ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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まあ、過ぎた(浮気女の)ことはどうでもいいよ

「そうだ、大切なことを言ってなかった。嬉しかったよ、紫村にはっきり言ってくれて。あたしが一番だって言い切ってもらえて、すごく嬉しかった」

 

 そう言って、嬉しそうに笑ったひよりさんが僕の胸に顔を押し当ててくる。

 子猫がじゃれるようにぐりぐりと顔を押し付け、満足気な様子を見せる彼女へと、僕は言った。

 

「当然でしょ? ず~っと前から言ってることだよ」

 

「うん、そうだよね……でもやっぱり、実際に行動として見せてもらえると、すごく安心できるんだ」

 

 ……僕の行動は、ひよりさんの中にあるトラウマを払拭できただろうか?

 かつて自分を裏切った江間とは真逆の行動を取った僕と紫村のやり取りを見て、ひよりさんは心の中にあった不安を掻き消すことができただろうか?

 

 もしも僕の行動が彼女の心の中にある鎖を一つ外す結果につながったとしたら、さっきの会話もただひよりさんを不安にさせただけではなく、意味があるものにできたんじゃないかと……そう考える中、彼女が言う。

 

「本当、幸せにされっぱなしだ。愛され過ぎて困っちゃうね」

 

 甘さと喜びが入り混じるその声を聞いた僕の胸が少し高鳴る。

 困る、と言いながらもどこまでも嬉しそうにしているひよりさんは、小さく息を吐いた後で僕の腕の中から離れていった。

 

「甘えるのはここまでにして、真面目な話をするとさ……紫村の奴、色んな男にさっきみたいな真似をしてるんだよね?」

 

「多分ね。楽人から聞いたけど、バスケ部の人たちも取り巻きにしてるみたいだし……」

 

 昨日は楽人で、今日は僕。節操がない紫村は、多くの男をああやって誘惑しているようだ。

 最初はひよりさんへの嫌がらせのために僕を使おうとしたんだろうと思っていたが……楽人から聞いた話を思い返すと、それだけではないような気もする。

 

「……でも、正直あいつのことはどうでもいいかな。二度と近付くなって釘も刺したし、これ以上何かするようなら、吾郎さんたちに報告すればいいしさ」

 

 ただ、僕の結論としては『紫村のことなんてどうでもいい』に尽きる。

 警戒は必要だが、敢えて彼女が何を考えているかだとか、どんな状況に陥っているだとかを調べようだなんて思わない。

 紫村に近付くということは、ひよりさんが嫌な思いをするということだ。それを理解した上で、敢えて彼女に接近する理由は僕にはない。

 

 既に拒絶の意思は示したし、僕だけでなく吾郎さんと睦美さんからもひよりさんに近付くなと釘を刺されているはずだ。

 その上で何かしようとするのならば、僕ではなく相応の力を持つ人に動いてもらえばいい。

 誰かの力を借りるだけで自分は何もしないのかと思われるかもしれないが、ひよりさんに害を成そうとしている相手にわざわざ近付くくらいなら、他力本願の情けない男と思われる方が万倍マシだ。

 

 紫村のことは警戒しつつもこちらから接近するような真似はしないようにしようという僕の提案に頷いてくれたひよりさんであったが、彼女は心配した様子を見せながらこう呟く。

 

「あたしもあいつのことは放置でいいと思う。それよりも、優希と遊佐くんのことが心配でさ……」

 

「そうだね。そっちの方が重要だ」

 

 今、僕たちにとって重要なのは楽人と熊川さんの関係修復についての話だ。

 紫村の目的がひよりさんへの嫌がらせだと伝えれば、多少は熊川さんの怒りも治まるだろうが……すぐに完全に元通りになるとは思えない。

 

 とはいえ、時間がかかり過ぎるのもそれはそれで問題だろう。

 文化祭の準備期間中、その指揮を執る二人が微妙な関係のままだと、クラス全体の士気にも関わる。

 かといって強引に二人の間を取り持っても、それはそれで話がこじれそうだし……と色々考える中、不意にひよりさんがこんなことを言ってきた。

 

「そういえば、来週って三連休だったよね?」

 

「え? ああ、うん。月曜日が祝日だから、確かに三連休だね」

 

 頭の中でカレンダーを確認した僕が、来週は土日月の三連休であるとひよりさんに告げる。

 僕の答えを聞いて頷いた彼女は、何かを思い付いた様子でこう言葉を続けた。

 

「……雄介くん。こういう時って、強いショックを与えると自体が好転することもあるんだよね。例えば、環境を変えてみるとかさ」

 

「環境を変える……? どういうこと?」

 

 いい案を思い付いたであろうひよりさんはどこか自信あり気だが、恋人である僕は知っている。

 彼女が自信満々な時というのは、大体が結構ぶっ飛んだことを思い付いた時なのだ。

 

「それで、ひよりさんはどうするつもりなの?」

 

 それでも大切なひよりさんが何かを思い付いたのだから、しっかりと話は聞いておくべきだと思った僕は、彼女へと話を促した。

 大きく胸を張った彼女は、深く息を吸い、そして――!

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