見た目のインパクト抜群のラーメンが置かれている。
「久々に来てくれたから、サービスしたよ!」という店主さんの心遣いに感謝しつつ、いつ見てもひよりさんの食べる量は半端ないなと若干麻痺していた感覚を取り戻した僕たちは、麵が伸びてしまう前に久々のラーメンに舌鼓を打ち始めた。
「う~ん、やっぱこれだね~! うまうま~!」
「久しぶりっていうのもあるけど、最近はたこ焼きばっかり食べてたからか妙に新鮮に感じるなぁ……」
太麺をちゅるちゅるとすすりつつ、とても幸せそうな笑みを浮かべるひよりさんを前にしながら僕は呟く。
今日もそうだが、ここ最近は試作やら研究のためやらでたこ焼きばかり食べていたし、麺類を食べるのも久しぶりだ。
どちらが上というわけではないが、やっぱり好きな物でも期間を詰めて食べ過ぎるのも良くないし、逆に期間を空け過ぎるのも寂しくなって良くないな~と考える僕へと、ひよりさんが言う。
「たこ焼きって言えば、クラスのみんなも乗り気になってくれて良かったね! ガンガン話し合いが進んだし、みんなやる気満々でいい感じだ!!」
「そうだね。楽人にも助かったってお礼を言われちゃったよ」
「雄介くん、実行委員でもないのに頑張ってるからね~! 優希もありがとうって言ってたよ!!」
実行委員の二人から感謝されている僕だが、大したことをしているつもりはない。
言い出しっぺは僕だし、なんだかんだで楽しんでいる。ひよりさんとデートもできたし、苦労してるだとか負担に思っているだとか、そういうことは一切ないのだ。
(まあ、みんなの役に立ててるならそれでいいか……)
ひよりさんの言う通り、クラスのみんなもやる気を見せて話し合いにも積極的に参加してくれている。
教室の飾り付けは任せてくれと言っていたし、調理班に関してもアルバイトや自宅で料理をしているメンバーを楽人たちが見繕ってくれている最中だ。
この調子で準備が進んでいくといいな~……と考える僕であったが、そこでひよりさんが少し険しい表情を浮かべながら言う。
「ところでなんだけどさ……その、A組の出し物についてなんだけど……」
「ああ……やっぱり気になる?」
「メイド喫茶が、っていうよりも紫村のことが……いや、違うな。遊佐くんと優希のことが少し気になってるかも」
ひよりさんの言葉に、僕は少しびっくりしてしまった。
まさか、ひよりさんも楽人が文化祭で勝負を仕掛けることを察して、二人の恋路を気にしているのか……? と考える僕であったが、彼女が言いたいのはそういうことではないようだ。
「二人とも、そういう話をあたしにしなかったじゃん? やっぱり、あたしが気にしてるって思って、気を使ってくれてるのかなって……」
「あ、ああ、なるほど……」
その答えを聞いて少し安堵する僕であったが、ひよりさんの沈む気持ちもわかる。
親しい友人たちが自分に気を使って、色々と話題を制限しているのかも……と考えると、そればっかりが気になってしまうのだろう。
江間の問題も含め、一応は僕たちの間では終わった話だと思っているが、周囲の人間にとってはその判断が難しい話だ。
親友たちに妙に気を回させてしまっては申し訳ないと、そうひよりさんは考えているのだろう。
「だからどうこうって話でもないし、二人になんで黙ってたんだ! って言うつもりもないんだけどね。でも、どうすればいいのかな……? って迷う話でもあるからさぁ……」
「確かにどう触れるべきかわからないよね。話をしたことで逆に気を使わせることになっちゃうかもしれないし、難しい話だ」
苦悩というほどのものではない。だが、喉に魚の小骨が引っ掛かったようなもやもやとした感覚はある。
触れても触れなくても何かしらの問題が生まれそうな話だから、どう扱えばいいのかがわからないというひよりさんの気持ちに同意しつつ、僕はこう答えた。
「やっぱり、時間が解決するのを待つべきだと思うよ。僕たちは紫村さんに関わるつもりもないんだし、その内風化するでしょ」
「そうだね……それが無難だよね……」
敢えて話を混ぜっ返す必要もないだろう。ここは時間が解決するのを待つ方が無難だ。
これから先、僕たちが紫村さんや江間と関わらなければ、二人との間で起きた出来事も忘れ去られるだろうと……そう判断した僕たちは、そこでこの話を終わらせた。
そうした後、少しシリアスになってしまった空気をぶち壊すように、笑みを浮かべたひよりさんがいたずらっぽい眼差しを向けながら僕に質問を投げかけてくる。
「そういえばだけど……雄介くん、本当に興味ないの?」
「え? 何が?」
「メイド喫茶にだよ! 男の子なんだし、本当は興味あるんじゃないの~?」