ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――新学期が始まってから、私を取り巻く環境は大きく変わった。
というより、私が変えたと言った方が正しいだろう。
夏休みに感じ始めた謎の視線は、新学期に入ってからも消える気配がない。
それどころか、増々強くなっていくばかりだ。
だから私もそれに対抗するために
元々、私にぞっこんになっているバスケ部の部長をはじめ、部員たちに媚びを売ってボディガード代わりにする。
同じマネージャーの女子たちからは顰蹙を買っているようだが……そもそも以前から良好な関係ではなかったわけだから、気にする必要もないだろう。
男子の部員の方は大半が私の願いを聞き入れ、私を守る騎士のように従ってくれている。
他にもクラスメイトや、関わりのある先輩なんかにも話を持ち掛けた私は、学校内外で色々と利用できる取り巻きを手に入れていた。
(これでようやく、少しは安心できるようになったわね……)
根本的な問題の解決は後回しにして、ひとまずの安心を手に入れた私は、次なる行動に出る。
私をこんな状況に追い込んだ張本人の一人……七瀬ひよりへの復讐だ。
あいつと江間のせいで、私は今、こんなにも苦しんでいる。私の苦しみを、あいつにも味わわせてやらなきゃ気が済まない。
方法はもちろん、あいつの男を奪ってしまうこと。その前準備として、バスケ部の遊佐楽人を篭絡して、利用する手駒にしたかったのだが……途中で邪魔が入ったせいで失敗してしまった。
ただ、そのおかげで思い付いたいい案がある。その点については遊佐と途中で横槍を入れてきたまな板女に感謝だ。
そして放課後、七瀬の彼氏が家庭科室にいるという話を聞きつけた私は、取り巻きの男に適当な理由で七瀬をそこに呼ぶよう頼んでおいた。
先んじて家庭科室に乗り込んだ私は、その中で一人で何か作業をしている七瀬の彼氏を発見すると、気持ちを切り替えながらドアを開く。
「……ああ、良かった。ここにいたんだ」
私は可哀想な被害者。頼れる相手もいない、哀れな少女。
そういう雰囲気を作り出しながら、七瀬の彼氏の名前を呼ぶ。
「尾上雄介くん、だよね……? 少しでいいから、私の話を聞いてほしいの……!」
縋るような眼差しを向けながら、尾上へとそう懇願する。
窓から差し込む日差しのせいで尾上の表情はよく見えなかったが、私の懇願に対して、奴はこう答えてきた。
「……僕に、何の用かな?」
(食いついた……!!)
新学期が始まったあの日に聞いた、男子たちの話を思い返す。
尾上は上手いこと凹んでいた七瀬に取り入り、あいつを手に入れた。まあ、下品な胸と尻をしている女が見るからに弱っている雰囲気を出していたら、ちょっとでも頭の回る男なら慰めついでに食べてしまおうと考えるだろう。
尾上はそういう男だ。私に江間を奪われ、簡単に落とせそうな七瀬にすぐに手を出した。そういう小狡い男ということだ。
だったら、同じ状況になっている私のことを見逃すはずがないだろう。
あいつと付き合い始めて数か月、そろそろ飽きが来るころだろうし……このチャンスに、尾上が手を出さないはずがない。
「もしかしたら七瀬さんから色々と話を聞いてるかもしれないけど、全部誤解なの! 私も江間の被害者で、今もあいつのせいで変な感じになってて……!!」
迫真の演技。一応、私も被害者としての立場をアピールしつつ、無罪を訴えておく。
瞳に涙を浮かべながら訴えかける私のことを、尾上は黙って見つめていた。
「最近、変な視線を感じるようになって……すごく不安なの。バスケ部のみんなも気にしてくれてるけど、でもやっぱり怖くって……」
ここで真実をひと混ぜ。嘘を本物のように見せかけるためには必須のテクニックだ。
事実、私はストーカーの被害に遭っている。その不安を取り除くために尾上に手を貸してほしいことも事実だし、ここは嘘じゃない。
(まあ、一番の目的は七瀬を絶望のどん底にぶち込むことなんだけどね……!!)
心の中でほくそ笑みながら、私は少しずつ尾上との距離を縮めていく。
そろそろ伝言を聞いた七瀬が家庭科室にやって来る頃だろう。そこで私が尾上と急接近している場面を目にしたら……あいつは絶対にトラウマが再発する。
昨日のまな板女と同じだ。遊佐と私が親密そうにしている場面を見て、ヒステリックに何かを言っていた。
あいつは遊佐に片思いしていたのかもしれないが、まあ私と違って男を魅了できない貧乳なのが悪い。
「ねえ、お願い……私を助けて……!! 尾上くんの力が必要なの……!!」
できる限り近付いて、弱々しい声で尾上へと囁く。
今なら簡単に落とせる女だとアピールしつつ、その中に罠を張った私はトドメの一言を口にした。
「私、なんでもするから……! 尾上くんが望むこと、全部してあげるから……ね?」
官能的な響きを含ませながらのその言葉を放ちながら、尾上を見つめる。
あと一歩近付いて抱き着けば、こいつは私のものになる……そう思いながら踏み出そうとした私へと、尾上が声をかけてきた。
「……僕が望むことを、全部してくれるの?」
「うん、そうだよ。だから、尾上くん……私のことを守って……!!」
勝った。尾上は私の誘惑に乗り、手を出そうとしている。
あとはこいつの言うことを聞くふりをしながら親密な空気を出し、家庭科室を訪れた七瀬にその場面を目撃させるだけだと……そう考え、心の中でほくそ笑んでいた私へと、尾上は言った。
「じゃあ……僕に近付かないでもらえるかな?」
「……え?」