ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――それからの日々は、特に大きな事件も起きずに過ぎていった。
強いて言うならばやはり楽人と熊川さんの関係はギクシャクしていて、それが微妙に文化祭の準備に影響したくらいだ。
ただ、そうやって時間を過ごす中で熊川さんは冷静になってくれたみたいで、最初の頃のように楽人に対して怒り心頭、といった雰囲気はなくなっている。
逆に楽人は落ち込みを強めていて、それが二人の関係の修復が進まない理由になっているようだった。
そうこうしている間に時は過ぎ、三連休の初日。
駅に集まった僕たちは、新幹線乗り場で緊張と期待を入り混じらせながら話をしていた。
「いや~、ひよりのご両親に感謝しないとね! まさか、旅行に連れてってもらえるだなんて……!!」
「本当にね。至れり尽くせりでちょっと困っちゃうくらいだよ」
「そんな遠慮しないでって! みんなにはたくさん助けてもらったし、そのお礼だって言ってるでしょ?」
「とは言いつつも、ひよりだって本当は尾上くんと二人きりの方が良かったんじゃないの?」
「それはそれ、これはこれ! 今回の旅行はみんなで楽しく食い倒れる! ってことで!!」
女子たちは楽しそうにはしゃぎ、旅行に対する期待を膨らませているようだ。
不安だった親御さんたちへの反応だが、むしろノリノリだったり、放任主義だったりといったおかげで、すんなりと許可をもらえたという。
逆に男の楽人が一番苦戦したらしいという話を思い出して苦笑を浮かべた僕は、その彼へと声をかけた。
「楽人はどう? 新幹線とか、乗るの久しぶりじゃない?」
「あ、ああ……中学の修学旅行の時に乗ったきりかな……?」
僕の問いかけに対して、ぎこちなく反応する楽人。
当然と言えば当然だが、気になっている子も含めた女子たちと旅行に行くとなれば、緊張もするだろう。
「そんなに緊張するなって。普通に遊びに行くのとそう変わらないよ」
「お、おう……!!」
プールや花火大会に行った時と同じだと、そう言って楽人を安心させる。
ただ、やっぱりそれで全てが解決するはずもなくて、まだ落ち着かない様子を見せた親友は飲み物を買いに僕たちから離れてしまった。
「やっぱ遊佐くん、優希とのこと気にしてそう?」
「うん、まあね……」
そんな僕たちの様子を観察していたのか、そっとひよりさんと熊川さんから離れた鉢村さんが僕に話しかけてきた。
ちなみにだが、彼女も今回の仲直り計画の協力者で、事情は話してある。
鉢村さん自身も二人の関係が上手くいっていないことに関して心を痛めていた節があるため、快く協力を引き受けてくれた感じだ。
親友と関係をこじらせてしまった楽人を心配している彼女が、目を細めながら僕へと言う。
「もう少し、遊佐くんの気持ちを明るくしておきたいかな。優希の方はそこまで心配する必要ないと思うからさ」
「うん……楽人が気落ちし過ぎてると、それはそれで謝りにくい空気になっちゃうもんね……」
楽人が嵌められたことも、紫村に靡いたわけじゃないことも、もう熊川さんは理解している。
最初の頃の怒りも治まったし、きっかけさえあれば仲直りもできるはずだ。
ただ、そこで楽人が自責の念に駆られ過ぎて、気落ちしていると空気が微妙になる。
謝って関係を修復できても、楽人の気持ちが上向きにならなければ何の意味もないと……ちょっと面倒な状態になっている親友たちのことを思う僕へと、鉢村さんが言った。
「まあ、そこはいくらでもチャンスがあると思うよ? 私とひより、尾上くんの三人がかりでチャンスを作るわけだしさ」
「そうだね。そのためにもまずは、二人に気持ちを整理してもらわないと」
本格的なイベントは目的地に着いてからだ。
新幹線の中でまだ散らかっているであろう二人の感情を整えておくことで作戦の準備をしておこうと決めた僕たちへと、ひよりさんが大声で言う。
「あっ! 新幹線、来たよ~!」
思ったよりもずっと静かにホームに入ってきた新幹線を見た僕は、純粋な旅への期待で胸を少しだけ躍らせた。
みんなと一緒に中に入り、席に座ったところで……隣に座る楽人が声をかけてくる。