ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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やらかしちゃったな、楽人……!

「ごめん、熊川さん。ちょっといい?」

 

 楽人から連絡を受けた翌日の昼休み、僕は熊川さんを呼び出した。

 二人で話せる場所に移動したところで、急な呼び出しを訝しんだであろう彼女が僕へと言う。

 

「尾上くん、どうしたの? 私を呼び出すなんて、珍しいじゃん」

 

「いや……実は昨日、楽人から連絡があってさ……」

 

 どう話を切り出したものかと思いながら、僕が若干狼狽えながらそう言えば、その瞬間に目を見開いた熊川さんがすごい勢いで食いついてきた。

 

「尾上くん、遊佐くんから話を聞いたの!?」

 

「ああ、まあ、うん……」

 

「ひどくない!? なんで紫村に靡いてんだって思ったでしょ!?」

 

 猛烈な勢いで僕へと同意を求める熊川さんにどう反応すればいいのかわからない僕が複雑な表情を浮かべる。

 そんな僕に対して、彼女は怒りが治まらないとばかりに話を続けてきた。

 

「それで、どこまで聞いたの? っていうか、ちゃんと全部聞いた?」

 

「ある程度は……多分、全部話してくれたとは思うけど……」

 

 昨日、死にそうな声の楽人が話してくれた内容を振り返りながら、僕は熊川さんに答える。

 その答えを聞いた彼女はふんっ! と鼻を鳴らすと、呆れと怒りを入り混じらせた声で言った。

 

「ほんっと、信じられないんだけど! どうしてあの馬鹿女にデレデレしちゃうかな!?」

 

「いや、楽人もデレデレしてたわけじゃないと思うよ? 急なことに戸惑ったって言ってたし……」

 

「それでもだよ! 普通はきっぱり拒絶すべきでしょ!?」

 

 そう怒る熊川さんだが、彼女の主張も怒っている理由も実に理解できる。

 ただ、それとは別に親友への理解もある僕としては、二人の間で板挟みになっていた。

 

(ホント、なんでこのタイミングでやらかしてるんだよ、楽人……!?)

 

 ――昨日、ひよりさんとのデート中に電話をかけてきた親友が言うには、こんな事件があったらしい。

 

 放課後を迎え、バスケ部の練習に行く前に教室に一人残って文化祭実行委員としての仕事をしていた楽人の下に、なんとあの紫村さんがやって来たというのだ。

 驚きながらもマネージャーとして何か連絡をしに来たのかと対応した楽人へと、彼女は愚痴(?)や不安を吐露し始めたという。

 

 目に涙を浮かべ、同情を誘うような雰囲気を醸し出し、そうやって話をしてくる紫村さんにどう答えるべきかわからずに困っていた楽人へと、彼女は急に抱き着いてきた。

 「力を貸してほしい」だとか「遊佐くんのことを頼りにしたい」だとか、そんなことを言っていたらしいが……そのタイミングで実行委員としての連絡事項を伝えに来た熊川さんとばったり出くわしてしまったらしい。

 

『熊川さん、本気で怒っててさ……俺も慌てて後を追ったんだけど、全然耳を貸してくれなくて……』

 

 楽人は絶望という感情をこれ以上ないほどに表した声でそう言っていたが、熊川さんの反応も当然といえば当然だ。

 彼女からしてみれば、紫村さんは親友であるひよりさんを傷付け、苦しめた最低の女。

 その最低の女に、江間を奪ったことやその後のストーカー騒ぎなんかの事情も知っているはずの楽人が親密に接している場面を見てしまったら、裏切られたと思ってしまっても仕方がないだろう。

 

 だがしかし、僕は楽人が本気で紫村さんにほだされたとか、下心を持って接しようとしたとは思っていない。

 あくまで可哀想な雰囲気の彼女にどう接すればいいのかがわからずに戸惑っている隙を突かれたのだと……(僕が言えたことではないが)女の子への接し方に疎い親友の反応を想像しながら、僕は熊川さんへと言った。

 

「熊川さんの気持ちもわかるけど、楽人はそんな奴じゃないよ。これから紫村さんのために何か行動を起こすとか、僕たちを裏切るような真似は絶対にしないさ」

 

「……そういうふうにフォローしてくれって、遊佐くんに頼まれたの?」

 

「そういうわけじゃないよ。これは僕が勝手にしてること。半分は楽人のためで、もう半分は――」

 

「……もう半分は?」

 

「――ひよりさんのため、かな」

 

 楽人のためを思って、フォローを入れていることは間違いない。

 ただ、この行動はひよりさんのためでもある。

 

 昨日、ラーメン屋さんで彼女は楽人と熊川さんが自分に気を使って、紫村さんに関する情報をシャットアウトしていたのかもと言っていた。

 周囲に配慮させてしまっていることを気にしていたひよりさんにとって、紫村さんの行動が原因で仲のいい友達が喧嘩している今の状況は、とても心苦しいものだと思う。

 

 決してひよりさんが悪いわけでも、楽人と熊川さんが悪いわけでもない。

 だからこそ、みんなが苦しんだり悲しんだりするような今の状況をどうにかしたいと僕は思っている。

 

「……気持ちはわかったけど、すぐ納得するとか、遊佐くんを許すとかは無理だよ。それくらい、裏切られたって気持ちが強いもん」

 

「わかってる。ただ、楽人も悪気や下心があってそういうことをしたわけじゃないってことは、わかってほしい」

 

 熊川さんも本気で楽人を嫌うようになったわけではないのだろう。

 今まで数少ない事情を知る仲間として信頼を寄せていたからこそ、裏切られたという気持ちが強くなってしまっているのだ。

 

 今は無理に説得しても意味がない。時間を置いて、冷静になった後で話をすべきだ。

 熊川さんの様子を見て、そう判断した僕は、彼女にそれだけを伝えると教室へと戻っていった。

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