ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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尾上の奴、私に全然靡かない!?(二奈視点)

 ――一瞬、尾上の言葉を聞き間違えたのかと思った。

 近付くなという言葉が信じられなかった私が唖然とする中、尾上は淡々と同じことを言う。

 

「僕に近付かないでほしい。距離的な意味でも、関係的な意味でも」

 

「なっ、なんで? わ、私……っ!!」

 

 予想もしていなかった答えに、続く言葉が出てこない。

 どうして? 尾上は弱ってる女にはすぐ手を出す男のはずなのに、どうして私は拒絶されている?

 何が悪かったのかと困惑し、焦りで口をパクパクと開け閉めすることしかできない私に対して、尾上は言った。

 

「君がひよりさんにしたことは全部知ってる。そのことに関して、君が嘘を吐いているとか、認識の違いがあるとか、僕にとってはどうでもいいんだ」

 

「わ、私が何をしたかなんて、どうでもいいんでしょ? だ、だったら……!!」

 

「ああ、どうでもいいさ。僕にとって一番重要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()だから」

 

「え゛っ……!?」

 

 ――何かがおかしいと、ここで初めて気付いた。

 私の中にある尾上への印象と、実際のあいつの言動が大きくズレている。

 

 こいつは落としやすい女がいたら、即座に手を出すような男だと思っていたのに……私に手を出さないどころか、七瀬のことを思いやっているじゃないか。

 もしかしてこいつは……!? と認識を改め始めた私へと、尾上が言う。

 

「過程や事情がどうであれ、君はひよりさんを傷付けた元凶だ。その君と僕が仲良くしていたら、彼女は絶対に不安になる。僕はそれを望まない。だから、近付かないでくれ」

 

「あ……!?」

 

 そこでようやく、私は逆光で見にくくなっていた尾上の顔を見た。

 あいつは……まるで興味のないものを見るような、そんな冷たい目で私のことを見つめている。

 そこには欲望も歓喜もなく、ただただ私なんてどうでもいい存在として認識してる、機械を思わせる無機質さがあった。

 

「……僕はもう行くよ。こうして君と二人きりで話している状況自体が、あまり好ましくないからね」

 

「ま、待って! もう少し話を……!!」

 

 これまでの男たちの中で一番冷たい対応をされた私は、どうにか尾上に縋ろうとする。

 外に人の気配があることは……この場面を、七瀬が目撃していることはわかっていた。

 このままじゃ私はただのピエロだ。あいつを絶望させるはずが、あべこべにこちらが絶望する場面をあいつに見せることになってしまう。

 

 こうなったら強引に抱き着いて、押し倒すくらいのことはしてしまおうかと自棄になり始めた私であったが……冷たい視線を向けてくる尾上の姿を見た瞬間、自分の思考が冷えていくことがわかった。

 

「……もう一度言う、僕に近付くな。絶対に、だ」

 

 無機質で興味のないものを見る目をしていた尾上の瞳に、変化が起きた。

 ただ、それは好ましい変化ではない。無色だった瞳に、嫌悪感という色が滲み始めている。

 

 尾上は私のことを、どうでもいい存在から明確な敵へと認識を変えた。

 文字通り、それを一目で理解してしまった私が凍り付く中、あいつは吐き捨てるように一言残してから家庭科室を出ていく。

 

「……命令を訂正するよ。僕だけじゃなく、ひよりさんにも近付くな。彼女の笑顔を曇らせるような真似を、二度とするんじゃない」

 

 乱暴にドアが閉じられる音を耳にして、尾上ともう一つの気配が家庭科室の前から去っていくことを感じて……そうやって立ち尽くしていた私は、込み上げてきた屈辱に歯を食いしばる。

 握り締めた拳を近くの机に叩きつけるも、悔しさは全く晴れないどころか増々強くなっていくばかりだ。

 

「なによ、あの男……っ!! 全然、話と違うじゃない……!!」

 

 江間の同類だと思っていた。七瀬に手を出したのも、体目当てだと聞いていた。

 だけど……全然違う。あいつは、尾上は、七瀬に本気になっているじゃないか。

 

 そういう男にちょっかいをかけて、こっぴどくフラれる。そして、その場面を一番見られたくない女に見られてしまった。

 こんなにも屈辱的で、情けないことが他にあるだろうか? こんなの、ただのピエロだ。私が求める一軍女子の姿ではない。

 

「あいつ、あいつ……っ! 絶対、許さないんだから……!!」

 

 何人もの男たちを取り巻きにしても、あそこまで強く純粋に私のことを想ってくれる奴はいない。

 私が持っていないものを七瀬が手にしていることが悔しくって、憎たらしくって、仕方がなかった。

 

 この屈辱は絶対に忘れない。必ず復讐してやる。

 そう固く誓いながらも……込み上げる悔しさを押し殺すことができずにいた私は、家庭科室で一人、本物の涙を流し続けるのであった。

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