ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
電車に乗ってからおよそ三時間後、僕たちは目的地である大阪に到着した。
地元とは違う雰囲気を感じて期待を疼かせながら、まずは宿泊先であるホテルに向かって荷物を置いた後、本格的に動き出す。
「よっしゃ~! 今日は食い倒れるぞ~っ!!」
「食べて食べて食べまくりだ~っ!」
テンション高めなひよりさんと熊川さんを笑みを浮かべながら見守りつつ、人で賑わう通りを確認する。
事前にリストアップしておいた美味しいたこ焼きのお店を探しながら歩く僕たちは、想像以上の人の数に少し面食らってもいた。
「ひ、人、多いね。流石は大阪って感じだ……!!」
「連休中ってこともあるから、人で賑わってるんでしょ。みんな、はぐれないようにね」
元々がエネルギッシュな街ということもあるのだろうが、それに加えて今は連休中ということもあって外出する人が多いのだろう。
人でごった返す……とまではいかないが、土地勘のない場所ではぐれたら色々と大変だぞと考えたところで、僕はひよりさんに声をかける。
「ひよりさん、大丈夫? 大変じゃない?」
「うぅ、ちょっとだけしんどいかも……」
背が低いひよりさんは僕たちと比べて歩幅も小さい。人ごみの中を中を歩くのにも僕たち以上の労力がかかるはずだ。
少し歩くペースを落としてはいるが、みんなに迷惑をかけるわけにもいかないし……と思いつつ、僕は彼女に手を伸ばす。
「とりあえず、手を繋ごっか? そうすれば、少なくとも一人ではぐれることはなくなるしさ」
「う、うん、そうだね……!!」
人ごみに飲まれたひよりさんがどこか知らない場所に押し流されてしまったら一大事だ。
普段もそうしているし、手を繋げば安心だろうと考えた僕が彼女の小さな手を掴んだところで、背後から口笛が響く。
「ひゅ~っ、お二人さんは旅行先でも仲良しで羨ましいね~!」
「あ、いや、そのぉ……」
ニヤニヤと笑いながら僕をからかってきた鉢村さんが楽しそうに頷く。
気を抜いていたせいでマズいネタを与えてしまったぞと少し後悔する中、鉢村さんはこれまた楽しそうにこう言ってきた。
「仲直りが目的の旅行だってことはわかってるけど、やっぱ事あるごとにイチャつけるのは強いわ。流石の熱々っぷりって感じ」
「そ、そんなにからかわないでよ! これはあたしがはぐれないようにするって意味もあるんだからさ!」
「それはそうかもしんないけどさ、もうスムーズに手を繋げるようになってるんだなって、見る側からすると思っちゃうわけよ」
「うんうん、それはそうだね! 二人の仲が順調に進展してて微笑ましいとも思うけどさ!」
「優希まで! もう……!!」
鉢村さんに続いて参戦してきた熊川さんの言葉に、ひよりさんがぷくっと頬を膨らませる。
これは僕も迂闊だったなと苦笑する間も、二人の会話は続いていく。
「奥さん、どうしましょう? お部屋、男子と女子で分かれてますけど、ここは気を使って雄介くんの部屋にひよりを送るべきじゃあありませんこと?」
「そうした方がいいかもしれませんわね~! お若い二人に夫婦だけの時間を作ってあげるのも、
「くぅぅ……! 調子に乗って、好き勝手言ってくれちゃってぇ……!!」
おほほほほほほ! とお嬢様(というよりどこぞのマダム)っぽい笑い方をする二人へと、ひよりさんが恥ずかしさと悔しさをにじませながら地団太を踏む。
そんな中、あることを思った僕は素直にそれを二人へとぶつけてみることにした。
「ひよりさんを僕の部屋に送って、二人きりにしてもらえるのはありがたいと言えばありがたいけど……その場合、そっちの部屋に楽人が行くことにならない? 熊川さんと鉢村さん、そこは大丈夫なの?」
「んっ? ん~? んん……?」
僕から反撃されるとは思っていなかったのか、面食らった熊川さんがその事実について考え始めると共に妙な唸り声を上げる。
今が好機だとその反応から見て取ったひよりさんは、彼女に対してこんなことを言ってみせた。
「あ~、なるほど? つまりはあれだ? あたしと雄介くんを利用して、遊佐くんを自分の部屋に引き込もうとしたわけだ? 策士だな~!」
「いや、違うって! そんなことするわけないじゃん!」
「え~っ? ホントでござるか~? 理由ならあると思うんだけどな~?」
「玲香!? なんで急にそっち側に回るわけ!? ってか理由って何よ!?」
「そりゃあほら、遊佐くんと二人で話したいこととかあるんじゃない?」
「そっ、そんなのないよ! そんな、わざわざ二人きりで話すことなんてあるわけないじゃん!!」
「えっ? 文化祭についての打ち合わせとか、たこ焼きに関するあれこれとかあるでしょ? そんなに焦っちゃって、優希は何を考えたのかな~?」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
ひよりさんからの反撃とまさかの鉢村さんの裏切りに動揺した熊川さんが必死に反論するも、旗色が悪そうだ。
女の子っていつでもどこでも楽しそうでいいな~と、三人のやり取りを見ながらのほほんと考えていたところで、楽人の声が響く。
「お~い! 探してたお店、見つかったぞ~!!」
「ほっ、ほら! お店見つかったって! 遊佐くんを待たせたら悪いし、さっさと行こ!!」
これ幸いにと窮地を脱した熊川さんが大股で楽人の方へと歩き出す。
思っていた以上にわだかまりが消えていることを読み取った僕もまた、安堵すると共にお店へと入っていった。