ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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浮気女の罠を掻い潜った後で、ひよりさんと

「いや、全っ然心配してなかったよ!? 雄介くんが紫村に迫られたとして、どこかの馬鹿みたいに絶対にあたしを裏切るなんてあり得ないってわかってたしさ!!」

 

 謎の迫り方をしてきた紫村を振り払った僕は、家庭科室を出たところでひよりさんと出くわした。

 ほぼ間違いなく家庭科室内でのやり取りを見て、聞いていたであろうひよりさんの反応を見た僕は、彼女がこの場にいることは偶然でないことを悟る。

 

(目的はひよりさんへの嫌がらせってところか。楽人に接近したのも、これに関係してたんだろうな)

 

 人を使ってひよりさんを呼び出し、僕と自分が親密にしている場面を見せつける。

 そうすることで江間の浮気を知った時のトラウマを呼び起こして、ひよりさんを傷付けようとしていたのだろう。

 

 どうやら僕は紫村に江間と同類だと思われていたようだ。

 何故、そう思われているのかはわからないし、もしかしたら自分が誘惑すればどんな男も抗えないだろうという絶対的な自信があっての行動だったのかもしれないが……まあ、今となってはどうでもいい。

 

 そうして紫村に呼び出されたであろうひよりさんに声をかけ、屋上までやってきた僕は、そこで焦った様子の彼女から冒頭の言葉を投げかけられた、という状況だ。

 とても慌ただしい雰囲気のひよりさんを見ながら、僕は自分の失態を恥じる。

 

(楽人になんで近付いたのかを調べるために、敢えてあいつの話を聞くことにしたんだけど……失敗だった。声を掛けられた時点で拒絶しておくべきだったな)

 

 親友が直面してしまった問題を解決するために、情報収集をしようと考えた僕の判断は間違いだったかもしれない。

 本気でひよりさんを不安にさせたくないのだったら、紫村と二人でいる状況自体を避けるべきだった。

 

 まさか、彼女がこんな短絡的かつ馬鹿げた嫌がらせを考えていたとは思わなかった僕のミスだなと思いながら、僕は彼女の存在を頭の中から完全に抹消する。

 

 今、僕が考えるべきは紫村のことではない。目の前にいる、誰よりも幸せにしたい恋人のことだ。

 そう考えなおしたところで、小さく笑みを浮かべた僕はゆっくりと腕を開くと、ひよりさんへと言った。

 

「ん……!」

 

「え? 雄介くん……?」

 

 屋上のフェンスに背中を預け、地面に座った状態で腕を開く。

 無言でこちらを見つめてくる視線に少し戸惑った後……僕が何を言わんとしているかを理解したであろうひよりさんは、視線を泳がせながら僕の腕の中に飛び込んできた。

 

「ん~……!! んん~~っ!!」

 

「ふふっ……」

 

 ぼふっ、と僕の胸板に顔を押し付け、唸り声をあげるひよりさんを優しく抱き締める。

 そっと背中を頭を撫でてあげたところで、大きく息を吐いた彼女がぼそりと呟いた。

 

「……ごめん、嘘吐いた。さっき、ちょっとだけ不安になった」

 

 罪悪感をにじませたひよりさんの声に、ちくりと僕の胸が痛む。

 彼女が抱えているトラウマを考えれば、不安になって当然だ。でも、そんな気持ちを抱えてしまうということは、即ち僕を信頼できていないということになると、ひよりさんはそう考えているのだろう。

 

 ひよりさんが自分を責める必要なんてないのに……と考えた僕は、その気持ちを正直に彼女へと伝える。

 

「ひよりさんが謝る必要なんてないよ。僕の方こそ、不用意な真似をしてごめん。僕のせいで、ひよりさんを不安な気持ちにさせちゃった」

 

「雄介くんは何も悪くないって。紫村が言い寄ってきたんだし、話を聞こうとしたのも遊佐くんと優希の問題を解決するためだったんでしょ?」

 

 僕の考えだとか、状況だとかを全部わかってもらえていることに、深く感謝する。

 それと同時に、やっぱりひよりさんは僕のことを信じてくれているんだなと感じる中、彼女が言葉を続けた。

 

「あのさ、雄介くん……ちょっとだけ、お願いを聞いてもらってもいい?」

 

 甘えるように、縋るように、まだ少し瞳に不安の色を残しながらひよりさんが言う。

 なんとなくだが……彼女が何を言おうとしているかがわかった僕は、ひよりさんが願い事を口にする前に動いた。

 

「あっ……!?」

 

 そっと、彼女の背中から離した手を、小さな顔に添える。

 顎に触れ、上を向かせるように持ち上げた後、驚いているひよりさんのかわいらしい顔を微笑みを浮かべながら見つめた僕は、ゆっくりと上から彼女の唇を奪った。

 

「んっ、ん、ふぅ……」

 

 珍しく……本当に珍しく、僕の方から動いたことにさらに驚いたであろうひよりさんの呻きが喉から漏れる。

 しかし、その驚きはすぐさま消えていき、代わりに安堵したような柔らかい声が小さく響いてきた。

 

「ん、んっ……」

 

 くぐもった呻きを漏らすひよりさんの小さな体を、両腕で抱き締める。

 この腕の中にすっぽりと収まってしまう本当に小さな彼女の体を自分の体で包み込みながら長いキスを続けた僕は、目を開けたひよりさんからアイコンタクトを受けて、唇を離した。

 

「……気持ち、落ち着いた?」

 

「落ち着くわけないじゃん、ばかぁ……!!」

 

 耳まで顔を赤くして、恥ずかしさに目に涙を浮かべながら……それでも、どこか嬉しそうに笑うひよりさんの答えに僕も満足気な笑みを浮かべる。

 これで不安は払拭できたかなと安堵する僕の腕の中で、ひよりさんは楽し気に声を弾ませながら口を開いた。

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