ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「いや~! いっぱい食べて、いっぱい遊んだね! 本当に楽しかった!!」
「あはは……! ちょっと食べ過ぎた感はあるけど、僕も楽しかったよ」
時間いっぱいまでケーキバイキングを楽しんで、その後でショッピングモールを見て回って、長い時間をそうやって過ごした僕たちは、帰りの電車に乗り込みながらそんな話をしていた。
時間的に車内はガラガラというわけでもないがぎゅうぎゅうに込み合っているわけでもないという微妙な状況で、仕事帰りの会社員の皆さんが椅子を埋めているから、僕たちは立って話をしている。
適当な位置で立ち止まった僕は近くに見えたつり革を掴んだのだが、ひよりさんはそんな僕を見つめながら羨ましそうに言ってきた。
「いいな~、背が高いって。あたしの場合、めっちゃ頑張らなきゃ手が届かないんだよね」
そう言って手を伸ばしたひよりさんは、目一杯頑張って僕が使っているのと同じ高さにあるつり革を掴んだ。
僕にとっては顔に当たるような邪魔な位置にあるつり革だが、彼女にとってはここまで頑張らないと掴むことができないものらしい。
「これ、高い位置にあるつり革だからさ、低い位置のつり革を使った方がいいんじゃない?」
「むぅ……! 文字通り、見下した発言だ……!」
「いやいや。無理して高いのを使っても、そっちのがいざって時に危ないでしょ? 見下してるとか、そういうんじゃないよ」
「わかってるけどさ~……い~な~! 電車に乗る度にチビ扱いされるあたしの気分、雄介くんにはわからないだろうな~……!」
ジト目で僕を見上げ、かわいらしく頬を膨らませながら口をとがらせるひよりさんがぼやく。
機嫌を損ねてしまったと苦笑していた僕だったが、彼女はそんな僕を見つめると、ニヤッと笑って口を開いた。
「でも、確かに雄介くんの言う通りだよね! 無理して高いのを使ってても、いざって時に危険だし……身長に合ったものを使うのが一番だ!」
「だよね。じゃあ、低いつり革がある方に移動して――」
わかってくれたかと安堵した僕が低いつり革の方へと移動しようとした時、僕の服を摘まんだひよりさんがくいっくいっとそれを引っ張った。
驚いて止まった僕へと意味深な笑みを向けたひよりさんは、そのまま僕の側へと回り込むと空いている腕を掴んでくる。
「えへへ……! いい位置に掴まりやすいものがあって助かっちゃった!」
抱き着くように僕の左腕へと手を回してきたひよりさんが、体を預けながら言う。
30㎝以上の身長差があるおかげか、僕の腕は本当にひよりさんが掴みやすい高さにあって、彼女の小さな手に腕を掴まれている感触に僕が顔を赤くする中、ひよりさんが少しだけ不安そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「あの、雄介くんが迷惑だったらすぐに止めるけど……大丈夫?」
「恥ずかしくはあるけど、別に迷惑じゃないよ。ひよりさんが怪我する方が嫌だし、僕の腕で良ければ好きに掴まっていいから」
「えへへ……! では、お言葉に甘えて……!」
嬉しそうに、ひよりさんが僕の腕に回した手に力を籠める。
さっきのケーキバイキングでやったあ~んだったり、間接キスだったり、今のこの行動だったり、上目遣いだったり……色々もうあざといとは思うが、迷惑とも嫌とも思わない僕は大分チョロいとしか言いようがない。
シンプルにわかりやすい男だよなと自分自身を自嘲していた僕であったが、やや下方向から聞こえた呟きを耳にして、ぴくりと反応する。
「……ありがとう、雄介くん。今日、すっごく楽しかったよ」
しみじみと実感を込めたその声は、僕の腕に手を回すひよりさんの呟きだ。
優しい笑みを浮かべながら、顔をこちらへと向けながら、静かに呟いた彼女はさらに言葉を重ねていく。
「朝から嫌なことがあったけどさ、こうしてデートに誘ってもらえて嬉しかった。本当にありがとうね」
「……僕の方こそ、すごく楽しかったよ。普段は行かない場所に行けて新鮮だったし……学校じゃ見れないひよりさんの一面も見れて、嬉しかった」
「……!」
感謝を告げてくるひよりさんへとそう返せば、彼女は目を丸くした後で恥ずかしそうにはにかんでみせた。
腕を掴む力が強くなったのは、きっと気のせいじゃない。そう思いながら、そわそわとした落ち着かない気持ちを抱えている僕は、意を決して彼女へと言う。
「あのさ! ……今日、家まで送っていくよ。ひよりさんが、嫌じゃなければだけど」
「えっ……?」
突然の僕の申し出にひよりさんが先ほどよりも驚いた表情を浮かべる。
その反応に緊張を強めながらも、僕は必死に今の発言の理由について説明していった。
「ほ、ほら! 遅くなっちゃったっていうのもあるけど、江間のことが心配だからさ。部活が終わって、それから外食して帰ってきたとしたら、ちょうど鉢合わせになるかもしれないでしょ? そうなった時、朝みたいにまた絡まれたら大変だろうし、それに――」
「……それに?」
「――もう少し、話していたい気分なんだ。もうちょっとだけでいいから、一緒に居たい」
彼女を家まで送る理由に今朝の出来事と江間を出した後……自分でも呆れたように笑いながら、僕は心の大半を占める本当の理由を言った。
流石にクサいし、気持ち悪いかなと思ったけど、ひよりさんはそんな僕の言葉を受けて顔を背けながら、それでも声を弾ませながら応えてくれる。
「……そうだよね。今、帰ったら、ちょうど仁秀と出くわすかもしれないもんね。じゃあ、雄介くんにボディーガードをお願いしちゃおうかな」
ぎゅ……っ、と強く腕が掴まれる。少しだけ空いていた僕たちの距離が、この会話を機にまた一歩近付く。
小さな彼女に、強く頼られているような感覚に嬉しさを感じていた僕へと、ひよりさんが声をかけてくる。
「……今日、帰りはタクシーを使おうと思ってたんだけどさ。歩きでもいいかな? あたしも、もう少しだけ話してたい気分だからさ」
「うん、いいよ。僕もその方が嬉しい」
駅から家まで、できる限りゆっくり歩いて帰ろう。そうすれば、長い時間一緒にいられるから。
ひよりさんと同じことを考え、同じ気持ちでいられることが、堪らなく嬉しかった。